2.1.2. キャパシティプランニング

1. 概要

 キャパシティプランニングとは、情報システムの性能要件を満たすために、必要な処理能力や容量を適切に計画し、管理する重要なプロセスです。システムに求められる処理の種類、量、処理時間などを詳細に分析し、それに基づいてサーバやストレージなどのハードウェアリソースを適切に設計・調達することを目的としています。

 このプロセスは、システムの安定稼働と効率的な運用を確保するために不可欠であり、ビジネスニーズの変化に応じて継続的に行われる必要があります。

2. 詳細説明

2.1. キャパシティプランニングの目的

 キャパシティプランニングの主な目的は以下の通りです:

  1. システムの安定性確保
  2. パフォーマンスの最適化
  3. コスト効率の向上
  4. 将来の成長に対する準備

2.2. キャパシティプランニングの手順

 キャパシティプランニングは、以下の手順で実施されます:

  1. 現在の負荷状況の分析
  2. 将来の需要予測
  3. システムパラメータの設定
  4. 必要なリソースのサイジング
  5. プロビジョニング(資源配分)の実施
  6. 性能モニタリングと評価
  7. 必要に応じた調整(スケールアップまたはスケールアウト)

2.3. システムに求められる処理の種類と量

 システムの性能要件を定義する際、以下の要素を考慮する必要があります:

  • トランザクション処理量
  • データ転送量
  • ストレージ容量
  • 同時接続ユーザー数
  • レスポンスタイム

2.4. 容量・能力管理

 容量・能力管理は、キャパシティプランニングの一環として、システムの現在の性能を継続的に監視し、将来の需要に対応するための計画を立てる活動です。これには、定期的なシステムパラメータの見直しと、必要に応じたリソースの追加や再配分が含まれます。

3. 応用例

3.1. Eコマースサイトでのキャパシティプランニング

 大手Eコマースサイトでは、季節ごとの売上変動や特別セールイベントに備えて、キャパシティプランニングを実施しています。例えば、年末商戦期間中は通常の10倍のトラフィックが予想される場合、以下の対策を講じます:

  1. 負荷テストによる現行システムの限界値の把握
  2. クラウドサービスを活用したスケールアウト対策の準備
  3. データベースサーバーのスケールアップによる処理能力の向上
  4. コンテンツデリバリーネットワーク(CDN)の活用による負荷分散

3.2. 金融機関のオンラインバンキングシステム

 金融機関のオンラインバンキングシステムでは、安定性と高いセキュリティが要求されます。キャパシティプランニングでは以下の点に注意を払います:

  1. ピーク時のトランザクション処理量の予測と対応
  2. データバックアップと災害復旧のためのストレージ容量の確保
  3. セキュリティ監視システムの処理能力の確保
  4. 法規制に準拠したデータ保持期間を考慮したストレージ計画

4. 例題

例題1

問題:ある企業のWebサービスで、現在1日あたり10万件のトランザクションを処理しています。来年度は20%の成長が見込まれています。現在のCPU使用率が平均60%であるとき、来年度に向けてどのような対策を検討すべきでしょうか。

回答例:

  1. 予測されるトランザクション数:10万 × 1.2 = 12万件/日
  2. 現在のCPU使用率が60%で10万件を処理しているため、12万件では72%の使用率になると予測される
  3. 72%はまだ許容範囲内だが、余裕を持たせるためにスケールアップ(より高性能なCPUへの置き換え)またはスケールアウト(サーバー台数の増加)を検討する
  4. 成長率が継続する可能性を考慮し、クラウドサービスの利用も視野に入れる

例題2

問題:データセンターのストレージシステムで、現在の使用容量が80TBで、毎月5%ずつ増加しています。現在の総容量は100TBです。キャパシティプランニングの観点から、いつ頃に追加のストレージが必要になるか計算してください。

回答例:

  1. 現在の空き容量:100TB – 80TB = 20TB
  2. 毎月の増加量:80TB × 5% = 4TB
  3. 空き容量がなくなるまでの月数:20TB ÷ 4TB/月 = 5か月
  4. 結論:約5か月後に追加のストレージが必要になる
  5. 実際の運用では、80%程度で警告を出すなど、余裕を持った計画が必要

5. まとめ

 キャパシティプランニングは、情報システムの安定運用と効率的な資源活用を実現するための重要な活動です。以下の点が重要です:

  1. システムの負荷状況を正確に把握し、将来の需要を予測する
  2. 適切なサイジングとプロビジョニングを行い、必要十分なリソースを確保する
  3. スケールアップとスケールアウトの両方の手法を状況に応じて検討する
  4. システムパラメータを継続的にモニタリングし、必要に応じて調整を行う
  5. 容量・能力管理を通じて、システムの性能を常に最適な状態に保つ  適切なキャパシティプランニングにより、システムのパフォーマンス向上、コスト削減、そしてビジネスの成長への迅速な対応が可能となります。