2.4. 伝送制御

1. 概要

 伝送制御は、ネットワーク上でデータを送受信する際、そのデータを確実に相手に届けるための制御機能です。データ通信において、情報の正確性と効率性を確保するために不可欠な要素であり、ネットワークの信頼性と性能に直接影響を与えます。例えば、インターネットでのメール送信や、動画ストリーミングサービスにおけるデータの配信など、あらゆる場面で伝送制御の技術が活用されています。

 伝送制御の主な目的は、データの欠落や重複、順序の乱れを防ぎ、エラーを検出・訂正することで、送信者から受信者へのデータの確実な伝送を保証することです。これにより、例えばオンライン取引のデータや医療データなど、重要な情報が安全かつ正確に送信されることが保証されます。現代の情報社会において、伝送制御はデータの完全性と可用性を維持するために不可欠な役割を果たしています。

2. 詳細説明

2.1. データリンク制御

 データリンク制御は、隣接するノード間でのデータ伝送を管理する制御機能です。ネットワークの最下層で、データがどのように送受信されるかを管理し、送信側と受信側の通信がスムーズに行われるようにします。主な機能には以下があります:

2.1.1. フロー制御

 送信側と受信側のデータ処理速度の差を調整し、データの溢れや損失を防ぐ機能です。例えば、高速なサーバーが低速なデバイスにデータを送信する場合、フロー制御が行われないとデータが失われる可能性があります。

2.1.2. エラー制御

 伝送路上で発生するビット誤りを検出し、必要に応じて訂正する機能です。主な方式には以下があります:

  • パリティチェック:データに1ビットの検査ビットを付加してエラーを検出しますが、検出力は低いです。
  • CRC(巡回冗長検査):多項式による除算を用いて高精度なエラー検出を行います。長いデータの伝送に適していますが、オーバーヘッドが大きくなる場合があります。
  • ハミング符号:エラーの検出と訂正が可能な符号化方式です。例えば、メモリ内のデータ保護に使用されることがあります。

2.1.3. 同期制御

 送信側と受信側のタイミングを合わせる機能です。主な方式には以下があります:

  • SYN同期:特殊な同期文字(SYN)を用いて同期を取ります。
  • フラグ同期:フラグパターンを用いてフレームの開始と終了を示します。
  • フレーム同期:フレーム単位で同期を取ります。これにより、データの順序が保たれます。

2.2. 伝送制御手順

 伝送制御手順は、データリンク層でのデータ伝送の規則を定めたものです。主な方式には以下があります:

2.2.1. ベーシック手順

 1対1の通信で使用される基本的な手順です。シンプルで効率的なため、低コストのシステムでよく使用されます。

2.2.2. HDLC(High-level Data Link Control)

 ビット指向の高機能なデータリンク制御手順です。エラー制御や全二重通信をサポートし、高速で信頼性の高いデータ伝送を実現します。

2.2.3. マルチリンク手順

 複数の回線を同時に使用して通信を行う手順です。これにより、帯域幅を増やし、データの伝送速度を向上させます。

2.3. アクセス制御方式

 複数の端末が1つの通信路を共有する際の制御方式です。主な方式には以下があります:

2.3.1. コンテンション方式

 各端末が自由にデータを送信し、衝突が発生した場合は再送を行う方式です。例えば、Wi-Fiの通信プロトコルで使用されています。

2.3.2. ポーリング/セレクティング方式

 制御局が各端末に順番にデータの送受信の権限を与える方式です。効率的なバスネットワークの管理に使用されます。

2.4. ルーティング制御

 ネットワーク層で行われる、データパケットの経路選択を制御する機能です。主な方式には以下があります:

2.4.1. 相手固定

 あらかじめ決められた固定経路でデータを転送します。小規模なネットワークや一方向通信に適しています。

2.4.2. 交換方式

 通信の都度、最適な経路を選択してデータを転送します。例えば、インターネットの動的ルーティングプロトコルで使用されます。

2.5. コネクション方式

 データ転送の前後に論理的な接続を確立するかどうかで分類されます:

2.5.1. コネクション型

 データ転送前に論理的な接続を確立し、転送後に切断します。例えば、TCPプロトコルがこれに該当します。信頼性が高いですが、オーバーヘッドが大きくなります。

2.5.2. コネクションレス型

 論理的な接続を確立せずにデータを転送します。例えば、UDPプロトコルがこれに該当します。効率的ですが、信頼性は低くなります。

3. 応用例

 伝送制御の技術は、様々な分野で応用されています:

  1. インターネット通信:TCPプロトコルがコネクション型の伝送制御を実現し、信頼性の高いデータ転送を可能にしています。
  2. モバイル通信:携帯電話網では、HDLCを基にした制御手順が使用され、安定した音声やデータ通信を実現しています。
  3. 産業用ネットワーク:工場の生産ラインなど、リアルタイム性と信頼性が求められる環境で、高度な伝送制御技術が利用されています。
  4. 衛星通信:長距離・高遅延の通信環境で、効率的なエラー制御や同期制御が必要とされます。
  5. クラウドサービス:大規模データセンター間の通信で、高速かつ信頼性の高いデータ転送を実現しています。
  6. IoTデバイス間通信:センサーやアクチュエーターが相互にデータを交換する際の遅延を最小限に抑えるために、効率的な伝送制御が必要です。

4. 例題

例題1

 ある通信システムでは、1フレームあたり1000ビットのデータを送信しています。ビット誤り率が10^-4の場合、CRCを用いてエラー検出を行う際の検査ビット数として適切なものはどれですか。

  1. 8ビット
  2. 16ビット
  3. 32ビット
  4. 64ビット

回答:2. 16ビット

解説:ビット誤り率が10^-4なので、1000ビットあたり0.1ビット(平均)のエラーが発生します。16ビットのCRCは2^16 = 65536

パターンのエラーを検出できるため、十分な検出能力があると判断できます。

例題2

 HDLCの特徴として正しくないものはどれですか。

  1. ビット指向の手順である
  2. 全二重通信をサポートしている
  3. フレーム同期方式を採用している
  4. パリティチェックによるエラー検出を行う

回答:4. パリティチェックによるエラー検出を行う

解説:HDLCでは、エラー検出にCRCを使用します。パリティチェックはより単純なエラー検出方式であり、HDLCでは採用されていません。

5. まとめ

 伝送制御は、データ通信において信頼性と効率性を確保するための重要な技術です。主な要素として、データリンク制御、伝送制御手順、アクセス制御方式、ルーティング制御、コネクション方式があります。これらの技術を適切に組み合わせることで、様々な通信環境や要求に対応したネットワークシステムを構築することができます。