3.2.5. 調達選定

<< 3.2.4. 提案書・見積書

1. 概要

 調達選定とは、システム開発やITサービス導入において、最適なベンダーを選ぶプロセスのことです。このプロセスは、情報システム部門が行う重要な業務の一つであり、プロジェクトの成功を左右する重要な要素となります。適切な調達選定を行うことで、内部統制の強化、コスト最適化、品質確保、そして法令遵守が実現できます。

1.1. 調達選定の目的

 調達選定の主な目的は、システム開発やサービス提供において最も適したベンダーを選定することです。この選定プロセスでは、原価構成工期、品質、ベンダーの信頼性など、多角的な視点から評価を行います。特に近年では、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)調達グリーン調達といった社会的・環境的側面も重要な選定基準となっています。

2. 詳細説明

2.1. 調達選定の手順

 調達選定は以下の手順で実施されるのが一般的です。

  1. 調達要件の明確化:システムに求められる機能要件、非機能要件、予算、納期などを明確にします。
  2. 提案依頼書(RFP: Request For Proposal)の作成と配布:調達要件を詳細に記載したRFPを作成し、候補ベンダーに配布します。
  3. ベンダーからの提案書・見積書の受領:各ベンダーから提案書と見積書を受け取ります。
  4. 提案評価基準に基づく評価:あらかじめ定めた評価基準に従って、各ベンダーの提案内容を評価します。
  5. 最終選定と契約:評価結果に基づいて最適なベンダーを選定し、契約を締結します。
flowchart TD
    A[調達要件の明確化] --> B[RFP作成と配布]
    B --> C[提案・見積書受領]
    C --> D[提案評価基準作成]
    D --> E[ベンダー比較評価]
    E --> F[最終選定と契約]
    style A fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style B fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style C fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style D fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style E fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px
    style F fill:#f9f9f9,stroke:#333,stroke-width:1px

図1:調達選定プロセスのフロー図

2.2. 提案評価基準の策定

 提案評価基準は、ベンダー選定において客観的な判断を行うための重要なツールです。評価基準には以下のような要素が含まれます:

  • 技術力(要求仕様への適合度)
  • 開発の確実性と信頼性
  • 原価構成の妥当性と費用内訳
  • 工期と工程別スケジュールの実現可能性
  • 最終納期の遵守可能性
  • 要員スキルに関するリスクの低減策
  • 品質リスクへの対応策
  • 法令遵守への取り組み
  • CSR調達への対応状況
  • グリーン調達への取り組み
評価項目 配点 評価方法 評価ポイント
技術力 25% 5段階評価 要求仕様への適合性、技術的実現性
費用(原価構成) 20% 5段階評価 費用内訳の妥当性、コストパフォーマンス
工期と納期 20% 5段階評価 スケジュールの実現性、余裕度
品質管理体制 15% 5段階評価 品質保証体制、過去の実績
要員スキル 10% 5段階評価 チーム構成、経験・スキルレベル
CSR・グリーン調達 10% 5段階評価 環境配慮、社会的責任への取り組み

表1:提案評価基準のサンプルテンプレート

2.3. リスク評価の重要性

 調達選定においては、様々なリスクを評価することが重要です。主なリスクには以下のようなものがあります:

  • 品質リスク:要求仕様を満たせない可能性
  • 納期リスク:納期遅延の可能性
  • 費用超過リスク:予算を超過する可能性
  • 要員スキルに関するリスク:必要なスキルを持つ要員が確保できない可能性

 これらのリスクを適切に評価し、リスク低減策が十分であるかを確認することが選定プロセスでは重要となります。各リスクは影響度と発生確率の観点から評価し、重大なリスクに対しては特に念入りに対応策を確認する必要があります。

図2:調達選定におけるリスク評価マトリクス

2.4. 要求事項適合度の重み付け

 すべての要求事項が同等の重要性を持つわけではありません。そのため、各要求事項に対して重み付けを行い、重要度に応じた評価を行うことが効果的です。例えば、セキュリティ要件やパフォーマンス要件など、システムの根幹に関わる要件には高い重みを付け、要求事項適合度を総合的に評価します。

 重み付けの際には、業務上の重要性、利用頻度、他の要件への影響度などを考慮し、ステークホルダーとの合意の上で決定することが重要です。この重み付けを適切に行うことで、真に重要な要件に適合したベンダーを選定することができます。

2.5. CSRとグリーン調達の視点

 近年の調達選定においては、CSR調達グリーン調達の視点が重要性を増しています。これらは企業の社会的責任を果たすだけでなく、長期的なリスク管理の観点からも重要です。

区分 評価ポイント チェック項目
CSR調達 労働環境 労働時間管理、ハラスメント対策、安全衛生管理
人権配慮 差別防止、多様性尊重、人権方針の明確化
コンプライアンス 法令遵守体制、内部通報制度、内部統制
グリーン調達 環境マネジメント ISO14001認証、環境方針、環境目標設定
省エネルギー CO2排出削減、省エネ設備導入、再生可能エネルギー利用
廃棄物削減 リサイクル率、廃棄物管理、資源有効活用

表2:CSR調達・グリーン調達の評価ポイント

3. 応用例

3.1. 企業情報システム部門での調達選定

 大手製造業A社では、新たな基幹システムの導入にあたり、調達選定プロセスを以下のように実施しました:

  1. RFPで内部統制強化と法令遵守を重視する旨を明記
  2. ベンダー5社からの提案を受け、原価構成工期、リスク対応策を詳細に比較
  3. CSR調達の観点から、各ベンダーの社会的取り組みを評価
  4. グリーン調達基準を満たすベンダーに加点
  5. 品質リスク納期リスク費用超過リスク要員スキルに関するリスクの4つの観点から総合評価

 結果として、単純な価格の安さではなく、リスク対応力と社会的責任を重視した選定を行い、プロジェクトを成功させました。具体的には、開発実績と品質管理体制が充実しており、適切なリスク対応策を提示したベンダーを選定しました。このベンダーは価格面では2番目でしたが、総合的な評価では最も高い評価を得ました。

3.2. 公共機関での調達選定

 ある地方自治体では、住民情報システムの更新にあたり、以下のような調達選定アプローチを採用しました:

  1. 提案評価において、機能要件の充足度に40%、原価構成の妥当性に30%、工期の確実性に20%、ベンダーの実績に10%の重み付け
  2. 内部統制法令遵守に関する取り組みを必須要件として設定
  3. 品質リスク納期リスクへの対応策を詳細に比較評価
  4. CSR調達グリーン調達への取り組みを加点項目として評価

 このアプローチにより、透明性の高い調達選定が実現し、住民サービスの品質向上につながりました。特に、過去に同様のシステム導入実績があり、自治体特有の業務フローへの適応能力が高いベンダーが選定され、スムーズな移行と安定稼働が実現しました。

4. 例題

例題1

あるシステム開発プロジェクトでベンダー選定を行うにあたり、以下の評価基準に基づいて各ベンダーを評点化した。最も適切なベンダーを選定せよ。

  • 評価基準と重み付け:
    • 技術力(25%)
    • 費用(原価構成の妥当性)(20%)
    • 工期納期リスク対応(20%)
    • 品質リスク対応(15%)
    • 要員スキルに関するリスク対応(10%)
    • CSR調達への取り組み(5%)
    • グリーン調達への取り組み(5%)
  • 各ベンダーの評点(100点満点):
評価項目ベンダーAベンダーBベンダーC
技術力80点90点85点
費用90点75点85点
工期と納期リスク対応85点80点90点
品質リスク対応75点90点80点
要員スキルに関するリスク対応80点85点80点
CSR調達への取り組み70点90点80点
グリーン調達への取り組み75点85点80点

各ベンダーの加重平均点を計算する:

ベンダーA: (80×0.25) + (90×0.20) + (85×0.20) + (75×0.15) + (80×0.10) + (70×0.05) + (75×0.05) = 82.00点

ベンダーB: (90×0.25) + (75×0.20) + (80×0.20) + (90×0.15) + (85×0.10) + (90×0.05) + (85×0.05) = 84.75点

ベンダーC: (85×0.25) + (85×0.20) + (90×0.20) + (80×0.15) + (80×0.10) + (80×0.05) + (80×0.05) = 84.25点

よって、最も評点の高いベンダーBを選定する。

例題2

あるシステム開発プロジェクトにおいて、ベンダー選定のための提案評価基準を策定中である。以下の各項目について、内部統制法令遵守の観点から、どのような評価ポイントを設けるべきか、最も適切なものを選びなさい。

a) 品質管理体制について

  1. ISO9001認証取得の有無のみを確認する
  2. 品質管理の組織体制と責任者の権限を確認する
  3. 過去のプロジェクトでの不具合発生率のみを確認する
  4. 品質管理マニュアルの有無のみを確認する

b) 費用超過リスクへの対応について

  1. 見積もり金額の安さのみを重視する
  2. 過去のプロジェクトでの予算超過の有無のみを確認する
  3. コスト管理体制と予算超過時の対応手順を確認する
  4. 契約金額の上限を設定するのみで評価しない

a) の正解は 2 理由:内部統制の観点からは、品質管理の組織体制と責任者の権限を確認することが重要である。単に認証の有無や不具合率のみでは、実際の管理体制が適切に機能しているかを評価できない。

b) の正解は 3 理由:費用超過リスクへの対応として、コスト管理体制と予算超過時の対応手順を確認することが内部統制法令遵守の観点から最も適切である。単に金額の安さや過去の実績のみでは、リスク管理体制を評価できない。

例題3

あるシステム開発プロジェクトでベンダー選定を行うにあたり、次の状況に基づいて最適な判断を選びなさい。

プロジェクトの概要:

  • 予算:5,000万円
  • 納期:6ヶ月後(厳守)
  • 重要業務システムの刷新

ベンダー3社の状況:

  • ベンダーA:技術力高、費用4,800万円、工期7ヶ月を希望、品質リスク対応策あり
  • ベンダーB:技術力中、費用4,500万円、工期6ヶ月を約束、納期リスク対応策あり
  • ベンダーC:技術力中、費用5,200万円、工期5ヶ月を約束、要員スキルに関するリスクあり

以下のうち、最も適切な判断はどれか。

  1. ベンダーAを選定する。技術力が高く、予算内に収まるため。
  2. ベンダーBを選定する。予算内で納期を守ることを約束しているため。
  3. ベンダーCを選定する。最も早く納品できるため。
  4. 条件交渉を行い、ベンダーAに工期短縮の可能性を確認する。

正解は 4
理由:重要業務システムの刷新であることから、技術力の高いベンダーAが望ましいが、納期の制約を満たしていない。しかし、単純にベンダーBやCを選ぶのではなく、最も技術力の高いベンダーAと条件交渉を行い、工期短縮の可能性を確認することが適切である。納期は厳守とされているため、この交渉が不調に終わった場合は、納期を守れるベンダーBを選定することになる。

5. まとめ

 調達選定は、システム開発やITサービス導入の成功を左右する重要なプロセスです。適切な選定手順の確立と提案評価基準の策定により、客観的かつ多角的な視点からベンダーを評価し、プロジェクトの成功確率を高めることができます。

 特に、原価構成工期内部統制法令遵守などの基本的な評価項目に加え、品質リスク納期リスク費用超過リスク要員スキルに関するリスクといったリスク対応の評価が重要です。

 また、現代の企業に求められる社会的責任の観点から、CSR調達グリーン調達への取り組みも重要な評価ポイントとなっています。

 情報処理技術者として、これらの知識を身につけ、適切な調達選定を行うことで、システム開発プロジェクトの成功に貢献できるでしょう。

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