2.15.2. レビューの対象と種類

1. 概要

 システム開発プロセスにおいて、レビューは品質保証と改善のための重要な活動です。レビューは、開発の各段階で成果物を評価し、問題点を早期に発見・修正することで、高品質なシステムの実現と開発コストの削減を可能にします。本記事では、レビューの対象、実施タイミング、種類について詳しく解説し、その重要性を理解することを目的とします。

2. 詳細説明

2.1. レビューの対象

 レビューの対象は、システム開発のライフサイクル全般にわたります。各成果物がレビューの対象となる理由や効果について以下に説明します:

  1. 要件定義書:要件が明確に記述されているかを確認し、漏れや曖昧な点を早期に発見するため。
  2. 設計書(基本設計書、詳細設計書):設計が要件を満たしているか、整合性が保たれているかを確認するため。
  3. プログラムコード(コードレビュー:コーディング規約に準拠しているか、バグの早期発見・修正を行うため。
  4. テスト仕様書:テストケースが要件を十分にカバーしているかを確認するため。
  5. 利用者マニュアル:ユーザーがシステムを正しく利用できるよう、内容の適切さと正確さを確認するため。
  6. プロジェクト計画書:スケジュールやリソース配分が現実的であるかを評価するため。

2.2. レビューの実施タイミング

 レビューは、開発プロセスの各段階で実施されます。適切なタイミングでのレビューにより、後の手戻りを防ぎます。

  1. 要件定義フェーズ終了時:要件の漏れや誤解を防ぐために実施します。
  2. 基本設計フェーズ終了時:設計の整合性や要件の反映状況を確認します。
  3. 詳細設計フェーズ終了時:実装可能なレベルで設計が具体化されているかを確認します。
  4. コーディング中および終了時:コードの品質向上とバグの早期発見を目的としたレビューです。
  5. テスト計画策定時:テスト範囲が要件をカバーしているかを確認し、テスト効率を高めます。
  6. 各種ドキュメント作成時:内容が正確で、ユーザーやチームにとって理解しやすいかを確認します。

2.3. レビューの種類

 主なレビューの種類には以下のものがあります:

2.3.1. ピアレビュー

 同じ立場の開発者同士で行うレビューです。主にコードレビューとして用いられ、バグの早期発見やコードの品質向上に寄与します。

2.3.2. デザインレビュー

 設計段階で行われるレビューで、設計の妥当性や整合性を確認します。要件との整合性や設計方針の確認が主な目的です。

2.3.3. インスペクション

 最も形式的で厳密なレビュー手法です。モデレーターが進行役を務め、事前に準備したチェックリストに基づいて綿密に成果物をチェックします。これにより、抜け漏れがないかを確認します。

図1:インスペクションの進行フローを示す図

2.3.4. ウォークスルー

 開発者が成果物の説明を行い、参加者が質問やコメントをする形式のレビューです。理解の共有を図りながら、問題点を発見します。

2.3.5. 共同レビュー

 複数の関係者が集まって行うレビューで、さまざまな視点から成果物を評価します。異なる専門性を持つメンバーからのフィードバックを受けられるのが特徴です。

3. 応用例

3.1. アジャイル開発での適用

 アジャイル開発では、短いイテレーションごとにレビューを実施します。例えば:

  • 毎日のスタンドアップミーティングでの進捗確認(軽量なピアレビュー
  • スプリントレビューでの成果物のデモンストレーションと評価
  • スプリントレトロスペクティブでのプロセス改善のためのレビュー

図2:アジャイル開発におけるレビューの流れを示す図

3.2. オープンソース開発での適用

 GitHubなどのプラットフォームを使用したオープンソース開発では、以下のようなレビュー活動が行われます:

  • プルリクエストを通じたコードレビュー:開発者が他の開発者にコードの変更を提案し、レビューを受ける。
  • イシュートラッカーを使用した機能提案やバグレポートのレビュー:プロジェクトの改善点やバグの修正を管理し、適切な対応を行う。

3.3. 大規模プロジェクトでの適用

 大規模なシステム開発プロジェクトでは、正式なレビューが頻繁に行われます。

  • フェーズごとの正式なデザインレビュー会議:各フェーズの終了時に実施し、設計の適正を確認。
  • 定期的なプロジェクト状況レビュー:プロジェクトの進捗状況を確認し、リスクの早期発見を目指します。
  • 複数のサブシステム間のインターフェース整合性のためのレビュー:システム全体の一貫性を保つための重要なレビューです。
プロジェクトフェーズレビューの種類タイミング主な目的
プロジェクト計画プロジェクト計画レビュープロジェクト開始前計画の妥当性、リソース配分の確認
要件定義要件定義書レビュー要件定義フェーズ終了時要件の漏れ、矛盾の確認
基本設計基本設計レビュー基本設計フェーズ終了時アーキテクチャ、主要機能の設計確認
詳細設計詳細設計レビュー詳細設計フェーズ終了時各機能の詳細設計、インターフェースの確認
実装コードレビュー実装中、定期的コード品質、バグの早期発見
テスト計画テスト計画レビューテスト計画策定時テスト範囲、方法の妥当性確認
結合テスト結合テスト結果レビュー結合テスト完了時インターフェース、機能連携の確認
システムテストシステムテスト結果レビューシステムテスト完了時全体機能、性能、セキュリティの確認
受入テスト受入テスト結果レビュー受入テスト完了時ユーザー要件との適合性確認
プロジェクト終了プロジェクト完了レビュープロジェクト終了時全体評価、教訓の抽出

表1:大規模プロジェクトにおけるレビューのスケジュール例

4. 例題

例題1

Q: あるWebアプリケーション開発プロジェクトで、以下のレビュー活動が計画されています。それぞれ、どのレビュー種類に該当するか答えてください。

  1. 開発者Aが作成したコードを、同じチームの開発者Bがチェックする。
  2. プロジェクトマネージャーが議長となり、設計書の内容を関係者全員で確認する。
  3. テスト担当者が作成したテスト仕様書を、開発者が説明しながら確認する。

A:

  1. ピアレビュー(コードレビュー)
  2. デザインレビュー
  3. ウォークスルー

例題2

Q: レビューの対象と実施タイミングの関係について、正しいものを選んでください。

a) 要件定義書のレビューは、コーディング完了後に行う。
b) 利用者マニュアルのレビューは、システムテスト開始前に行う。
c) テスト仕様のレビューは、テスト実行中に行う。
d) 詳細設計書のレビューは、基本設計完了後に行う。

A: 正解は b) と d) です。

解説:

  • 要件定義書のレビューは、要件定義フェーズ終了時に行います。
  • 利用者マニュアルのレビューは、システムテスト開始前に行うのが適切です。
  • テスト仕様のレビューは、テスト計画策定時に行います。
  • 詳細設計書のレビューは、基本設計完了後、詳細設計フェーズで行います。

5. まとめ

 システム開発におけるレビューは、品質向上と問題の早期発見のために不可欠な活動です。レビューの対象は、要件定義書からコード、テスト仕様、利用者マニュアルまで多岐にわたります。実施タイミングは開発の各フェーズに合わせて設定され、ピアレビューデザインレビューインスペクションウォークスルー共同レビューなど、目的に応じて適切な種類を選択します。

 効果的なレビューを実施するためには、適切な文書化手法を用いて成果物を作成し、モデレーターの支援のもと、チェックリストを活用しながら綿密に確認することが重要です。これらの活動を通じて、高品質なシステム開発と効率的なプロジェクト管理を実現することができます。