5.2.2. センサー・アクチュエーターの種類と動作特性

1. 概要

 センサーとアクチュエーターは、コンピュータ制御システムにおいて中核を成す重要な構成要素です。センサーは物理的な状態や変化を検出して電気信号に変換し、アクチュエーターはコンピュータからの指令を受けて物理的な動作や変化を生み出します。この両者がコンピュータと連携することで、様々な制御システムが実現されています。

 現代社会において、自動車の自動運転技術、工場のオートメーション、スマートホームシステム、医療機器など、多くの分野でセンサーとアクチュエーターを活用した制御システムが広く利用されています。これらの技術を理解することは、情報処理技術者として基礎的かつ重要な知識となります。

graph LR
    A[制御対象] -->|物理量| B[センサー]
    B -->|電気信号| C[コンピュータ]
    C -->|制御指令| D[アクチュエーター]
    D -->|物理的動作| A
    style A fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px
    style B fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style C fill:#bfb,stroke:#333,stroke-width:2px
    style D fill:#fbf,stroke:#333,stroke-width:2px
図1: センサーとアクチュエーターの基本構成図

2. 詳細説明

2.1. センサーの基本原理と種類

graph LR
A[センサーの分類] --> B[光学系センサー]
A --> C[位置・運動検出センサー]
A --> D[環境計測センサー]
A --> E[特殊センサー]
B --> B1[光学センサー]
B --> B2[イメージセンサー]
B --> B3[レーザーセンサー]
B --> B4[LiDAR]
B --> B5[赤外線センサー]

C --> C1[磁気センサー]
C --> C2[位置センサー]
C --> C3[加速度センサー]
C --> C4[ジャイロセンサー]

D --> D1[温度センサー]
D --> D2[湿度センサー]
D --> D3[圧力センサー]
D --> D4[超音波センサー]

E --> E1[生体センサー]
E --> E2[ひずみゲージ]
E --> E3[サーミスタ]
E --> E4[ホール素子]

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style B fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px
style C fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px
style D fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px
style E fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px
図2: 主要なセンサーの分類と例

 センサーは、物理量を電気信号に変換する装置です。様々な物理現象に対応した多種多様なセンサーが存在します。

2.1.1. 光学系センサー

 光学センサーは、光の強度や波長などを検出するセンサーです。照明の自動制御や物体の存在検知などに利用されます。

 イメージセンサーは、画像情報を電気信号に変換するセンサーで、デジタルカメラやスマートフォンのカメラに使用されています。CCD型やCMOS型があります。

 レーザーセンサーは、レーザー光を利用して距離や位置を測定するセンサーです。高精度な位置測定が可能です。

 距離センサーは、対象物までの距離を測定するセンサーで、障害物検知や自動運転システムなどに使用されます。

 LiDAR(Light Detection And Ranging:レーザーレーダー)は、レーザー光を照射して反射光を検出することで周囲の3D形状を把握するセンサーです。自動運転車や測量に広く使用されています。

 ミリ波レーダーは、ミリ波帯の電波を利用して物体の検出や距離・速度の測定を行うセンサーです。悪天候下でも使用可能という特徴があります。

 赤外線センサーは、赤外線を検出するセンサーで、熱を感知する用途や暗闇での物体検出などに使用されます。

 X線センサーは、X線を検出するセンサーで、医療用診断装置や非破壊検査などに使用されます。

 ToF(Time of Flight)センサーは、光が対象物に当たって戻ってくるまでの時間を計測し、距離を算出するセンサーです。AR/VRや3Dスキャンなどに利用されています。

図3: 光学センサーの動作原理図

図4: LiDARの動作原理と応用例

2.1.2. 位置・運動検出センサー

 磁気センサーは、磁場の変化を検出するセンサーです。方位計や位置検出などに使用されます。

 地磁気センサーは、地球の磁場を検出するセンサーで、スマートフォンなどの電子コンパスに利用されています。

 位置センサーは、物体の位置を検出するセンサーで、ロボットの制御や工作機械などに使用されます。

 速度センサーは、物体の速度を検出するセンサーで、自動車の速度計や工業用モーターの制御などに使用されます。

 加速度センサーは、物体の加速度を検出するセンサーで、スマートフォンの画面回転検知や自動車のエアバッグ制御などに使用されます。

 ジャイロセンサーは、角速度を検出するセンサーで、ドローンや自動車の姿勢制御などに使用されます。

 慣性計測装置(IMU)は、加速度センサーとジャイロセンサーを組み合わせた装置で、移動体の姿勢や動きを正確に把握するために使用されます。

2.1.3. 環境計測センサー

 超音波センサーは、超音波の反射を利用して距離を測定するセンサーです。駐車支援システムや水位計測などに使用されます。

 温度センサーは、温度を検出するセンサーで、エアコンの温度制御や工業プロセスの温度管理などに使用されます。

 湿度センサーは、湿度を検出するセンサーで、空調システムの制御や気象観測などに使用されます。

 圧力センサーは、圧力を検出するセンサーで、気象観測や工業プロセスの圧力管理などに使用されます。

 大気圧センサーは、大気圧を検出するセンサーで、気象予測や高度計測などに使用されます。

2.1.4. 特殊センサー

 ウェアラブル生体センサーは、心拍数や体温などの生体情報を計測するセンサーで、健康管理や医療モニタリングに使用されます。

 ひずみゲージは、物体の変形(ひずみ)を電気抵抗の変化として検出するセンサーで、構造物の応力測定などに使用されます。

 サーミスタは、温度変化に応じて電気抵抗が変化する素子で、温度センサーとして広く使用されています。

 ホール素子は、磁場の強さに応じて電圧を発生する素子で、位置検出や電流測定などに使用されます。

2.2. アクチュエーターの基本原理と種類

 アクチュエーターは、電気信号を物理的な動作や力に変換する装置です。様々な駆動方式のアクチュエーターが存在します。

2.2.1. 電気式アクチュエーター

 ブラシレスDCモーターは、電子的に制御される永久磁石型のモーターで、高効率・高寿命という特徴があります。ドローンやハードディスクドライブなどに使用されています。

 DCサーボモーターは、位置や速度を精密に制御できるモーターで、ロボットやCNC工作機械などに使用されています。フィードバック制御により、高精度な位置決めが可能です。

 ステッピングモーターは、パルス信号によって一定の角度ずつ回転するモーターで、プリンターや3Dプリンターなどに使用されています。オープンループ制御でも比較的正確な位置決めが可能です。

 ソレノイドは、電磁石を利用して直線運動を生み出すアクチュエーターで、バルブの開閉や電子錠などに使用されています。通電時に一方向に動き、非通電時にはばねの力で元の位置に戻るシンプルな構造です。

モーターの種類 構造 特徴 制御方式 主な用途
ブラシレスDCモーター 永久磁石回転子と電子的に切り替える固定子コイル 高効率、長寿命、高出力密度 電子コミュテーション ドローン、HDDスピンドル、電動工具
DCサーボモーター 永久磁石と巻線回転子、位置センサー付き 高精度、高応答性、広い制御範囲 フィードバック制御(位置・速度・トルク) ロボット、CNC工作機械、精密機器
ステッピングモーター 複数の磁極を持つ回転子と固定子 離散的な回転角度、ホールディングトルク有り オープンループ(パルス数で位置制御) プリンター、3Dプリンター、カメラレンズ
図5: 各種モーターの構造と特性比較表

2.2.2. 流体式アクチュエーター

 油圧シリンダは、油圧を利用して直線運動を生み出すアクチュエーターで、建設機械や産業機械などに使用されています。大きな力を発生できるという特徴があります。油圧システムは、ポンプ、バルブ、シリンダなどから構成され、高圧の作動油によって力を伝達します。

 空気圧シリンダは、圧縮空気を利用して直線運動を生み出すアクチュエーターで、工場の自動化設備や空気圧工具などに使用されています。軽量で柔軟な動作が可能です。空気圧システムは、コンプレッサー、レギュレーター、バルブ、シリンダなどから構成され、圧縮空気によって力を伝達します。

2.3. センサー・アクチュエーターによる制御システム

 コンピュータ制御システムでは、センサーで検出した情報をコンピュータが処理し、その結果に基づいてアクチュエーターを制御します。これにより、様々な物理量(光、温度、圧力など)を一定に保つフィードバック制御や、目標値に追従させるフォローアップ制御などが実現されます。

 制御システムでは、センサーの精度や応答速度、アクチュエーターの出力特性や応答性などが重要な要素となります。これらの特性を理解して適切な選定と制御プログラムの設計を行うことが、高性能な制御システムを構築するために不可欠です。

graph LR
    A[目標値] --> B{比較器}
    B --> C[コントローラ]
    C --> D[アクチュエーター]
    D --> E[制御対象]
    E --> F[センサー]
    F --> G[フィードバック値]
    G --> B
    
    style A fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px
    style B fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style C fill:#bfb,stroke:#333,stroke-width:2px
    style D fill:#fbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style E fill:#fbb,stroke:#333,stroke-width:2px
    style F fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style G fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:2px
図6: 制御システムのフィードバック制御図

3. 応用例

3.1. 工業分野での応用

 工場のオートメーションシステムでは、様々なセンサーとアクチュエーターが使用されています。例えば、生産ラインでは、光学センサーやイメージセンサーを使用して製品の位置や外観検査を行い、ロボットアームなどのアクチュエーターを制御して組立や搬送作業を自動化しています。

 また、プロセス制御では、温度センサーや圧力センサーを使用して製造プロセスの状態を監視し、バルブやモーターなどのアクチュエーターを制御して適切な状態を維持します。例えば、化学プラントでは、反応槽の温度を温度センサーで検出し、ヒーターやクーラーを制御して一定温度に保ちます。

3.2. 自動車分野での応用

 現代の自動車には、数多くのセンサーとアクチュエーターが搭載されています。エンジン制御システムでは、様々なセンサー(温度センサー、圧力センサー、酸素センサーなど)から得られる情報に基づいて、燃料噴射装置やスロットル弁などのアクチュエーターを精密に制御しています。

 自動運転技術では、LiDARやミリ波レーダー、カメラ(イメージセンサー)などを組み合わせて周囲の状況を認識し、ステアリング、ブレーキ、アクセルなどのアクチュエーターを制御して車両の動きをコントロールします。また、車両の安定性制御システム(ESC)では、加速度センサーやジャイロセンサーを使用して車両の挙動を検知し、各車輪のブレーキを個別に制御して安全性を確保しています。

図7: 自動車の自動運転システムにおけるセンサー配置イメージ

3.3. 医療分野での応用

 医療機器では、高度なセンサー技術とアクチュエーター技術が活用されています。例えば、血糖値モニタリングシステムでは、生体センサーを使用して血糖値を測定し、必要に応じてインスリンポンプを制御してインスリンを適量投与します。

 手術支援ロボットでは、高精度なイメージセンサーやToFセンサーなどを用いて手術部位の状態を把握し、精密なサーボモーターで制御された多関節ロボットアームを操作して、正確な手術操作を実現しています。

3.4. スマートホーム・IoT分野での応用

 スマートホームシステムでは、様々なセンサーとアクチュエーターを組み合わせて、快適性や省エネルギー性の向上を図っています。例えば、温度センサーや湿度センサー、光センサーなどを用いて室内環境を監視し、エアコンや照明などのアクチュエーターを自動制御します。

 IoT(モノのインターネット)デバイスでは、小型化・低消費電力化されたセンサーとアクチュエーターが活用されています。例えば、ウェアラブルデバイスでは、加速度センサーやジャイロセンサー、生体センサーなどを組み合わせて利用者の活動や健康状態を検知し、振動モーターやディスプレイで情報をフィードバックします。

4. 例題

例題1

 自動車の自動ブレーキシステムで使用されているセンサーとアクチュエーターの組み合わせとして、最も適切なものを次の選択肢から選びなさい。

  1. センサー:加速度センサー、アクチュエーター:DC サーボモーター
  2. センサー:温度センサー、アクチュエーター:空気圧シリンダ
  3. センサー:ミリ波レーダー、アクチュエーター:油圧シリンダ
  4. センサー:湿度センサー、アクチュエーター:ステッピングモーター

 正解は c. です。
 自動ブレーキシステムでは、前方の障害物を検知するためにミリ波レーダーやLiDARなどのセンサーが使用されます。ミリ波レーダーは、悪天候下でも使用可能で、前方車両との距離や相対速度を検出できます。また、ブレーキアクチュエーターとしては、大きな力を発生できる油圧シリンダが一般的に使用されています。

例題2

 工場のロボットアームの制御システムについて、次の記述のうち誤っているものを選びなさい。

  1. ロボットアームの関節位置の検出には、位置センサーやエンコーダーが使用される。
  2. ロボットアームの駆動には、精密な位置制御が可能なDCサーボモーターが適している。
  3. ロボットアームの姿勢制御には、加速度センサーやジャイロセンサーが使用されることがある。
  4. 温度センサーは、ロボットアームの位置決め精度を向上させるために最も重要なセンサーである。

 正解は d. です。
 温度センサーは、モーターやアーム機構の温度監視に使用されることはありますが、位置決め精度の向上に直接寄与する主要なセンサーではありません。ロボットアームの位置決め精度を向上させるためには、高精度な位置センサーやエンコーダー、場合によっては慣性計測装置(IMU)などが重要です。

例題3

 次のセンサーとその原理の組み合わせのうち、正しいものを選びなさい。

  1. ToFセンサー – 赤外線の温度依存性を利用して対象物の温度を測定する
  2. ひずみゲージ – 光の反射時間を測定して対象物までの距離を算出する
  3. サーミスタ – 温度による電気抵抗の変化を利用して温度を測定する
  4. ホール素子 – 音波の反射を利用して対象物までの距離を測定する

 正解は c. です。
 サーミスタは、温度によって電気抵抗が変化する特性を持つ半導体素子で、この特性を利用して温度を測定します。ToFセンサーは光の往復時間を測定して距離を算出するセンサー、ひずみゲージは物体の変形を電気抵抗の変化として検出するセンサー、ホール素子は磁場の強さに応じて電圧を発生する素子です。

例題4

 次のアクチュエーターとその特徴の組み合わせのうち、誤っているものを選びなさい。

  1. ブラシレスDCモーター – ブラシの摩耗がなく、高効率で長寿命である
  2. ステッピングモーター – パルス信号により一定角度ずつ回転し、開ループ制御が可能である
  3. 油圧シリンダ – 空気圧シリンダに比べて大きな力を発生できるが、応答性は低い
  4. ソレノイド – 回転運動を生み出すアクチュエーターで、連続的な角度制御に適している

 正解は d) です。
 ソレノイドは、電磁気力を利用して直線運動を生み出すアクチュエーターであり、通常はオン/オフ動作に使用されます。連続的な角度制御に適しているのは、サーボモーターなどの回転型アクチュエーターです。

5. まとめ

 本稿では、コンピュータ制御システムにおけるセンサーとアクチュエーターの種類と動作特性について解説しました。

センサーの種類 検出対象 精度 応答速度 環境影響 主な用途
光学センサー 光の強度・波長 速い 光環境に影響 物体検出、測位
イメージセンサー 画像情報 中~高 中程度 光環境に影響 画像認識、監視
LiDAR 距離・形状 中程度 天候に影響 自動運転、測量
ミリ波レーダー 距離・速度 速い 低影響 自動車安全、監視
加速度センサー 加速度 中~高 速い 振動に影響 姿勢検出、振動検知
ジャイロセンサー 角速度 速い 温度に影響 姿勢制御、ナビゲーション
温度センサー 温度 遅い 熱伝導に影響 温度制御、監視
圧力センサー 圧力 中程度 環境圧に影響 圧力制御、高度計測
表1: センサーの特性比較表

 センサーは物理量を電気信号に変換する装置であり、光学センサー、イメージセンサー、レーザーセンサー、距離センサー、LiDAR、ミリ波レーダー、赤外線センサー、X線センサー、磁気センサー、地磁気センサー、位置センサー、速度センサー、加速度センサー、ジャイロセンサー、慣性計測装置(IMU)、超音波センサー、温度センサー、湿度センサー、圧力センサー、大気圧センサー、ウェアラブル生体センサー、ToFセンサー、ひずみゲージ、サーミスタ、ホール素子など多様な種類があります。

 アクチュエーターは電気信号を物理的な動作や力に変換する装置であり、ブラシレスDCモーター、DCサーボモーター、ステッピングモーター、ソレノイド、油圧シリンダ、空気圧シリンダなどがあります。

 コンピュータ制御システムでは、センサーで検出した光、温度、圧力などの状態をコンピュータが処理し、アクチュエーターを通じて制御対象に働きかけることで、目標とする状態に制御します。これらの技術は工業、自動車、医療、スマートホーム・IoTなど様々な分野で応用されています。

 情報処理技術者として、これらのセンサーとアクチュエーターの特性を理解し、適切に選定・制御することが、効果的な制御システムの設計・開発に不可欠です。