1. 概要
データベース管理システム(DBMS)において、障害回復は極めて重要な機能です。システムやハードウェアの故障、人為的ミス、自然災害などによってデータベースに障害が発生した場合、迅速かつ正確にデータを復旧する必要があります。障害回復の主な目的は、データの一貫性を保ちつつ、できるだけ最新の状態までデータベースを回復させることです。
2. 詳細説明
2.1. バックアップの方式
障害に備えたバックアップには、主に以下の3つの方式があります:
- フルバックアップ
データベース全体を完全にコピーする方式です。復旧が簡単で信頼性が高い一方で、時間とストレージ容量を多く必要とします。そのため、大規模なデータベースではコストが増大する可能性があります。 - 差分バックアップ
最後のフルバックアップ以降に変更されたデータのみをバックアップする方式です。フルバックアップと比べて時間と容量を節約できますが、復旧時にはフルバックアップと差分バックアップの両方が必要となり、手順が増えます。 - 増分バックアップ
前回のバックアップ(フルまたは増分)以降に変更されたデータのみをバックアップする方式です。最も効率的ですが、復旧時には全ての増分バックアップが必要となり、手順が複雑になる可能性があります。 各バックアップ方式にはそれぞれの利点と欠点があるため、システムの要件に応じて適切な方式を選択することが重要です。
2.2. 世代管理の考え方
世代管理とは、複数のバックアップを時系列で管理する方法です。通常、以下のような世代を保持します:
- 日次バックアップ:毎日取得するバックアップ
- 週次バックアップ:週に1回取得するバックアップ
- 月次バックアップ:月に1回取得するバックアップ この方式により、異なる時点のデータを保持でき、柔軟な復旧が可能になります。また、異なる時点のバックアップを保持することで、データ損失のリスクを軽減し、特定の時点に迅速に復旧することができます。
2.3. リカバリ処理の仕組み
障害発生直前の状態まで回復を図るリカバリ処理には、以下の要素が関係します:
- ダンプファイル
データベースの内容を外部ファイルに出力したものです。復元の基礎として使用されます。 - ジャーナルファイル(ログファイル)
データベースへの全ての変更を記録するファイルで、障害発生時のデータ復旧に使用されます。 - チェックポイント
データベースの一貫性が保たれている時点を示すマーカーで、リカバリの開始点として使用されます。 - ロールフォワード
チェックポイント以降の操作をジャーナルファイルから再適用する処理です。これにより、最新の一貫した状態まで復旧することができます。 - ロールバック
未完了のトランザクションを取り消す処理です。障害発生時にデータの不整合を防ぐために重要な役割を果たします。
2.4. データベースの利用環境の準備
障害からの復旧後、データベースを再び利用可能な状態にするには以下の手順が必要です:
- ウォームスタート
障害発生時に処理中だったトランザクションの状態を確認し、必要に応じてロールバックを行います。 - コールドスタート
データベース全体を初期状態から再構築する必要がある場合に行います。
2.5. アクセス効率向上のための再編成
長期間の使用でデータベースの物理的構造が非効率になった場合、以下の再編成を行います:
- インデックスの再構築
- テーブルの再編成
- 不要なデータの削除 これにより、アクセス速度が向上し、システムの全体的なパフォーマンスを維持することができます。
3. 応用例
3.1. 金融システムでの利用
銀行のオンラインバンキングシステムでは、トランザクションの正確性と完全性が極めて重要です。障害発生時には、ジャーナルファイルを用いたロールフォワードとロールバックにより、最後の一貫性のある状態まで正確に復旧します。例えば、送金処理中に障害が発生した場合でも、トランザクションログを使用して、すべての処理を確実に再現し、データの一貫性を保ちます。
3.2. Eコマースプラットフォームでの活用
大規模なEコマースサイトでは、注文データの損失を防ぐため、複数の地理的に分散したデータセンターでリアルタイムレプリケーションを行い、障害時には別のデータセンターへの自動フェイルオーバーを実施します。例えば、主要なデータセンターが停止した場合でも、バックアップセンターが即座に稼働し、サービスを継続します。
4. 例題
- 例題1:
Q: データベースのバックアップ方式のうち、最も時間とストレージ容量を必要とするものは次のうちどれか?
a) フルバックアップ
b) 差分バックアップ
c) 増分バックアップ
d) ログバックアップ A: 正解は a) フルバックアップ
解説:フルバックアップはデータベース全体をコピーするため、最も時間とストレージ容量を必要とします。差分や増分バックアップは、変更されたデータのみを保存するため、容量が節約されますが、復旧には複数のファイルが必要です。 - 例題2:
Q: データベース障害からの回復プロセスで、チェックポイント以降の操作をジャーナルファイルから再適用する処理を何というか?
a) ロールバック
b) ロールフォワード
c) ウォームスタート
d) コールドスタート A: 正解は b) ロールフォワード
解説:ロールフォワードは、チェックポイント以降の操作をジャーナルファイルから再適用する処理を指します。ロールバックは、未完了のトランザクションを取り消す処理です。
5. まとめ
データベースの障害回復は、システムの信頼性と可用性を確保するために不可欠な機能です。主要なポイントは以下の通りです:
- バックアップ方式(フル、差分、増分)の適切な選択と世代管理
フルバックアップは完全コピー、差分バックアップは変更分のみ、増分バックアップは直近の変更分のみを保存します。 - ジャーナルファイルを用いたロールフォワードとロールバックによる正確な復旧
最新の状態に復旧し、未完了のトランザクションを除外します。 - チェックポイントの活用による効率的なリカバリ
リカバリの開始点を効率的に設定し、復旧時間を短縮します。 - ウォームスタートとコールドスタートによるデータベース環境の再構築
必要に応じて部分的または完全な再構築を行います。 - 定期的な再編成によるアクセス効率の維持
インデックスやテーブルの最適化を通じて、データベースのパフォーマンスを保ちます。