2.9.3.1. 機能分割と構造化

1. 概要

 構造化設計は、モジュール化を重視したソフトウェア開発手法の一つで、特に大規模なシステムを小規模なモジュールに分割し、効率的に開発・保守することを目的としています。システム全体を分割して整理する「機能分割と構造化」は、複雑なシステムを管理可能な単位に分割し、理解しやすくするために非常に重要な手法です。

 この手法を活用することで、開発者はシステムの全体像を把握しやすくなり、効率的な開発・保守が可能になります。本記事では、機能分割と構造化の手順、利点、留意点について解説し、実際の応用例や練習問題を通じて理解を深めます。

2. 詳細説明

2.1. 機能分割と構造化の手順

 機能分割と構造化は、以下の手順で進められます:

  1. 機能の洗い出し
  2. データフローの明確化
  3. 機能のグループ化
  4. 階層構造化
  5. プログラム機能の決定
  6. 機能仕様の文書化

2.1.1. 機能の洗い出し

 まず、システムが持つべきすべての機能を列挙します。この段階では、細かい機能も漏れなくリストアップすることが重要です。洗い出した機能を視覚化するため、機能一覧表を用いると便利です。

図1: ATMシステムの機能一覧表
機能ID 機能名 概要
F001 カード認証 挿入されたカードの有効性を確認する
F002 暗証番号確認 ユーザーが入力した暗証番号の正確性を確認する
F003 預金引き出し 指定された金額を口座から引き出す
F004 残高照会 現在の口座残高を表示する
F005 振込 指定された口座に送金する
F006 明細票印刷 取引の詳細を印刷する
F007 エラー処理 システムエラーや不正操作を検出し対応する
F008 ログ記録 全ての取引とシステム動作を記録する

2.1.2. データフローの明確化

 次に、各機能間のデータの流れを明確にします。これにより、機能間の関係性が可視化され、システム全体の構造を理解しやすくなります。この段階でデータフローダイアグラム(DFD)を作成することが一般的です。DFDは、データの流れやプロセスの相互関係を示すために有効です。

graph TD
    A[利用者] -->|カード挿入| B(カード認証)
    B -->|カード情報| C[口座データベース]
    C -->|認証結果| B
    B -->|認証成功| D(暗証番号確認)
    A -->|暗証番号入力| D
    D -->|暗証番号| C
    C -->|確認結果| D
    D -->|認証完了| E{取引選択}
    E -->|引き出し選択| F(預金引き出し)
    E -->|残高照会選択| G(残高照会)
    E -->|振込選択| H(振込処理)
    F -->|引き出し要求| C
    C -->|残高確認| F
    F -->|現金払出| A
    G -->|残高要求| C
    C -->|残高情報| G
    G -->|残高表示| A
    H -->|振込要求| C
    C -->|残高確認| H
    H -->|振込完了| A
    F -->|取引情報| I(明細票印刷)
    G -->|取引情報| I
    H -->|取引情報| I
    I -->|明細票| A
    J[ATM管理システム] -->|システム状態監視| K(ログ記録)
    F -->|取引ログ| K
    G -->|取引ログ| K
    H -->|取引ログ| K
    K -->|ログデータ| L[ログデータベース]

 このデータフローダイアグラムは、ATMシステムの主要なプロセスとデータの流れを示しています。以下に、図の主要な要素と特徴を説明します:

  1. 外部エンティティ
    • 利用者:ATMを使用する顧客
    • ATM管理システム:ATMの状態を監視し管理するシステム
  2. 主要プロセス
    • カード認証
    • 暗証番号確認
    • 取引選択
    • 預金引き出し
    • 残高照会
    • 振込処理
    • 明細票印刷
    • ログ記録
  3. データストア
    • 口座データベース:顧客の口座情報を格納
    • ログデータベース:取引およびシステムログを保存
  4. データフロー
    • 矢印で示されており、各プロセス間やエンティティとプロセス間のデータの流れを表現しています。
  5. 特徴
    • 利用者からの入力(カード挿入、暗証番号入力)から始まり、認証プロセスを経て各取引処理に進む流れが明確に示されています。
    • 各取引処理(引き出し、残高照会、振込)は口座データベースとのデータのやり取りを行います。
    • すべての取引は最終的にログ記録プロセスを通じてログデータベースに記録されます。
    • ATM管理システムによるシステム状態の監視も含まれています。

 このデータフローダイアグラムにより、ATMシステムにおけるデータの流れと各プロセスの関係性が視覚的に理解しやすくなります。これは、システムの設計やデバッグ、また将来の機能拡張を考える際の重要な参考資料となります。

2.1.3. 機能のグループ化

 関連する機能をグループ化します。これにより、システムの論理的な構造が明確になり、開発の効率が向上します。グループ化により、機能の役割がより整理され、チーム内での分担作業もしやすくなります。

2.1.4. 階層構造化

 グループ化された機能を階層構造に整理し、上位の機能から下位の機能へと段階的に詳細化します。このプロセスにより、システムの全体像と各機能の関係が明確になり、プログラムモジュールの分割が容易になります。

graph TD
    A[ATMシステム] --> B[認証サブシステム]
    A --> C[取引サブシステム]
    A --> D[出力サブシステム]
    A --> E[管理サブシステム]

    B --> B1[カード認証]
    B --> B2[暗証番号確認]

    C --> C1[預金引き出し]
    C --> C2[残高照会]
    C --> C3[振込処理]

    D --> D1[明細票印刷]
    D --> D2[画面表示]

    E --> E1[ログ記録]
    E --> E2[エラー処理]
    E --> E3[システム状態監視]

    style A fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:4px
    style B fill:#ccf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style C fill:#ccf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style D fill:#ccf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style E fill:#ccf,stroke:#333,stroke-width:2px

 この階層構造図は、ATMシステムの機能を論理的に整理し、上位レベルから下位レベルへと段階的に詳細化して表現しています。以下に、図の主要な要素と特徴を説明します:

  1. 最上位レベル
    • ATMシステム:システム全体を表す最上位の要素です。
  2. 第2レベル(主要サブシステム)
    • 認証サブシステム:ユーザー認証に関連する機能をグループ化しています。
    • 取引サブシステム:主要な取引処理機能をグループ化しています。
    • 出力サブシステム:情報出力に関連する機能をグループ化しています。
    • 管理サブシステム:システム管理や監視に関連する機能をグループ化しています。
  3. 第3レベル(具体的な機能)
    • 認証サブシステム
      • カード認証
      • 暗証番号確認
    • 取引サブシステム
      • 預金引き出し
      • 残高照会
      • 振込処理
    • 出力サブシステム
      • 明細票印刷
      • 画面表示
    • 管理サブシステム
      • ログ記録
      • エラー処理
      • システム状態監視
  4. 特徴
    • 機能が論理的にグループ化され、階層的に整理されています。
    • 各サブシステムの役割が明確に示されています。
    • システムの全体像と各機能の関係性が視覚的に理解しやすくなっています。

 この階層構造図の利点:

  1. システムの全体像を俯瞰的に把握できます。
  2. 機能の論理的な分類と関係性が明確になります。
  3. 開発チーム内での役割分担や作業範囲の定義に役立ちます。
  4. 将来の機能拡張や修正の際の影響範囲を予測しやすくなります。

 この階層構造図は、システム設計の基礎となり、各機能の詳細設計やモジュール分割の指針となります。また、プロジェクト管理や品質管理の面でも、作業の進捗管理やテスト計画の策定に活用できます。

2.1.5. プログラム機能の決定

 階層構造化された機能に基づいて、プログラムモジュールの具体的な機能を決定します。この段階では、各モジュールがどのような役割を担い、どのような入出力を持つかを定義します。

2.1.6. 機能仕様の文書化

 最後に、決定した各機能の仕様を文書化します。機能仕様書には、各モジュールの入出力、処理内容、エラー処理、インターフェースなどの詳細を記述します。これにより、チーム内での情報共有や将来の保守作業が容易になります。

1. 機能概要

1.1 機能名

預金引き出し

1.2 機能ID

F003

1.3 概要

本機能は、ATMユーザーが指定した金額を口座から引き出すための処理を行う。

2. 機能詳細

2.1 入力

  • 引き出し金額(1,000円単位、最大100万円)
  • 明細票発行の要否

2.2 出力

  • 現金(指定金額)
  • 明細票(オプション)
  • 取引完了メッセージ(画面表示)

2.3 処理フロー

  1. ユーザーが引き出し金額を入力
  2. システムが口座残高を確認
  3. 引き出し可能な場合、口座残高を更新
  4. 現金を払い出す
  5. 明細票発行の要否を確認
  6. 明細票を発行(要求された場合)
  7. 取引完了メッセージを表示

2.4 例外処理

  • 残高不足の場合:エラーメッセージを表示し、取引を中止
  • ATM内の現金不足の場合:エラーメッセージを表示し、取引を中止
  • カード読み取りエラー:エラーメッセージを表示し、カードを返却
  • システムエラー:エラーメッセージを表示し、管理者に通知

3. 関連機能

  • カード認証(F001)
  • 暗証番号確認(F002)
  • 明細票印刷(F006)
  • ログ記録(F008)

4. セキュリティ要件

  • トランザクション処理によるデータ整合性の確保
  • 個人情報の暗号化
  • 不正アクセス検知と防止

5. パフォーマンス要件

  • 処理時間:10秒以内(現金払い出しを除く)
  • 同時処理数:最大5件

6. テスト項目

  1. 正常系テスト
  • 指定金額の引き出しが正常に完了すること
  • 口座残高が正しく更新されること
  • 明細票が正しく発行されること
  1. 異常系テスト
  • 残高不足時のエラー処理
  • ATM現金不足時のエラー処理
  • システムエラー時の処理

7. 改訂履歴

版数日付改訂者改訂内容
1.02024/05/01山田太郎初版作成
1.12024/05/15鈴木花子セキュリティ要件の追加

 この機能仕様書のサンプルは、ATMシステムの「預金引き出し」機能について詳細に記述しています。主な特徴と利点は以下の通りです:

  1. 構造化された情報:機能概要、詳細、関連機能など、項目ごとに整理されており、必要な情報を素早く見つけることができます。
  2. 具体的な処理フロー:機能の動作を段階的に説明しており、開発者が実装する際の指針となります。
  3. 例外処理の明確化:起こりうる問題とその対処方法を明記しており、堅牢なシステム開発に寄与します。
  4. 関連機能の明示:他の機能との関連性を示すことで、システム全体における位置づけが理解しやすくなります。
  5. 非機能要件の記述:セキュリティやパフォーマンスに関する要件も含まれており、品質面での指標を提供しています。
  6. テスト項目の提示:主要なテストケースを示すことで、品質保証プロセスの指針となります。
  7. 改訂履歴の管理:文書の変更履歴を記録することで、仕様の変更や進化を追跡可能にしています。

 このような詳細な機能仕様書を作成することで、開発チーム内での共通理解が促進され、実装やテストの品質向上につながります。また、将来の保守や機能拡張の際にも重要な参考資料となります。

2.2. 構造化設計による機能分割の利点

 機能分割と構造化には、以下の利点があります:

  1. システムの複雑性の軽減
    機能を適切に分割することで、各部分が独立して理解しやすくなり、システム全体の複雑性が軽減されます。これは、システムの保守性や拡張性を向上させる要因となります。
  2. 開発作業の並行化が可能
    機能が独立していれば、異なるチームや開発者が同時に異なる部分を開発できます。この並行開発は、開発期間の短縮に貢献します。
  3. 再利用性の向上
    適切に分割された機能は、他のプロジェクトでも再利用しやすくなります。モジュール化されたコードは、新しいシステムやプロジェクトにも転用しやすく、開発効率の向上や品質の安定化に寄与します。

2.3. 留意事項

 機能分割と構造化には、以下の点に留意する必要があります:

  1. 適切な粒度での分割
    機能を細かく分割しすぎると、かえって管理が難しくなります。機能の粒度は、システム全体のバランスを考慮して適切に設定する必要があります。
  2. 機能間の結合度と凝集度のバランス
    高い結合度は、システムの一部を変更した際に他の部分に影響を与えやすくなります。一方で、高い凝集度は、各モジュールが一貫した役割を果たすことを意味し、システム全体の安定性を向上させます。これらのバランスを慎重に考えることが重要です。
  3. 将来の拡張性への配慮
    システムは常に変化する可能性があるため、将来の変更や拡張が容易に行えるように設計しておくことが大切です。
  4. チーム内でのコミュニケーションの重要性
    分割された機能間の情報共有が不足すると、開発全体に齟齬が生じる可能性があります。チーム内での密なコミュニケーションが成功の鍵です。

3. 応用例

3.1. 銀行ATMシステムの設計

 銀行ATMシステムに構造化設計を適用する例を考えます。

  1. 機能の洗い出し
    • 預金引き出し
    • 残高照会
    • 振込
    • カード認証
    • 暗証番号確認
    • 明細票印刷
  2. データフローの明確化
    カード情報 → カード認証 → 暗証番号確認 → 各取引処理
graph TD
    A((利用者)) -->|カード挿入| B[1.0 カード認証]
    B -->|カード情報| C[(口座DB)]
    C -->|認証結果| B
    B -->|認証成功| D[2.0 暗証番号確認]
    A -->|暗証番号入力| D
    D -->|暗証番号| C
    C -->|確認結果| D
    D -->|認証完了| E[3.0 取引選択]
    E -->|引き出し選択| F[4.0 預金引き出し]
    E -->|残高照会選択| G[5.0 残高照会]
    E -->|振込選択| H[6.0 振込処理]
    F -->|引き出し要求| C
    C -->|残高確認| F
    F -->|現金払出| A
    G -->|残高要求| C
    C -->|残高情報| G
    G -->|残高表示| A
    H -->|振込要求| C
    C -->|残高確認| H
    H -->|振込完了| A
    F -->|取引情報| I[7.0 明細票印刷]
    G -->|取引情報| I
    H -->|取引情報| I
    I -->|明細票| A
    J((ATM管理者)) -->|システム状態監視| K[8.0 システム監視]
    K -->|状態情報| L[(ログDB)]
    F -->|取引ログ| M[9.0 ログ記録]
    G -->|取引ログ| M
    H -->|取引ログ| M
    M -->|ログデータ| L
    N[10.0 エラー処理] -->|エラー通知| J
    F -.->|エラー発生| N
    G -.->|エラー発生| N
    H -.->|エラー発生| N
    O[(ATM現金残高)] <-->|現金残高更新| F
    
    classDef process fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px;
    classDef entity fill:#ffa,stroke:#333,stroke-width:2px;
    classDef datastore fill:#bfb,stroke:#333,stroke-width:2px;
    
    class A,J entity;
    class B,D,E,F,G,H,I,K,M,N process;
    class C,L,O datastore;

 この詳細なデータフローダイアグラムは、ATMシステムの主要なプロセス、データの流れ、およびデータストアを示しています。以下に、図の主要な要素と特徴を説明します:

  1. 外部エンティティ
    • 利用者:ATMを使用する顧客
    • ATM管理者:ATMのシステムを監視・管理する人
  2. 主要プロセス: 1.0 カード認証 2.0 暗証番号確認 3.0 取引選択 4.0 預金引き出し 5.0 残高照会 6.0 振込処理 7.0 明細票印刷 8.0 システム監視 9.0 ログ記録 10.0 エラー処理
  3. データストア
    • 口座DB:顧客の口座情報を格納
    • ログDB:取引およびシステムログを保存
    • ATM現金残高:ATM内の現金残高を管理
  4. データフロー
    • 実線の矢印で示されており、各プロセス間、エンティティとプロセス間、プロセスとデータストア間のデータの流れを表現しています。
    • 点線の矢印はエラーフローを示しています。
  5. 特徴
    • 利用者の操作から始まり、認証プロセスを経て各取引処理に進む流れが詳細に示されています。
    • 各取引処理(引き出し、残高照会、振込)は口座DBとのデータのやり取りを行います。
    • すべての取引はログ記録プロセスを通じてログDBに記録されます。
    • ATM管理者によるシステム監視プロセスが含まれています。
    • エラー処理プロセスが追加され、各取引プロセスからのエラーフローが示されています。
    • ATM現金残高のデータストアが追加され、預金引き出しプロセスとの相互作用が示されています。

 このデータフローダイアグラムにより、ATMシステムにおけるデータの流れと各プロセスの関係性がより詳細に理解できます。これは、システムの設計、実装、デバッグ、そして将来の機能拡張を考える際の重要な参考資料となります。また、セキュリティ分析やパフォーマンス最適化の際にも有用です。

  1. 機能のグループ化
    • 認証機能(カード認証、暗証番号確認)
    • 取引機能(預金引き出し、残高照会、振込)
    • 出力機能(明細票印刷)
  2. 階層構造化
    レベル1: ATMメインシステム
    レベル2: 認証サブシステム、取引サブシステム、出力サブシステム
    レベル3: 各具体的機能
graph TD
    A[ATMシステム] --> B[1. 認証サブシステム]
    A --> C[2. 取引サブシステム]
    A --> D[3. 出力サブシステム]
    A --> E[4. 管理サブシステム]
    A --> F[5. データ管理サブシステム]

    B --> B1[1.1 カード認証]
    B --> B2[1.2 暗証番号確認]
    B --> B3[1.3 生体認証]

    C --> C1[2.1 預金取引]
    C --> C2[2.2 振込取引]
    C --> C3[2.3 口座情報照会]

    C1 --> C1a[2.1.1 預金引き出し]
    C1 --> C1b[2.1.2 預金預け入れ]
    C2 --> C2a[2.2.1 他行宛振込]
    C2 --> C2b[2.2.2 同行内振込]
    C3 --> C3a[2.3.1 残高照会]
    C3 --> C3b[2.3.2 取引履歴照会]

    D --> D1[3.1 画面表示]
    D --> D2[3.2 明細票印刷]
    D --> D3[3.3 通帳記入]

    E --> E1[4.1 システム監視]
    E --> E2[4.2 エラー処理]
    E --> E3[4.3 セキュリティ管理]

    E1 --> E1a[4.1.1 稼働状況監視]
    E1 --> E1b[4.1.2 パフォーマンス監視]
    E2 --> E2a[4.2.1 取引エラー処理]
    E2 --> E2b[4.2.2 システムエラー処理]
    E3 --> E3a[4.3.1 不正アクセス検知]
    E3 --> E3b[4.3.2 暗号化処理]

    F --> F1[5.1 口座データ管理]
    F --> F2[5.2 取引ログ管理]
    F --> F3[5.3 ATM状態管理]

    style A fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:4px
    style B,C,D,E,F fill:#ccf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style B1,B2,B3,C1,C2,C3,D1,D2,D3,E1,E2,E3,F1,F2,F3 fill:#cfc,stroke:#333,stroke-width:1px
    style C1a,C1b,C2a,C2b,C3a,C3b,E1a,E1b,E2a,E2b,E3a,E3b fill:#fff,stroke:#333,stroke-width:1px

 この詳細な階層構造図は、ATMシステムの機能を論理的に整理し、上位レベルから下位レベルへと段階的に詳細化して表現しています。以下に、図の主要な要素と特徴を説明します:

  1. 最上位レベル
    • ATMシステム:システム全体を表す最上位の要素です。
  2. 第2レベル(主要サブシステム)
    1. 認証サブシステム
    2. 取引サブシステム
    3. 出力サブシステム
    4. 管理サブシステム
    5. データ管理サブシステム
  3. 第3レベル(具体的な機能グループ)
    • 各サブシステムの下に、より具体的な機能グループが配置されています。
  4. 第4レベル(詳細機能)
    • 一部の機能グループでは、さらに詳細な機能が示されています。
  5. 特徴
    • 機能が論理的にグループ化され、階層的に整理されています。
    • 各サブシステムの役割が明確に示されています。
    • システムの全体像と各機能の関係性が視覚的に理解しやすくなっています。
    • 新しい機能として、生体認証、預金預け入れ、通帳記入などが追加されています。
    • 管理サブシステムが詳細化され、セキュリティ管理などの重要な機能が明示されています。
    • データ管理サブシステムが独立して示され、データの重要性が強調されています。

 この階層構造図の利点:

  1. システムの全体像を俯瞰的に把握できます。
  2. 機能の論理的な分類と関係性が明確になります。
  3. 開発チーム内での役割分担や作業範囲の定義に役立ちます。
  4. 将来の機能拡張や修正の際の影響範囲を予測しやすくなります。
  5. 各機能の重要度や優先順位を検討する際の基礎資料となります。
  6. テスト計画の策定や品質管理の指針として活用できます。

 この詳細な階層構造図は、ATMシステムの設計、開発、保守のあらゆる段階で重要な参考資料となります。特に、大規模なシステム開発プロジェクトにおいて、チームメンバー間の共通理解を促進し、効率的な開発進行を支援します。

  1. プログラム機能の決定
    • 認証モジュール、取引処理モジュール、印刷モジュールなど
  2. 機能仕様の文書化図7: ATM機能仕様書サンプル):
    各モジュールの入出力、処理内容、エラー処理などを詳細に記述

図7: ATM機能仕様書サンプル – 預金引き出し機能

1. 機能概要

1.1 機能名

預金引き出し

1.2 機能ID

F003

1.3 概要

本機能は、ATMユーザーが指定した金額を口座から引き出すための処理を行う。認証済みのユーザーに対して、残高確認、現金の払い出し、口座残高の更新を行い、取引記録を生成する。

2. 機能詳細

2.1 入力

  • 引き出し金額(1,000円単位、最大100万円)
  • 明細票発行の要否

2.2 出力

  • 現金(指定金額)
  • 明細票(オプション)
  • 取引完了メッセージ(画面表示)
  • 取引記録(システムログ)

2.3 前提条件

  • ユーザーが正常に認証されていること
  • ATMが正常に稼働していること
  • ATM内に十分な現金が格納されていること

2.4 事後条件

  • 指定金額が口座から引き落とされていること
  • 現金が正確に払い出されていること
  • 取引記録が正しく生成されていること

2.5 処理フロー

graph TD
    A[開始] --> B{引き出し金額入力}
    B --> C{残高確認}
    C -->|残高十分| D{ATM現金残高確認}
    C -->|残高不足| E[エラー処理: 残高不足]
    D -->|現金十分| F[口座残高更新]
    D -->|現金不足| G[エラー処理: ATM現金不足]
    F --> H[現金払出]
    H --> I{明細票要求?}
    I -->|はい| J[明細票印刷]
    I -->|いいえ| K[取引完了メッセージ表示]
    J --> K
    K --> L[取引記録生成]
    L --> M[終了]
    E --> M
    G --> M

2.6 例外処理

  • 残高不足の場合:エラーメッセージを表示し、取引を中止
  • ATM内の現金不足の場合:エラーメッセージを表示し、取引を中止
  • カード読み取りエラー:エラーメッセージを表示し、カードを返却
  • システムエラー:エラーメッセージを表示し、管理者に通知

3. インターフェース仕様

3.1 ユーザーインターフェース

  • 引き出し金額入力画面
  • テンキーによる金額入力
  • 「確認」「取消」ボタン
  • 明細票要求確認画面
  • 「はい」「いいえ」ボタン
  • 取引完了画面
  • 取引内容の表示
  • 「終了」ボタン

3.2 システムインターフェース

  • 口座データベース連携
  • 残高照会API
  • 残高更新API
  • ATM現金管理システム連携
  • 現金残高確認API
  • 現金払出指示API
  • ログ管理システム連携
  • 取引記録登録API

4. 関連機能

  • カード認証(F001)
  • 暗証番号確認(F002)
  • 明細票印刷(F006)
  • ログ記録(F008)

5. セキュリティ要件

  • トランザクション処理によるデータ整合性の確保
  • すべての通信の暗号化(TLS 1.3以上)
  • 取引情報の匿名化処理
  • 不正アクセス検知と防止(IPS/IDSの導入)

6. パフォーマンス要件

  • 処理時間:10秒以内(現金払い出しを除く)
  • 同時処理数:最大5件
  • データベースレスポンス時間:500ミリ秒以内

7. テスト項目

  1. 正常系テスト
  • 指定金額の引き出しが正常に完了すること
  • 口座残高が正しく更新されること
  • 明細票が正しく発行されること
  1. 異常系テスト
  • 残高不足時のエラー処理
  • ATM現金不足時のエラー処理
  • システムエラー時の処理
  1. 負荷テスト
  • 最大同時処理数での動作確認
  • 大量取引時のパフォーマンス測定

8. 改訂履歴

版数日付改訂者改訂内容
1.02024/05/01山田太郎初版作成
1.12024/05/15鈴木花子セキュリティ要件の追加
1.22024/06/01佐藤次郎処理フロー図の追加、インターフェース仕様の詳細化

 この詳細な機能仕様書サンプルは、ATMシステムの「預金引き出し」機能について包括的に記述しています。主な特徴と利点は以下の通りです:

  1. 構造化された情報:機能概要、詳細、インターフェース仕様など、項目ごとに整理されており、必要な情報を素早く見つけることができます。
  2. 視覚的な処理フロー:mermaidを使用して処理フローを図示しており、機能の動作をより直感的に理解できます。
  3. 詳細な例外処理:起こりうる問題とその対処方法を明確に記述しており、堅牢なシステム開発に寄与します。
  4. 具体的なインターフェース仕様:ユーザーインターフェースとシステムインターフェースの両方について詳細に記述しており、実装の指針となります。
  5. 包括的なセキュリティ要件:データの整合性、暗号化、不正アクセス対策など、具体的なセキュリティ要件を示しています。
  6. 明確なパフォーマンス要件:処理時間やデータベースレスポンス時間など、具体的な数値目標を設定しています。
  7. 詳細なテスト項目:正常系、異常系、負荷テストなど、多角的な視点からのテスト項目を提示しています。
  8. 改訂履歴の管理:文書の変更履歴を記録することで、仕様の変更や進化を追跡可能にしています。

 このような詳細な機能仕様書を作成することで、開発チーム内での共通理解が促進され、実装やテストの品質向上につながります。また、プロジェクト管理者にとっては進捗管理の基準となり、将来の保守や機能拡張の際にも重要な参考資料となります。

4. 例題

例題1: 人事管理システムの設計

 ある企業の人事管理システムの設計を行います。以下の機能をグループ化し、階層構造化してください。

  • 従業員情報登録
  • 給与計算
  • 勤怠管理
  • 人事評価記録
  • 休暇申請処理
  • 従業員検索
  • 部署異動処理
  • 退職処理
  • レポート生成

回答例

  1. 機能のグループ化
    • 従業員基本情報管理(従業員情報登録、従業員検索)
    • 給与・勤怠管理(給与計算、勤怠管理)
    • 人事処理(人事評価記録、休暇申請処理、部署異動処理、退職処理)
    • 情報出力(レポート生成)
  2. 階層構造化
    レベル1: 人事管理システム
    レベル2:
    • 2.1 従業員基本情報管理サブシステム
    • 2.2 給与・勤怠管理サブシステム
    • 2.3 人事処理サブシステム
    • 2.4 情報出力サブシステム
      レベル3:
    • 2.1.1 従業員情報登録機能
    • 2.1.2 従業員検索機能
    • 2.2.1 給与計算機能
    • 2.2.2 勤怠管理機能
    • 2.3.1 人事評価記録機能
    • 2.3.2 休暇申請処理機能
    • 2.3.3 部署異動処理機能
    • 2.3.4 退職処理機能
    • 2.4.1 レポート生成機能
graph TD
    A[人事管理システム] --> B[1. 従業員情報管理]
    A --> C[2. 給与管理]
    A --> D[3. 勤怠管理]
    A --> E[4. 人事評価管理]
    A --> F[5. 人材育成管理]
    A --> G[6. 組織管理]
    A --> H[7. レポート・分析]

    B --> B1[1.1 従業員情報登録]
    B --> B2[1.2 従業員情報更新]
    B --> B3[1.3 従業員検索]
    B --> B4[1.4 退職処理]

    C --> C1[2.1 給与計算]
    C --> C2[2.2 賞与計算]
    C --> C3[2.3 給与明細作成]
    C --> C4[2.4 年末調整]

    D --> D1[3.1 勤怠記録]
    D --> D2[3.2 休暇管理]
    D --> D3[3.3 残業管理]
    D --> D4[3.4 シフト管理]

    E --> E1[4.1 評価基準設定]
    E --> E2[4.2 評価実施]
    E --> E3[4.3 評価結果分析]
    E --> E4[4.4 フィードバック管理]

    F --> F1[5.1 研修計画]
    F --> F2[5.2 スキル管理]
    F --> F3[5.3 キャリアパス管理]

    G --> G1[6.1 組織構造管理]
    G --> G2[6.2 役職管理]
    G --> G3[6.3 部署異動処理]

    H --> H1[7.1 標準レポート生成]
    H --> H2[7.2 カスタムレポート作成]
    H --> H3[7.3 データ分析ツール]

    style A fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:4px
    style B,C,D,E,F,G,H fill:#ccf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style B1,B2,B3,B4,C1,C2,C3,C4,D1,D2,D3,D4,E1,E2,E3,E4,F1,F2,F3,G1,G2,G3,H1,H2,H3 fill:#cfc,stroke:#333,stroke-width:1px

 この人事管理システムの階層構造図は、システムの機能を論理的に整理し、上位レベルから下位レベルへと段階的に詳細化して表現しています。以下に、図の主要な要素と特徴を説明します:

  1. 最上位レベル
    • 人事管理システム:システム全体を表す最上位の要素です。
  2. 第2レベル(主要サブシステム)
    1. 従業員情報管理
    2. 給与管理
    3. 勤怠管理
    4. 人事評価管理
    5. 人材育成管理
    6. 組織管理
    7. レポート・分析
  3. 第3レベル(具体的な機能)
    • 各サブシステムの下に、より具体的な機能が配置されています。
  4. 特徴
    • 機能が論理的にグループ化され、階層的に整理されています。
    • 各サブシステムの役割が明確に示されています。
    • システムの全体像と各機能の関係性が視覚的に理解しやすくなっています。
    • 例題で挙げられた機能(従業員情報登録、給与計算、勤怠管理、人事評価記録、休暇申請処理、従業員検索、部署異動処理、退職処理、レポート生成)が適切に組み込まれています。

 この階層構造図の利点:

  1. システムの全体像を俯瞰的に把握できます。
  2. 機能の論理的な分類と関係性が明確になります。
  3. 開発チーム内での役割分担や作業範囲の定義に役立ちます。
  4. 将来の機能拡張や修正の際の影響範囲を予測しやすくなります。
  5. 各機能の重要度や優先順位を検討する際の基礎資料となります。
  6. テスト計画の策定や品質管理の指針として活用できます。
  7. 人事部門と開発チームのコミュニケーションツールとして機能します。

 この階層構造図は、人事管理システムの設計、開発、保守のあらゆる段階で重要な参考資料となります。特に、大規模な組織での人事システム開発プロジェクトにおいて、関係者間の共通理解を促進し、効率的な開発進行を支援します。また、この図を基に、各機能の詳細仕様書を作成したり、開発の優先順位を決定したりすることができます。

例題2: 構造化設計による機能分割の利点

 構造化設計による機能分割の利点を3つ挙げ、それぞれについて簡単に説明してください。

回答例

  1. システムの複雑性の軽減
    機能を適切に分割することで、各部分が独立して理解しやすくなり、システム全体の複雑性が軽減されます。
  2. 開発作業の並行化が可能
    機能が明確に分割されていれば、異なるチームや開発者が同時に異なる機能を開発することができ、開発期間の短縮につながります。
  3. 再利用性の向上
    適切に分割された機能は、他のプロジェクトでも再利用しやすくなります。これにより、開発効率が向上し、品質の安定化にも寄与します。

5. まとめ

 構造化設計における機能分割と構造化は、システムを管理可能な単位に分割し、整理するための重要な手法です。この手法を用いることで、システムの複雑性が軽減され、開発作業の並行化や機能の再利用が可能になります。留意点として、適切な粒度での分割や、結合度と凝集度のバランスが求められます。

 実際の開発現場でこの手法を活用することで、効率的な開発と保守が実現でき、結果として高品質なソフトウェアを提供できるでしょう。