2.4. 人間中心設計

1. 概要

 人間中心設計(HCD: Human-Centered Design)は、システムやプロダクトの設計において、ユーザーのニーズや要求を中心に据えるアプローチです。この設計手法は、JIS Z 8530(ISO 9241-210)として標準化されており、ユーザビリティ(使いやすさ)を向上させるためのガイドラインを提供します。具体的には、ユーザーの行動や思考を考慮し、最終的なプロダクトがどれだけ効果的に利用されるかを確保することを目指しています。人間中心設計の重要性は、プロダクトの使いやすさや効率的な利用を確保することにあり、その結果、ユーザー満足度やエンゲージメントの向上に寄与します。

2. 詳細説明

2.1. 人間中心設計のプロセス

 JIS Z 8530(ISO 9241-210)に基づく人間中心設計のプロセスは、以下の4つの主要なステップで構成されています:

  1. 利用状況の理解及び明示
  2. ユーザ要求事項の明示
  3. ユーザ要求事項に対応した設計解の作成
  4. ユーザ要求事項に対する設計の評価

2.2. 各ステップの詳細

2.2.1. 利用状況の理解及び明示

 このステップでは、ユーザーの特性、タスク、環境を含む利用状況を把握します。ユーザー調査(インタビュー、アンケート)やタスク分析、観察などの手法を用いて、ユーザーの行動パターンやニーズに関する詳細な情報を収集します。たとえば、特定のユーザーグループがどのような状況でシステムを使用するのかを理解するために、フィールド調査を行うことがあります。

2.2.2. ユーザ要求事項の明示

 収集した情報をもとに、ユーザーのニーズや期待を明確化します。これには、機能的要求(例:特定のタスクを迅速に完了できること)だけでなく、使いやすさ(例:直感的な操作)や学習のしやすさ(例:新しいユーザーでも短期間で習得可能)といった非機能要求も含まれます。この段階で、ペルソナやユーザーシナリオの作成が行われることもあります。

2.2.3. ユーザ要求事項に対応した設計解の作成

 明確化された要求事項に基づいて、具体的な設計案を作成します。この段階では、プロトタイピング(試作)やモックアップの作成が行われ、ユーザーが直接触れてフィードバックを得ることが可能なインターフェースを構築します。これにより、初期の段階で設計上の問題を発見し、修正する機会を得ることができます。

2.2.4. ユーザ要求事項に対する設計の評価

 作成された設計案をユーザーの要求事項に照らし合わせて評価します。ユーザビリティテスト(ユーザーが実際にプロダクトを操作する様子を観察)やヒューリスティック評価(専門家が既存のガイドラインに基づいて評価)に加え、ユーザーインタビューやフィードバック収集も活用します。これにより、設計の妥当性を検証し、必要に応じて改良を加えることができます。

3. 応用例

3.1. ウェブサイトデザイン

 あるECサイトの設計では、ユーザーの購買行動を詳細に分析し、簡潔で分かりやすい商品検索機能や直感的なチェックアウトプロセスを実装することで、コンバージョン率を20%向上させた例があります。具体的には、ユーザーが商品を見つけやすくするためのフィルタ機能の強化や、購入フローのステップ数の削減が行われました。

3.2. モバイルアプリケーション開発

 高齢者向けの健康管理アプリでは、大きなボタン、読みやすいフォント、シンプルな操作フローを採用し、ターゲットユーザーの使用満足度を35%向上させた事例があります。さらに、フィードバック機能を通じてユーザーからの意見を集め、アプリの改良を重ねた結果、日々のアプリ使用率も増加しました。

3.3. 産業機器のインターフェース設計

 工場の生産ラインで使用される制御パネルのデザインに人間中心設計を適用し、オペレーターの作業効率を15%、安全性を20%向上させた例があります。具体的な改善策として、頻繁に使用されるボタンの配置変更や、色の使い分けによる視認性の向上が行われました。

4. 例題

例題1

問題:人間中心設計のプロセスにおいて、「利用状況の理解及び明示」のステップで行うべき活動として、最も適切なものはどれですか。

a) ユーザーインターフェースのプロトタイプを作成する
b) ユーザビリティテストを実施する
c) ユーザーの業務内容やタスクを観察し分析する
d) システムの機能仕様書を作成する

回答:c) ユーザーの業務内容やタスクを観察し分析する

解説:「利用状況の理解及び明示」のステップでは、ユーザーの特性、タスク、環境を含む利用状況を把握することが目的です。したがって、ユーザーの業務内容やタスクを観察し分析することが最も適切な活動となります。選択肢a)とb)は「設計解の作成」や「評価」の段階で行う活動であり、d)は主にシステム開発の初期段階で行われる活動です。

例題2

問題:JIS Z 8530(ISO 9241-210)に基づく人間中心設計のプロセスにおいて、正しい順序で並んでいるものはどれですか。

a) ユーザ要求事項の明示 → 利用状況の理解及び明示 → ユーザ要求事項に対応した設計解の作成 → ユーザ要求事項に対する設計の評価
b) 利用状況の理解及び明示 → ユーザ要求事項の明示 → ユーザ要求事項に対応した設計解の作成 → ユーザ要求事項に対する設計の評価
c) ユーザ要求事項に対応した設計解の作成 → 利用状況の理解及び明示 → ユーザ要求事項の明示 → ユーザ要求事項に対する設計の評価
d) ユーザ要求事項に対する設計の評価 → 利用状況の理解及び明示 → ユーザ要求事項の明示 → ユーザ要求事項に対応した設計解の作成

回答:b) 利用状況の理解及び明示 → ユーザ要求事項の明示 → ユーザ要求事項に対応した設計解の作成 → ユーザ要求事項に対する設計の評価

解説:JIS Z 8530(ISO 9241-210)に基づく人間中心設計のプロセスは、まず利用状況を理解し、次にユーザー要求事項を明確にします。その後、要求事項に基づいて設計解を作成し、最後に設計を評価します。この順序で進めることで、ユーザーのニーズに適合したシステムやプロダクトを効果的に設計することができます。

5. まとめ

 人間中心設計は、ユーザビリティ

の向上を目的とした設計アプローチです。JIS Z 8530(ISO 9241-210)に基づく4つの主要なステップ(利用状況の理解及び明示、ユーザ要求事項の明示、ユーザ要求事項に対応した設計解の作成、ユーザ要求事項に対する設計の評価)を繰り返し適用することで、ユーザーのニーズに適合した製品やシステムを開発することができます。これにより、ウェブサイト、モバイルアプリ、産業機器など、様々な分野でユーザー満足度の向上や業務効率の改善が実現されています。