6.4.6. 移行

1. 概要

 システム移行及びソフトウェア移行は、情報システムのライフサイクルにおいて極めて重要な段階です。移行とは、既存のシステムやソフトウェアから新しいものへスムーズに切り替える過程を指し、ビジネスの継続性を保ちながら技術的な刷新を行います。

 移行の主な利点は以下の通りです:

  1. システムの効率化と最適化
  2. 新技術の導入によるビジネス価値の向上
  3. セキュリティの強化
  4. コスト削減

 しかし、移行には多くの技術的・運用的なリスクが伴うため、慎重に計画し実行する必要があります。以下では、移行プロセスにおける主要な手順と留意点について説明します。

2. 詳細説明

2.1. 移行計画の文書化と検証

 移行計画の文書化は、成功する移行プロセスの基盤です。以下の要素を含む詳細な計画を策定し、関係者全員で確認・検証します:

  • 移行の目的と範囲
  • タイムライン
  • 必要なリソース(人員、機材、予算)
  • リスク分析と対策
  • テスト計画

 計画が確定した後は、移行の影響を最小化するため、シミュレーションや検証を通じて計画の妥当性を確認します。

graph TD;
    A[移行計画の構成要素] --> B[移行の目的と範囲]
    A --> C[タイムライン]
    A --> D[必要なリソース]
    A --> E[リスク分析と対策]
    A --> F[テスト計画]
    D --> G[人員]
    D --> H[機材]
    D --> I[予算]

 図1:移行計画の構成要素

2.2. 関係者全員への移行計画などの通知

 移行計画の承認後、以下の関係者に通知を行います:

  • エンドユーザー
  • IT部門
  • 経営陣
  • 外部ベンダー

 通知には、移行のスケジュール、予想されるダウンタイム、ユーザーへの影響、そしてサポート体制に関する詳細が含まれます。特に、ユーザーには移行による業務への影響を最小限にするための情報提供が不可欠です。

graph TD;
    A[移行計画の通知プロセス] --> B[移行計画の確定]
    B --> C[エンドユーザー通知]
    B --> D[IT部門通知]
    B --> E[経営陣通知]
    B --> F[外部ベンダー通知]
    C --> G[スケジュール共有]
    D --> H[影響範囲の通知]
    E --> I[ダウンタイム通知]
    F --> J[サポート体制の確認]

図2:移行計画の通知プロセス

2.3. 新旧環境の並行運用と旧環境の停止

 移行時には、新旧環境を一定期間並行して運用することが推奨されます。これにより、以下のメリットが得られます:

  • 問題発生時のバックアップ
  • データの整合性確認
  • 段階的な移行によるユーザーの適応

 並行運用期間終了後は、計画通りに旧環境を安全に停止し、必要に応じて旧システムからのデータ抽出や移行を実施します。

graph TD;
    A[並行運用開始] --> B[新環境と旧環境の並行稼働]
    B --> C[問題発生時のバックアップ]
    B --> D[データ整合性の確認]
    B --> E[段階的な移行実施]
    E --> F[旧環境の部分停止]
    F --> G[旧環境の完全停止]
    C --> H[バックアップデータの確認]

図3:新旧環境の並行運用フロー

2.4. 関係者全員への移行の通知

 実際の移行作業が開始された際には、再度関係者全員に通知します。この通知には以下の内容を含めます:

  • 移行開始時刻
  • 予想される完了時刻
  • 緊急連絡先

 この段階での通知は、作業進行状況をリアルタイムで関係者に共有することがポイントとなります。

2.5. 移行結果の検証

 移行が完了した後、次の点を重点的に検証します:

  • データの整合性(正確な移行が行われたか)
  • システム機能の正常動作
  • パフォーマンスの改善状況
  • セキュリティ対策の効果

 これらの検証により、移行の成功度合いを評価し、問題点を早期に発見して対策を講じることが可能となります。

graph TD;
    A[移行後の検証プロセス] --> B[データの整合性確認]
    A --> C[システム機能の正常動作確認]
    A --> D[パフォーマンス評価]
    A --> E[セキュリティ対策の確認]
    B --> F[移行データの検証]
    C --> G[主要機能のテスト]
    D --> H[システム負荷テスト]
    E --> I[脆弱性スキャン]

図4:移行後の検証プロセス

2.6. 移行評価

 移行プロセス全体を評価し、以下の点を振り返ります:

  • 目標達成度(初期計画と結果の比較)
  • 発生した問題とその解決策
  • 学んだ教訓と改善点

 これにより、将来の移行プロジェクトにおける改善点を抽出し、次回以降の計画策定に役立てます。

2.7. 旧環境関連データの保持と安全性確保

 旧環境のデータは、一定期間保持する必要があります。保持する期間やデータの扱いは、業界規制や法令を遵守し、以下の点に特に注意を払います:

  • データの完全性維持
  • アクセス制御の適切な管理
  • データのバックアップ体制
  • セキュリティ確保のための暗号化技術の利用
graph TD;
    A[旧環境データの保持とセキュリティ確保] --> B[データの完全性維持]
    A --> C[アクセス制御の実施]
    A --> D[データバックアップ]
    A --> E[法令遵守]
    B --> F[暗号化技術の利用]
    C --> G[権限管理の強化]
    D --> H[バックアップの定期確認]
    E --> I[業界規制の遵守]

図5:旧環境データの保持とセキュリティ確保

3. 応用例

3.1. 金融機関のコアバンキングシステム移行

 ある大手銀行が、旧メインフレームベースのシステムからクラウドベースの最新システムへ移行する例です:

  1. 2年間にわたる詳細な移行計画策定
  2. 複数のテスト環境での徹底的な検証
  3. 支店ごとの段階的移行と新旧環境の並行運用
  4. 24時間体制での監視システムの構築
  5. 顧客への事前通知と影響の最小化

3.2. 製造業のERPシステム移行

 自動車部品メーカーが、複数のレガシーシステムを統合したERPシステムへの移行を行った事例です:

  1. 業務プロセスの再設計と標準化
  2. データクレンジングと変換の徹底
  3. 段階的な部門ごとの移行
  4. エンドユーザーへのトレーニング
  5. 移行後の継続的な改善活動

4. 例題

例題1

問題:システム移行において「新旧環境の並行運用」を行う主な目的を3つ挙げなさい。

回答例:

  1. 問題発生時のバックアップ体制の確保
  2. 新旧システム間のデータ整合性の確認
  3. ユーザーの段階的な新環境への適応

例題2

問題:システム移行計画の文書化に含めるべき重要な要素を5つ挙げなさい。

回答例:

  1. 移行の目的と範囲
  2. タイムライン
  3. 必要なリソース
  4. リスク分析と対策計画
  5. テスト計画

例題3

問題:システム移行後の評価で確認すべき項目を4つ挙げなさい。

回答例:

  1. 移行の目標達成度
  2. 発生した問題とその解決策
  3. 学んだ教訓
  4. 次回移行プロジェクトの改善点

5. まとめ

 システム及びソフトウェアの移行は、次の手順で進めます:

  1. 移行計画の文書化と検証
  2. 関係者全員への移行計画の通知
  3. 新旧環境の並行運用
  4. 実際の移行作業と関係者への通知
  5. 移行結果の検証
  6. 移行プロセスの評価
  7. 旧環境データの適切な管理

 移行の際には、システム及びソフトウェアの完全性を維持し、業務への影響を最小限に抑えることが重要です。慎重な計画と密な連携により、リスクを軽減しつつ円滑な移行が実現します。