6.4.1. 保守プロセス開始の準備

1. 概要

 保守プロセス開始の準備は、システム開発ライフサイクルの中でも非常に重要なフェーズです。このフェーズでは、開発が完了したシステムを本番運用環境へ移行し、保守業務をスムーズに開始するための準備を行います。目的は、保守業務開始のための準備を行うことを理解することです。

 適切な準備を行わない場合、運用中に予期せぬ問題や障害が発生し、システムの安定性や保守作業の効率が大幅に低下するリスクがあります。したがって、この段階での準備は、システムの長期的な運用と保守性を確保するために不可欠です。

2. 詳細説明

保守プロセス開始の準備には、次の主要な要素が含まれます:

2.1. 開発プロセスからの保守に必要な成果物の引継ぎ

 開発チームから保守チームへの円滑な引継ぎを行うことが、保守プロセスの第一歩です。以下の成果物が引き渡されます:

  • システム設計書
  • ソースコード
  • テスト結果
  • ユーザーマニュアル
  • 運用マニュアル

 これらの成果物の引継ぎを適切に行うことで、保守チームはシステムの全体像を把握し、効果的な保守作業を開始できます。

flowchart TD
    A[開発チーム] -->|成果物引継ぎ| B[保守チーム]
    subgraph 成果物の引継ぎフロー
        C[システム設計書]
        D[ソースコード]
        E[テスト結果]
        F[ユーザーマニュアル]
        G[運用マニュアル]
    end
    B --> C
    B --> D
    B --> E
    B --> F
    B --> G

図1:成果物の引継ぎフロー

2.2. 計画及び手続の作成

 保守作業を効率的に進めるためには、計画的な準備が必要です。具体的には、次の手順を策定します:

  • 保守計画書の作成
  • 定期メンテナンス手順の策定
  • 緊急時対応プロセスの確立

 特に、緊急対応手順の策定は、システム障害が発生した際に迅速な対応を可能にします。

flowchart TD
    A[障害発生] --> B[障害の特定]
    B --> C[初期対応]
    C --> D[問題の分類]
    D --> E[緊急対応が必要か?]
    E -->|はい| F[緊急対応手順の実行]
    E -->|いいえ| G[通常対応手順の実行]
    F --> H[対応結果の確認]
    G --> H
    H --> I[問題の再発防止策の策定]
    I --> J[緊急対応プロセス終了]

図2:緊急対応プロセスのフローチャート

2.3. 問題管理手続の確立

 システム運用中に発生する問題を迅速に管理するための手続を確立します。以下の要素が含まれます:

  • 問題報告フローの設計
  • 問題の重要度分類基準の設定
  • 問題追跡システムの導入

 問題管理の手続を確立することで、システム障害の発生から解決までの時間を短縮し、システムの安定稼働を保ちます。

flowchart TD
    A[問題の発生] --> B[問題の報告]
    B --> C[問題の重要度を分類]
    C --> D[修正の必要性を判断]
    D -->|修正必要| E[修正手順の開始]
    D -->|修正不要| F[モニタリングを継続]
    E --> G[修正作業の完了]
    G --> H[テストと検証]
    H --> I[問題解決を確認]
    I --> J[問題管理完了]
    F --> J

図3:問題管理フロー

2.4. 修正作業の管理

 システムに対する修正作業を効率的に管理するためのプロセスを確立します。以下のプロセスが含まれます:

  • 変更要求の評価プロセス
  • 修正の優先順位付け方法
  • テストと品質保証手順

 修正作業を適切に管理することで、不要な修正の実施を避け、重要な修正が確実に行われるようにします。

flowchart TD
    A[変更要求の発生] --> B[変更要求の評価]
    B --> C[優先度の決定]
    C --> D[修正作業の計画]
    D --> E[修正作業の実行]
    E --> F[テストの実施]
    F --> G[修正内容の承認]
    G --> H[修正完了]
    G -->|修正が不十分| B

図4:修正作業の管理プロセス図

2.5. 保守のための文書作成

 保守作業に必要な各種文書を作成し、管理します。具体的には次の文書が作成されます:

  • 保守マニュアル
  • 障害対応手順書
  • 定期点検チェックリスト

 これらの文書は、将来的な保守作業の効率性と品質を保つために重要です。さらに、文書は常に最新の状態に保ち、システムの変更や新たな要件に応じて適宜更新する必要があります。

flowchart TD
    A[文書作成] --> B[文書レビュー]
    B --> C[修正依頼]
    B -->|承認| D[文書の承認]
    C --> A
    D --> E[文書の配布]
    E --> F[文書の保管]
    F --> G[文書の更新]
    G --> A
    F --> H[文書の廃棄]

図5:文書管理フロー

3. 応用例

保守プロセス開始の準備は、様々な業界で重要な役割を果たしています。以下はその一例です:

  1. 金融システム:銀行のオンラインバンキングシステムでは、システム障害が重大な影響を与えるため、保守プロセスの準備は非常に重要です。
  2. 製造業:生産管理システムでは、生産ラインの停止を最小限に抑えるための計画と手順が不可欠です。
  3. 電子商取引:ECサイトでは、セキュリティアップデートや機能拡張が頻繁に行われるため、保守計画が重要になります。
  4. 医療情報システム:患者データの安全な管理とシステムの可用性を保つため、厳格な保守手順が必要です。

4. 例題

例題1

問題:保守プロセス開始の準備段階で、開発チームから保守チームへの引継ぎに含めるべき成果物として、最も適切でないものはどれか。

a) システム設計書
b) ソースコード
c) マーケティング計画書
d) テスト結果

回答例:c) マーケティング計画書

解説:マーケティング計画書は、システムの保守に関わる技術的な情報ではないため、保守業務には必要ありません。他の選択肢は全て保守に必要な技術的資料です。

例題2

問題:保守のための文書作成において、以下の記述のうち正しくないものはどれか。

a) 保守マニュアルには、システムの構成図を含める必要がある。
b) 障害対応手順書は、想定される全ての障害パターンを網羅する必要がある。
c) 定期点検チェックリストは、一度作成したら変更しない方が良い。
d) 文書は電子化し、バージョン管理を行うことが望ましい。

回答例:c) 定期点検チェックリストは、一度作成したら変更しない方が良い。

解説:定期点検チェックリストは、システムの変更や新しいセキュリティ脅威に対応するため、適宜更新される必要があります。他の選択肢は全て保守文書の管理に関する正しい考え方です。

5. まとめ

 保守プロセス開始の準備は、システムの長期的な安定性を確保し、保守作業を効率的に進めるための重要なステップです。主な要素として、以下のポイントが含まれます:

  1. 開発プロセスからの保守に必要な成果物の引継ぎ
  2. 計画及び手続の作成
  3. 問題管理手続の確立
  4. 修正作業の管理
  5. 保守のための文書作成

 これらの準備を適切に行うことで、保守チームはシステムの保守業務を円滑に開始し、安定したシステム運用を実現できます。