2.5. メディアアクセス制御

1. 概要

 メディアアクセス制御(Media Access Control: MAC)は、ネットワーク上の複数のデバイスが共有通信媒体を効率的かつ公平に利用するための制御方式です。MACは、データリンク層の下位層に位置し、データの送受信方法や誤り検出方法を規定しています。

 MACの重要性は、ネットワークの性能と信頼性を確保する上で極めて高いものです。適切なMAC方式を選択・実装することで、データの衝突を回避し、ネットワークリソースの効率的な利用が可能となります。

2. MACの目的と代表的な方式

2.1. MACの目的

 MACの主な目的は以下の通りです:

  1. 共有媒体へのアクセス制御
  2. データの衝突回避
  3. 公平なネットワークリソースの分配
  4. データの誤り検出と訂正

2.2. 代表的なMAC方式

 代表的なMAC方式として、CSMA/CD、CSMA/CA、トークンパッシングが挙げられます。それぞれの方式は、異なる特性と動作原理を持ち、異なるネットワーク環境に適しています。

2.2.1. CSMA/CD (Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)

 CSMA/CDは、イーサネットで広く使用されているMAC方式です。

  • 動作原理
  1. キャリアセンス:送信前に通信媒体の使用状況を確認する
  2. 衝突検出:送信中に衝突を検出した場合、送信を中止する
  3. バックオフ:ランダムな時間待機後、再送を試みる
  • 特徴
  • 有線環境に適している
  • 低負荷時の効率が高い
  • 高負荷時のスループット低下が課題(ネットワーク全体の帯域幅を使用するため、衝突が多発する可能性がある)

2.2.2. CSMA/CA (Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance)

 CSMA/CAは、無線環境で主に使用されるMAC方式です。

  • 動作原理
  1. キャリアセンス:送信前に通信媒体の使用状況を確認する
  2. 衝突回避:送信前にランダムな待機時間を設定する
  3. ACK:受信側からの確認応答を利用し、データの受信確認を行う
  • 特徴
  • 無線環境に適している
  • 衝突を事前に回避する設計
  • オーバーヘッドが大きい(待機時間の設定と確認応答により、データ送信の効率が低下する可能性がある)

2.2.3. トークンパッシング

 トークンパッシングは、論理的なリング構造を形成し、トークンと呼ばれる特殊なフレームを巡回させる方式です。

  • 動作原理
  1. トークンの保持:トークンを保持することでデータ送信権を得る
  2. データ送信:トークンにデータを付加して送信する
  3. トークン解放:送信完了後、次のノードへトークンを渡す
  • 特徴
  • 衝突が発生しない(トークンを持つノードのみが送信できるため)
  • 公平性が高い
  • 高負荷時でも安定したスループットを維持

3. 応用例

3.1. イーサネット(有線環境)

 CSMA/CDを採用し、オフィスや家庭での有線ネットワークで広く使用されています。例えば、複数のデスクトップコンピュータが同じネットワークを使用してインターネットに接続する場合、CSMA/CD方式により効率的なデータ送信が可能です。

3.2. Wi-Fi(無線環境)

 CSMA/CAを採用し、モバイルデバイスやIoT機器の接続に利用されています。カフェやオフィスでの多数のデバイスによるインターネット接続など、無線通信の衝突を避けるために最適です。

3.3. 産業用ネットワーク

 トークンパッシング方式を採用した産業用プロトコル(例:PROFIBUS)が、工場の自動化システムやリアルタイム通信が求められる環境で使用されています。例えば、工場の生産ラインで各センサーや機械がデータを交換する際に、安定した通信が保証されます。

4. 例題

例題1

Q: CSMA/CD方式において、衝突が発生した場合の動作を説明してください。

A: CSMA/CD方式で衝突が発生した場合、以下の手順で対処します:

  1. 衝突検出:送信ノードが衝突を検知
  2. ジャム信号送信:他のノードに衝突を通知
  3. 送信中止:すべての送信ノードがデータ送信を停止
  4. バックオフ時間計算:各ノードがランダムな待機時間を設定
  5. 再送信:バックオフ時間経過後、再びCSMAを実行し送信を試みる

例題2

Q: CSMA/CAとCSMA/CDの主な違いを2つ挙げてください。

A: CSMA/CAとCSMA/CDの主な違いは以下の通りです:

  1. 衝突への対応
  • CSMA/CA:衝突を事前に回避(Avoidance)する
  • CSMA/CD:衝突を検出(Detection)し、事後に対処する
  1. 適用環境
  • CSMA/CA:主に無線環境で使用
  • CSMA/CD:主に有線環境で使用

5. まとめ

 メディアアクセス制御(MAC)は、ネットワーク上のデバイスが共有媒体を効率的に利用するための重要な技術です。主要なMAC方式として、CSMA/CD、CSMA/CA、トークンパッシングがあり、それぞれ特徴と適用環境が異なります。

 CSMA/CDは有線環境で広く使用され、衝突検出に基づいて動作します。CSMA/CAは無線環境向けに設計され、衝突回避に重点を置いています。トークンパッシングは、論理的なリング構造を利用し、衝突のない通信を実現します。

 適切なMAC方式の選択と実装により、ネットワークの性能と信頼性を最適化することができます。これらのMAC方式の特徴と動作原理を理解することは、効率的なネットワーク設計と運用に不可欠です。

6. 参考文献

  1. IEEE 802.3 イーサネット規格
    IEEE 802.3 Ethernet Working Group
  2. IEEE 802.11 無線LAN規格
    IEEE 802.11 Wireless LAN Working Group
  3. “Computer Networking: A Top-Down Approach” by James F. Kurose and Keith W. Ross
    Pearson Official Book Page