4.5. データ制御

1. 概要

 データベース管理システム(DBMS)において、トランザクション処理におけるデータ制御、特にアクセス制御は非常に重要な要素です。アクセス制御とは、データベース内の情報に対して、誰がどのような操作を行えるかを管理する仕組みのことを指します。この仕組みにより、データの機密性、整合性、可用性が保たれ、組織の情報資産を適切に保護することができます。また、トランザクション処理とは、複数の操作を1つのまとまりとして管理し、全ての操作が成功するか失敗するかを保証する仕組みです。

2. 詳細説明

2.1. アクセス制御の必要性

 複数のユーザーが同じデータベースを利用する環境では、以下の理由からアクセス制御が不可欠です:

  1. データの機密性保護:不正なアクセスから重要なデータを守るため
  2. 不正アクセスの防止:システムを利用するユーザーに対して適切な権限を設定することで、不正アクセスを防止する
  3. データの整合性維持:データの正確性を保証し、不適切な変更を防ぐ
  4. 業務上の役割に応じた適切なアクセス範囲の設定:業務に必要な最低限の権限のみをユーザーに付与することで、セキュリティリスクを最小限にする

2.2. アクセス権限の種類

 データベースにおける主なアクセス権限には以下のものがあります:

  1. 接続権限:データベースに接続する権限
  2. 参照権限:データを検索・閲覧する権限
  3. 挿入権限:新しいデータを追加する権限
  4. 更新権限:既存のデータを変更する権限
  5. 削除権限:データを削除する権限

2.3. アクセス制御の実装方法

 アクセス制御は主に以下の方法で実装されます:

  1. ユーザー認証:ユーザーIDとパスワードによる認証により、ユーザーの識別を行います。
  2. ロールベースアクセス制御(RBAC):ユーザーの役割に基づいて権限を付与する方法です。たとえば、管理者には全ての権限を与え、一般ユーザーには閲覧のみを許可するなど、役割に応じた権限の設定を行います。
  3. 強制アクセス制御(MAC):データに機密レベルを設定し、ユーザーの権限レベルと照合してアクセスを制御します。これは、政府機関や軍事組織など、高度なセキュリティが求められる環境でよく使用されます。
  4. 任意アクセス制御(DAC):データの所有者が他のユーザーに対して自由に権限を付与する方法です。これは、柔軟性が求められる環境で使われることが多いですが、不適切な権限の付与がセキュリティリスクとなる場合もあります。

3. 応用例

3.1. 企業の人事システム

 人事部門のユーザーには従業員の個人情報に対する参照権限、挿入権限、更新権限が与えられますが、一般社員には自身の情報に対する参照権限のみが与えられます。これにより、データの機密性と整合性を保ちながら、業務に必要な情報へのアクセスが制限されます。

3.2. 銀行のオンラインバンキングシステム

 顧客には自身の口座情報に対する参照権限のみが与えられ、銀行員には顧客サポートのための参照権限と、必要に応じて更新権限が与えられます。このように、最小限の権限のみを付与することで、セキュリティを確保します。

3.3. 電子商取引サイト

 顧客には商品情報の参照権限と注文情報の挿入権限が与えられ、サイト管理者には商品情報の参照権限、挿入権限、更新権限、削除権限が与えられます。また、システムの安定性を確保するために、管理者にはシステムバックアップやメンテナンスに必要な権限も付与されます。

3.4. 医療機関の患者データ管理システム

 医師には患者の全ての医療情報に対する参照権限と更新権限が与えられますが、看護師には必要な情報に対する参照権限のみが与えられます。これにより、患者のプライバシーを保護しつつ、医療提供の効率を向上させます。

4. 例題

例題1

問題:ある企業の販売管理システムにおいて、以下の要件を満たすためにどのようなアクセス権限を設定すべきか説明してください。

  • 営業部員は顧客情報を閲覧できるが、変更はできない
  • 管理者は全ての情報を閲覧・変更できる
  • システム運用者はデータベースに接続し、バックアップを取得できる

回答例:

  1. 営業部員:顧客情報テーブルに対する参照権限
  2. 管理者:全てのテーブルに対する参照権限、挿入権限、更新権限、削除権限
  3. システム運用者:データベースへの接続権限、バックアップ取得に必要な権限(例:BACKUP DATABASE権限)

例題2

問題:データベースのアクセス制御において、「最小権限の原則」とは何か、またなぜ重要なのか説明してください。

回答例:
 「最小権限の原則」とは、ユーザーに対して、その役割を遂行するために必要最小限の権限のみを付与する原則です。これは以下の理由で重要です:

  1. セキュリティリスクの最小化:不必要な権限を持たないことで、誤操作や悪意のある行為によるデータ損失や漏洩のリスクを減らせる
  2. データの整合性維持:必要な操作のみを許可することで、意図しないデータの変更や削除を防ぐ
  3. 監査とトラッキングの容易化:各ユーザーの行動範囲が明確になり、問題発生時の原因特定が容易になる

5. まとめ

 データベースのアクセス制御は、組織の重要な情報資産を保護するために不可欠な機能です。適切なアクセス権限の設定により、データの機密性、整合性、可用性が確保されます。具体的には、接続権限、参照権限、挿入権限、更新権限、削除権限などを、ユーザーの役割や責任に応じて適切に付与することが重要です。また、最小権限の原則に基づいてアクセス権限を管理することで、セキュリティリスクを最小限に抑えつつ、効率的なデータ活用を実現することができます。