5.3. 補助記憶装置

1. 概要

 補助記憶装置は、コンピュータシステムにおいて主記憶装置(RAM)と比較して大容量かつ不揮発性の記憶装置です。これらの装置は、データやプログラムを長期的に保存するために使用され、コンピュータの電源が切れてもデータを保持することができます。補助記憶装置の理解は、情報システムの設計や運用において極めて重要です。

2. 詳細説明

2.1. 主な補助記憶装置の種類と特徴

2.1.1. ハードディスク装置(HDD)

 ハードディスク装置は、磁気ディスクを用いた記憶装置です。

  • 構成要素:スピンドル、磁気ディスク、アクセスアーム、磁気ヘッド
  • 特徴:大容量、比較的低コスト、機械的動作による耐久性の制限
  • データ構造:トラック、シリンダ、セクター

2.1.2. SSD(ソリッドステートドライブ)

 SSDは、フラッシュメモリを使用した記憶装置です。

  • 特徴:高速アクセス、低消費電力、耐衝撃性、無音動作
  • HDDと比較して高コストだが、近年価格が低下傾向

2.1.3. 光学ドライブ

  • CD-R/RWドライブ、DVD-R/RWドライブ、ブルーレイドライブ
  • 特徴:可搬性、比較的大容量、低コスト
  • 用途:データバックアップ、メディア配布

2.1.4. 磁気テープ装置

  • 特徴:大容量、低コスト、シーケンシャルアクセス
  • 用途:大規模バックアップ、アーカイブ

2.1.5. メモリカード

  • SD/SDHC/SDXCカードなど
  • 特徴:小型、可搬性、耐衝撃性
  • 用途:モバイルデバイス、カメラ等

2.2. 補助記憶装置の仕組みと性能指標

2.2.1. ハードディスクの仕組み

  • トラック:ディスク上の同心円状のデータ記録領域
  • シリンダ:複数のディスク面における同じ位置のトラックの集合
  • セクター:トラックを分割した最小単位
  • ブロック化因数:1ブロックあたりのセクター数
  • IBG(Interblock Gap):ブロック間の間隔

2.2.2. 性能指標

  • シークタイム:目的のトラックに磁気ヘッドを移動する時間
  • サーチタイム:目的のセクターが回転してくるのを待つ時間
  • データ転送時間:データを読み書きする時間
  • データ転送速度:単位時間あたりのデータ転送量
  • 平均アクセス時間:シークタイム + サーチタイム + データ転送時間の平均

2.3. 補助記憶装置の管理

  • ボリューム:論理的なディスク単位
  • ボリュームラベル:ボリュームを識別するための名前
  • 見出しラベル:テープの先頭に記録される識別情報
  • 後書きラベル:テープの終端に記録される管理情報
  • デフラグメンテーション:断片化したファイルを最適化する処理

3. 応用例

3.1. エンタープライズストレージシステム

 大規模なデータセンターやクラウドサービスでは、ディスクアレイ技術を用いた高性能・高信頼性のストレージシステムが利用されています。RAIDなどの技術により、データの冗長性と高速アクセスを実現しています。

3.2. モバイルデバイスのストレージ

 スマートフォンやタブレットなどのモバイルデバイスでは、小型かつ低消費電力のSSDやeMMC(embedded Multi-Media Card)が広く使用されています。これにより、デバイスの小型化と長時間駆動を実現しています。

3.3. ビッグデータ分析基盤

 大量のデータを分析するビッグデータ基盤では、高速なSSDと大容量のHDDを組み合わせたハイブリッドストレージシステムが採用されています。頻繁にアクセスされるデータをSSDに、長期保存データをHDDに配置することで、性能とコストのバランスを取っています。

4. 例題

例題1:平均アクセス時間の計算

問題:あるハードディスクの平均シークタイムが8ms、平均回転待ち時間が4ms、1トラックあたりのデータ量が500KB、データ転送速度が50MB/秒の場合、10MBのデータにアクセスする平均時間を計算せよ。

解答:

  1. 平均回転待ち時間(サーチタイム):4ms
  2. データ転送時間:10MB ÷ 50MB/秒 = 0.2秒 = 200ms
  3. 平均アクセス時間 = シークタイム + サーチタイム + データ転送時間
    = 8ms + 4ms + 200ms = 212ms

例題2:記憶容量の計算

問題:あるハードディスクが以下の仕様である場合、総記憶容量を計算せよ。

  • トラック数:20,000
  • 1トラックあたりのセクター数:200
  • 1セクターあたりのバイト数:512バイト
  • プラッタ(ディスク面)の枚数:4

解答:

  1. 1トラックあたりの容量:200セクター × 512バイト = 102,400バイト
  2. 1プラッタあたりの容量:20,000トラック × 102,400バイト = 2,048,000,000バイト
  3. 総記憶容量:2,048,000,000バイト × 4プラッタ = 8,192,000,000バイト ≈ 7.63GB

5. まとめ

 補助記憶装置は、コンピュータシステムにおいて不可欠な構成要素です。主な種類として、HDD、SSD、光学ドライブ、磁気テープ装置、メモリカードなどがあり、それぞれ特性や用途が異なります。性能指標としては、シークタイム、サーチタイム、データ転送速度などが重要です。補助記憶装置の選択と管理は、システムの性能と信頼性に大きく影響するため、適切な理解と運用が求められます。