2.2.4. ソフトウェア構成の決定

1. 概要

 ソフトウェア構成の決定は、システム開発プロセスの成否を左右する重要なステップです。この段階では、システム供給者が、全てを自社で開発するか、既存のソフトウェアパッケージを活用するか、あるいはその両方を組み合わせるかを選択します。さらに、使用するミドルウェアやデータベース、フレームワークの選定が行われます。この決定により、効率的かつ効果的なシステム構築が可能となります。

 適切なソフトウェア構成を選択することは、開発コストや期間の削減、システムの品質向上に直結します。特に中長期的な運用を考慮し、将来の拡張性や変更への対応力も重視した選定が必要です。

2. 詳細説明

2.1. ソフトウェアシステム要素の理解

 ソフトウェア構成を決定する際、まずソフトウェアシステム要素を理解することが基本です。これらの要素は、システム全体の性能や安定性に影響を与えるため、それぞれの役割を把握し、適切に選択する必要があります。主なソフトウェアシステム要素は以下の通りです:

  1. アプリケーションソフトウェア
  2. ミドルウェア
  3. オペレーティングシステム
  4. データベース管理システム  これらの要素は、システムの各機能を支える基盤となるため、相互の連携やパフォーマンスを確認しながら、全体のバランスを考慮して選定します。図1にシステム要素の関係図を示します。

【図1:ソフトウェアシステム要素の関係図】

2.2. ソフトウェア要素の選択基準

 ソフトウェア要素を選定する際の基準として、以下の点を考慮します:

  1. 機能要件との適合性
  2. 性能要件の充足
  3. セキュリティ要件の充足
  4. 拡張性と柔軟性
  5. コスト(導入コスト、運用コスト)
  6. サポート体制の充実  例えば、ミドルウェアの選定においては、スケーラビリティを重視する場合は、オープンソースのJBoss EAPやクラウドネイティブなKubernetesを検討します。また、セキュリティ面では、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)や侵入検知システム(IDS/IPS)を導入することで、システムの安全性を強化します。【表1:ソフトウェア要素の選定基準一覧】も参考にしてください。
基準説明評価ポイント
機能要件必要な機能を十分に提供できるか• 要求される機能の網羅性
• カスタマイズの容易さ
• 将来的な機能拡張の可能性
性能要件パフォーマンスに優れているか• 処理速度
• スケーラビリティ
• リソース効率
セキュリティ要件セキュリティリスクに対応できるか• データ暗号化機能
• アクセス制御機能
• 脆弱性対策の充実度
拡張性将来的な変更に対応できるか• モジュール性
• API の充実度
• サードパーティ製品との連携性
コスト導入や運用にかかるコスト• 初期導入コスト
• ライセンス費用
• 保守・運用コスト
サポート体制メンテナンスが充実しているか• ベンダーのサポート期間
• コミュニティの活発さ
• ドキュメントの充実度
信頼性システムの安定性と信頼性• 障害発生率
• 回復性能
• バックアップ・復旧機能
互換性既存システムとの互換性• データ形式の互換性
• インターフェースの互換性
• 移行の容易さ

【表1:ソフトウェア要素の選定基準一覧】

2.3. アーキテクチャの決定

 システムのアーキテクチャ設計も、ソフトウェア構成の決定プロセスにおいて重要な要素です。以下は、よく採用されるアーキテクチャの例です:

  1. クライアント・サーバーアーキテクチャ
  2. 3層アーキテクチャ
  3. マイクロサービスアーキテクチャ
  4. サービス指向アーキテクチャ(SOA)  例えば、将来的にAI機能やIoT連携を検討している場合、柔軟性が高いマイクロサービスアーキテクチャを採用することで、後から機能を追加しやすくなります。図2に代表的なアーキテクチャの構成を示します。

【図2:代表的なシステムアーキテクチャの構成図】

3. 応用例

3.1. 大規模な企業情報システムの開発

 大規模な企業情報システムでは、以下のようなソフトウェア構成の決定が行われます:

  1. 基幹業務システムには、信頼性の高い商用ERPパッケージを採用(例:SAP S/4HANA)
  2. カスタマイズが必要な部分は自社開発
  3. データベースには、大規模データ処理に強いOracle Databaseを採用
  4. ミドルウェアには、スケーラビリティの高いJBoss EAPを使用
  5. セキュリティ強化のため、Webアプリケーションファイアウォール(WAF)を導入

3.2. Web系スタートアップの新規サービス開発

 スタートアップ企業の新規サービス開発では、迅速な開発と柔軟性が重視されます。以下のような構成が一般的です:

  1. バックエンドには、開発速度の速いRuby on Railsを使用して自社開発
  2. フロントエンドにはReactJSを採用し、ユーザビリティを向上
  3. データベースには、柔軟でスケーラブルなNoSQLのMongoDBを使用
  4. インフラには、AWSのクラウドサービス(例:Amazon EC2、S3)を活用してスケーラビリティを確保

4. 例題

例題1

条件:
ある企業が新しい顧客管理システムを開発しようとしています。以下の条件を考慮し、最適なソフトウェア構成を提案してください。

  • 既存の基幹システムとの連携が必要
  • 将来的な機能拡張の可能性が高い
  • 開発期間は6ヶ月以内
  • 予算は限られている

【回答例】

  1. 既存の基幹システムとの連携を考慮し、カスタマイズ性の高いオープンソースのCRMパッケージ(例:SuiteCRM)を採用
  2. 将来の拡張性を考慮し、モジュール構造を持つアーキテクチャを採用
  3. 開発期間短縮のため、PHPベースのフレームワーク(Laravel)を使用して必要な機能をカスタム開発
  4. コスト削減のため、オープンソースのデータベース(MySQL)を採用
  5. クラウドサービス(AWS)を利用し、初期投資を抑制

例題2

条件:
大手小売チェーンが、新しいPOSシステムを導入しようとしています。以下の要件を満たすソフトウェア構成を提案してください。

  • 全国1000店舗での利用
  • リアルタイムの在庫管理が必要
  • 高いセキュリティ要件
  • 将来的にAI機能の追加を検討

【回答例】

  1. 基本システムには、実績のある商用POSパッケージを採用
  2. リアルタイム在庫管理のため、高速処理が可能なインメモリデータベース(SAP HANA)を使用
  3. セキュリティ要件を満たすため、専用のセキュリティミドルウェア(例:WAFやIDS/IPS)を導入
  4. 将来的なAI機能追加を見据え、マイクロサービスアーキテクチャを採用し、柔軟な拡張性を確保
  5. クラウドとオンプレミスのハイブリッド構成とし、セキュリティと拡張性のバランスを取る

5. まとめ

 ソフトウェア構成の決定は、システム開発プロジェクトの成否を決定する重要なプロセスです。以下の点を考慮して、最適なソフトウェア構成を決定することが求められます:

  1. システムの機能要件および非機能要件を十分に理解すること
  2. 自社開発と既存パッケージの適切なバランスを取ること
  3. 選定するミドルウェアの拡張性、セキュリティ、パフォーマンスを慎重に評価すること
  4. システムのアーキテクチャを慎重に設計し、将来の拡張に備えること

 適切なソフトウェア構成の選定は、開発の効率化、高品質なシステムの実現、そして長期的な運用・保守の容易さを保証する重要な要素です。