5.2.1. 制御の考え方、仕組み

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1. 概要

 制御とは、ある対象(システム)の状態を望ましい状態に保つために、何らかの操作を加えることを指します。私たちの日常生活からコンピュータシステム、工場の自動化設備まで、さまざまな場所で制御技術が活用されています。制御技術は、機械やシステムを自動的に動作させるための基盤となる重要な技術です。

 特に情報処理技術の発展により、MPUアーキテクチャリアルタイムOSを活用した高度な制御システムが実現可能となり、産業界から家電製品まで幅広い分野で応用されています。制御の考え方と仕組みを理解することは、システム設計者として必須の知識となっています。

2. 詳細説明

2.1. 制御システムの基本構成

 制御システムは一般的に以下の要素から構成されます。

  1. 制御対象:制御したい対象(プラント)
  2. 検出部:制御対象の状態を検出するセンサー
  3. 制御装置:検出した情報を基に操作量を決定する装置
  4. 操作部:操作量に応じて制御対象に作用を与える装置
 flowchart LR
 A[目標値] --> B[制御装置]
 B --> C[操作部]
 C --> D[制御対象]
 D --> E[出力]
 E -.-> F[検出部]
 F -.-> B
style A fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
style B fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
style C fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
style D fill:#ffe6cc,stroke:#333,stroke-width:1px
style E fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
style F fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
図1:制御システムの基本構成図

2.2. 制御の種類

2.2.1. フィードバック制御(閉ループ制御/クローズドループ制御)

 フィードバック制御は、制御対象の出力を常に検出し、設定値(目標値)と比較して、その差(偏差)に基づいて制御を行う方式です。偏差をゼロにするように制御を続けるため、外乱の影響を抑制する効果があります。

 フィードバック制御の特徴として、以下が挙げられます:

  • 出力を検出してフィードバックするため、**制御安定性**が高い
  • 外乱に強い
  • 設定値への追従性が良い
  • 制御系に遅れがあると**応答特性**が悪化する可能性がある
flowchart LR
    A[目標値] --> B{比較器}
    B --> C[制御装置]
    C --> D[操作部]
    D --> E[制御対象]
    E --> F[出力]
    F -- フィードバック --> G[検出部]
    G --> B
    style A fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style B fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style C fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style D fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style E fill:#ffe6cc,stroke:#333,stroke-width:1px
    style F fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style G fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
図2:フィードバック制御のブロック図

2.2.2. フィードフォワード制御(先行制御)

 フィードフォワード制御は、外乱や設定値の変化を事前に検出し、その影響を予測して制御量を決定する方式です。フィードバック制御と比較して応答が速いという特徴がありますが、モデルの精度に依存するため、モデル化誤差がある場合は精度が低下します。

 flowchart LR
 A[目標値] --> B[制御装置]
 H[外乱] --> I[外乱予測モデル]
 I --> B
 B --> C[操作部]
 C --> D[制御対象]
 H --> D
 D --> E[出力]
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style B fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
style C fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
style D fill:#ffe6cc,stroke:#333,stroke-width:1px
style E fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
style H fill:#ffcccc,stroke:#333,stroke-width:1px
style I fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
図3:フィードフォワード制御のブロック図

2.2.3. オープンループ制御

 オープンループ制御は、出力の状態をフィードバックせずに、あらかじめ決められた制御則に従って制御を行う方式です。構成がシンプルで低コストという利点がありますが、外乱に弱く、制御対象の特性変化に対応できないという欠点があります。

flowchart LR
    A[目標値] --> B[制御装置]
    B --> C[操作部]
    C --> D[制御対象]
    D --> E[出力]
    
    style A fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style B fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style C fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style D fill:#ffe6cc,stroke:#333,stroke-width:1px
    style E fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
図4:オープンループ制御のブロック図
制御方式 特徴 長所 短所 代表的な応用例
フィードバック制御
(クローズドループ制御)
出力を検出して偏差を最小化 外乱に強い、安定性が高い 応答が遅れる場合がある エアコンの温度制御、自動車のクルーズコントロール
フィードフォワード制御 外乱や設定値変化を予測して制御 応答が速い モデル精度に依存 炊飯器の加熱制御、化学プラントのプロセス制御
オープンループ制御 フィードバックなしの一方向制御 構成がシンプル、低コスト 外乱に弱い、特性変化に対応不可 タイマー制御、定速モーター
表1:制御方式の比較表

2.3. 制御手法

2.3.1. ON/OFF制御

 最もシンプルな制御方式で、設定値を基準にONとOFFを切り替える制御です。家庭用エアコンや冷蔵庫などで広く使用されています。ただし、頻繁なON/OFF切り替えによるハンチング(振動)が発生する欠点があります。

2.3.2. PID制御

 偏差に対して比例(P)、積分(I)、微分(D)の3つの要素を組み合わせた制御方式です。

  • 比例制御(P制御):偏差に比例した操作量を出力
  • 積分制御(I制御):偏差の累積値に比例した操作量を出力
  • 微分制御(D制御):偏差の変化率に比例した操作量を出力
制御要素 役割 効果 欠点
比例制御(P) 偏差に比例した操作量を出力 応答が速い 定常偏差が残る
積分制御(I) 偏差の累積値に比例した操作量を出力 定常偏差を除去 オーバーシュートが発生しやすい
微分制御(D) 偏差の変化率に比例した操作量を出力 応答を安定化、オーバーシュート抑制 ノイズに弱い
表2:PID制御の各要素の役割と特性

2.3.3. PWM制御

 PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御は、パルス信号のデューティ比(ONの時間の割合)を変化させることで、平均電圧を制御する方式です。モーターの速度制御や、LEDの明るさ制御などに広く使用されています。

3. 応用例

3.1. 産業機器での応用

 工場の製造ラインでは、リアルタイムOSを搭載した制御システムが多く使用されています。例えば、ロボットアームの位置制御や、温度・圧力などのプロセス制御において、精密なフィードバック制御が実現されています。

3.2. 自動車での応用

 自動車のエンジン制御では、フィードバック制御とフィードフォワード制御を組み合わせたシステムが採用されています。エンジンの回転数、スロットル開度、酸素センサーからの情報を基に、最適な燃料噴射量を制御します。また、ABS(アンチロックブレーキシステム)は、車輪のロックを防ぐためのフィードバック制御の典型例です。

3.3. 家電製品での応用

 エアコンの温度制御は、フィードバック制御の代表的な例です。室温センサーで検出した温度と設定温度の差に基づいて、コンプレッサーの動作を制御します。また、炊飯器では、米の種類や水量に応じて、加熱時間や温度パターンを制御するフィードフォワード制御が使用されています。

3.4. コンピュータシステムでの応用

 MPUアーキテクチャを持つコンピュータシステムでは、CPUの温度制御にフィードバック制御が使用されています。温度センサーで検出したCPU温度に基づいて、ファンの回転数をPWM制御で調整します。また、ハードディスクのヘッド位置決め制御では、位置誤差を最小化するためのフィードバック制御が採用されています。

4. 例題

例題1

 あるシステムにおいて、次のような制御方式が採用されています。これはどのような制御方式といえますか。

「目標値と検出値の偏差に基づいて制御を行い、外乱の影響を抑制する」

 これはフィードバック制御(閉ループ制御/クローズドループ制御)です。フィードバック制御は、出力(検出値)を常に監視し、目標値との偏差に基づいて制御することで、外乱の影響を抑制する特徴があります。

例題2

 次の記述のうち、オープンループ制御の特徴として正しいものはどれですか。

  1. 制御対象の出力を検出して制御を行う
  2. 外乱に対して強い特性を持つ
  3. 制御対象の特性変化に対応できる
  4. 出力の状態をフィードバックせずに制御を行う

 正解は4です。オープンループ制御は、出力の状態をフィードバックせずに、あらかじめ決められた制御則に従って制御を行う方式です。そのため、外乱に弱く、制御対象の特性変化に対応できないという特徴があります。

例題3

 PWM制御の説明として正しいものを選びなさい。

  1. パルス信号の周波数を変化させることで平均電圧を制御する方式
  2. パルス信号のデューティ比を変化させることで平均電圧を制御する方式
  3. アナログ信号をデジタル信号に変換する方式
  4. 複数のセンサーからの入力を切り替える方式

 正解は2です。PWM(Pulse Width Modulation:パルス幅変調)制御は、パルス信号のデューティ比(ONの時間の割合)を変化させることで、平均電圧を制御する方式です。モーターの速度制御や、LEDの明るさ制御などに広く使用されています。

例題4

 PID制御において、ある制御システムで次のような問題が発生しています。それぞれの問題に対して、どのパラメータを調整すべきかを答えなさい。

  1. 目標値に達するまでに時間がかかりすぎる
  2. 目標値に達した後も小さな偏差が残る
  3. 目標値付近で大きなオーバーシュートが発生する
  1. P(比例)ゲインを大きくする:応答速度が向上します
  2. I(積分)ゲインを大きくする:定常偏差を除去する効果があります
  3. D(微分)ゲインを大きくする:オーバーシュートを抑制する効果があります

5. まとめ

 本記事では、制御の考え方と仕組みについて解説しました。制御システムは、フィードバック制御、フィードフォワード制御、オープンループ制御などの基本的な制御方式があり、それぞれ特徴と適用分野が異なります。

 特に重要なポイントは以下の通りです:

  1. フィードバック制御(クローズドループ制御)は出力を検出して偏差を最小化する制御方式で、制御安定性が高い
  2. フィードフォワード制御は外乱や設定値変化を予測して制御を行う方式で、応答特性が良い
  3. オープンループ制御はフィードバックを行わない単純な制御方式だが、外乱に弱い
  4. PWM制御はパルス幅を変調して平均電力を制御する方式で、電子機器で広く使用されている
  5. リアルタイムOSMPUアーキテクチャは、高度な制御システムを実現するための基盤技術となっている

 制御技術は現代の情報処理システムや産業システムに不可欠であり、情報処理技術者として理解すべき重要な基礎理論です。

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