3.1.2. 調達計画

1. 概要

 応用情報処理技術者試験のシラバスに含まれるストラテジ系「システム戦略」の「システム企画」における「調達計画」は、情報システムの構築や導入を行う際に非常に重要なプロセスです。調達計画とは、要件定義を踏まえて最適な調達方法を選択し、調達の対象、要求事項、条件などを明確に定義するための計画のことを指します。適切な調達計画を策定することで、コスト削減、リスク軽減、品質確保などの効果が期待でき、プロジェクトの成功に大きく寄与します。

2. 詳細説明

2.1. 調達方法の種類

 調達方法には主に以下の3つがあります。

2.1.1. 既成の製品またはサービスの購入

 市場で既に提供されている製品やサービスを購入する方法です。一般にパッケージソフトウェアやSaaS(Software as a Service)などが該当します。短期間で導入でき、コストも予測しやすいという利点があります。

2.1.2. 組織内部でのシステム開発

 自社の開発チームによってシステムを開発する方法です。要件に合わせた柔軟な開発が可能で、ノウハウを社内に蓄積できるというメリットがあります。

2.1.3. 外部委託によるシステム開発

 外部のベンダーやパートナー企業にシステム開発を委託する方法です。専門的な技術やリソースが不足している場合に効果的です。

flowchart LR
    A[要件定義] --> B[内外作基準による判断]
    B --> C{調達方法選択}
    C -->|既製品で十分| D[既製品/サービス購入]
    C -->|内部で開発可能| E[内部でのシステム開発]
    C -->|外部委託が適切| F[外部委託でのシステム開発]
    D --> G[調達計画策定]
    E --> G
    F --> G
    G --> H[調達実施]

図1:調達方法選択のフローチャート

調達方法 メリット デメリット 適している状況
既製品購入
  • 導入が迅速
  • コスト予測が容易
  • 安定性が高い
  • カスタマイズ性に制限
  • 機能が過剰な場合も
  • 業務に完全に適合しないことも
  • 標準的な業務
  • 迅速な導入が必要
  • 低コストが優先
内部開発
  • 要件に合わせた開発
  • ノウハウの蓄積
  • 機密性の確保
  • リソース確保が必要
  • 開発期間が長期化
  • 技術的なリスク
  • コア業務
  • 高い機密性
  • 長期使用の予定
外部委託
  • 専門的技術の活用
  • 社内リソース節約
  • 責任の明確化
  • コスト増加
  • コミュニケーションコスト
  • 要件伝達の難しさ
  • 専門性が必要
  • リソース不足
  • 期限が厳しい

表1:調達方法比較表

2.2. 内外作基準

 「内製」(組織内部での開発)と「外製」(外部委託)のどちらを選択するかを判断するための基準を「内外作基準」と呼びます。この基準を設定する際には、以下の要素を考慮します。

  • コスト比較
  • 技術的な専門性
  • リソースの可用性
  • 機密情報の扱い
  • 開発期間
  • 将来的な保守・運用体制

 内外作基準に基づいて戦略的に調達方法を選択することで、効率的なシステム開発が可能になります。

判断要素 内製に適する場合 外製に適する場合
コスト 長期的な運用を考慮すると内製が有利 短期的な開発では外製が有利
技術的専門性 社内に専門知識がある 専門知識が社内にない
リソース 開発リソースが十分ある リソースが不足している
機密情報 高度な機密性が求められる 一般的な機密レベルである
開発期間 期間に余裕がある 短期間での開発が必要
保守・運用 社内での継続的改善を想定 外部ベンダーに任せたい

表2:内外作基準の判断要素

2.3. 調達計画の構成要素

2.3.1. 調達の対象

 何を調達するのかを明確に定義します。ハードウェア、ソフトウェア、サービス、人材など調達の対象を具体的に特定します。

2.3.2. 調達の要求事項

 調達対象に求める機能や性能、品質などの要件を明確に定義します。これは要件定義書に基づいて作成されます。

2.3.3. 調達の条件

 納期、価格、支払い条件、保証、サポート体制などの条件を定義します。

2.3.4. 調達プロセス

 調達を実施するための具体的なプロセスを計画します。例えば、IFB(Invitation For Bids:入札募集)やRFP(Request For Proposal:提案依頼書)などの調達方式や、ベンダー選定の方法などを決定します。

 RFPは特に複雑なシステム開発で利用され、単なる仕様だけでなく、ベンダーの専門知識や創造性を活かした提案を求める際に活用されます。

2.4. IFB(Invitation For Bids:入札募集)

 IFBは公共調達や大規模プロジェクトでよく使用される調達方式です。発注者が調達内容や条件を明示し、複数のベンダーから提案や見積もりを募集します。主なプロセスは以下の通りです。

  1. 入札要項の作成
  2. 入札の告知
  3. ベンダーからの質問対応
  4. 入札書類の受付
  5. 入札書類の評価
  6. 落札者の決定
  7. 契約締結

 IFBを実施することで、透明性の高い調達プロセスを確立し、適正な価格でのシステム調達が可能になります。

flowchart LR
    A[入札要項作成] --> B[入札告知]
    B --> C[ベンダーからの質問対応]
    C --> D[入札書類受付]
    D --> E[書類評価]
    E --> F[落札者決定]
    F --> G[契約締結]
    
    classDef process fill:#d4f1f9,stroke:#333,stroke-width:1px;
    class A,B,C,D,E,F,G process;

図2:IFBプロセスの流れ

2.5. 調達リスクとその対策

 調達にはさまざまなリスクが伴います。主なリスクと対策を以下に示します。

2.5.1. ベンダーロックイン

 特定のベンダーに依存することで、将来的なコスト増や選択肢の制限が生じるリスクです。
 対策: 標準技術の採用、複数ベンダーの活用、ソースコードの権利確保などが有効です。

2.5.2. スケジュール遅延

 納期が遅れることによるビジネス機会の損失リスクです。
 対策: 明確なマイルストーン設定、進捗管理の徹底、ペナルティ条項の設定などが有効です。

2.5.3. 品質不足

 期待した品質を満たさないシステムが納品されるリスクです。
 対策: 明確な品質基準の設定、定期的なレビュー、受入テストの充実などが有効です。

2.6. 調達評価基準(ベンダー選定基準)

 ベンダーを選定する際の評価基準は調達の成否を左右する重要な要素です。主な評価基準には以下のものがあります。

2.6.1. 技術力

 求められる技術に関する実績や専門性を評価します。特定の技術に関する認定資格や過去のプロジェクト実績などが判断材料となります。

2.6.2. 価格

 提案された価格の妥当性を評価します。単に最低価格を選ぶのではなく、コストパフォーマンスの観点から評価することが重要です。

2.6.3. 信頼性と安定性

 ベンダーの財務状況や企業としての安定性を評価します。長期的なサポートが必要なシステムでは特に重要です。

2.6.4. サポート体制

 導入後のサポート体制や保守管理の充実度を評価します。障害時の対応時間やサポート範囲などが判断材料となります。

3. 応用例

3.1. 公共機関でのシステム調達

 政府機関や地方自治体などの公共機関では、透明性と公平性を確保するため、IFBを活用した調達が一般的です。例えば、自治体の住民情報システムの刷新プロジェクトでは、要件定義に基づいて調達計画を策定し、IFBによって複数のベンダーから提案を募ることで、最適なシステムを選定します。

3.2. 大企業での基幹システム更新

 大企業での基幹システム更新では、内外作基準に基づいて、コアとなる部分は内製、周辺システムは外部委託というハイブリッドな調達方法が採用されることがあります。これにより、重要なノウハウは社内に残しつつ、効率的なシステム開発が可能になります。

3.3. スタートアップでのシステム導入

 リソースが限られているスタートアップでは、既成のSaaSを活用することで、初期投資を抑えつつ必要な機能を素早く導入する調達方法が選ばれることが多いです。この場合も、要件に基づいて最適なSaaSを選択するための調達計画が重要です。

4. 例題

例題1

 ある企業が新しい顧客管理システムを導入するにあたり、調達計画を策定する必要があります。要件定義の結果、以下の条件が明らかになりました。

  • 導入期間は6か月以内
  • カスタマイズ性が高いこと
  • データの機密性が高い
  • 社内にはITリソースが限られている

この条件から、最適な調達方法と、その選択理由を述べなさい。

 最適な調達方法は「外部委託によるシステム開発」が適切と考えられます。理由としては、社内のITリソースが限られているため内製は難しく、カスタマイズ性が高いことが求められているため既成のパッケージでは対応が難しい可能性があるためです。また、データの機密性が高いことから、SaaSなどのクラウドサービスよりも、より管理の行き届いた専用システムの開発が望ましいと判断できます。ただし、導入期間が6か月以内という制約があるため、調達計画にはスケジュール管理を厳格に行うための条件を含める必要があります。

例題2

 以下は、ある地方自治体が行政システムの調達計画を策定する際の記述です。不適切な記述を選びなさい。

  1. 内外作基準に基づき、高い機密性が求められる住民情報システムは内製とした。
  2. IFBを実施するにあたり、特定ベンダーの製品名を明記して入札要項を作成した。
  3. 調達の要求事項には、システムの可用性、性能、セキュリティ要件を明確に記載した。
  4. 複数のベンダーから提案を受け、価格だけでなく技術力や実績も評価基準に含めた。

 不適切な記述はb. です。IFBでは公平性と競争性を確保するために、特定ベンダーの製品名を明記するのではなく、必要な機能や性能を要件として記述すべきです。特定ベンダーの製品名を明記することは、競争の公平性を損なう可能性があり、調達の透明性が確保できません。

例題3

 以下の記述について、調達計画における「調達の条件」として適切なものをすべて選びなさい。

  1. 開発言語はJavaを使用すること
  2. 納品期限は契約締結から6か月以内とすること
  3. 障害発生時の対応時間は2時間以内とすること
  4. ユーザーインターフェースは直感的に操作できること
  5. 保守契約は5年間とし、年間費用は初期費用の15%以内とすること

 適切なものは、b, c, eです。  bは納期に関する条件、cは保守サポートに関する条件、eは契約条件に関する記述であり、これらは「調達の条件」に該当します。
 一方、aは開発手法に関する技術的な要件であり「調達の要求事項」に該当します。dはユーザビリティに関する機能要件であり、これも「調達の要求事項」に該当します。

例題4

 あるシステム導入プロジェクトにおいて、以下の2つの調達方法を比較しています。総所有コスト(TCO)の観点から、5年間で有利な調達方法を選びなさい。

方法A: パッケージソフトウェア導入

  • 初期導入費用: 3,000万円
  • 年間保守費用: 初期費用の15%(450万円/年)
  • カスタマイズ費用: 1,000万円(初年度のみ)

方法B: スクラッチ開発(外部委託)

  • 開発費用: 5,000万円
  • 年間保守費用: 300万円/年
  • 機能追加費用: 500万円(3年目に予定)

 5年間の総所有コスト(TCO)を計算します。

方法AのTCO: 初期導入費用 + カスタマイズ費用 + 年間保守費用×5年
= 3,000万円 + 1,000万円 + 450万円×5年
= 4,000万円 + 2,250万円
= 6,250万円

方法BのTCO: 開発費用 + 年間保守費用×5年 + 機能追加費用
= 5,000万円 + 300万円×5年 + 500万円
= 5,000万円 + 1,500万円 + 500万円
= 7,000万円

 したがって、5年間のTCOの観点からは、方法Aのパッケージソフトウェア導入の方が750万円有利となります。

5. まとめ

 調達計画は、要件定義を踏まえて最適な調達方法を選択し、調達の対象、要求事項、条件などを明確に定義するための重要なプロセスです。既成の製品・サービスの購入、組織内部でのシステム開発、外部委託によるシステム開発などの調達方法から、内外作基準などに基づいて最適な方法を選択します。

 また、IFB(入札募集)やRFP(提案依頼書)などの調達方式を活用することで、透明性の高い調達プロセスを確立することができます。適切な調達計画を策定することは、プロジェクトの成功に大きく寄与し、コスト削減、リスク軽減、品質確保などの効果をもたらします。

 調達にはベンダーロックインやスケジュール遅延、品質不足などのリスクが伴うため、これらを事前に想定し、適切な対策を講じることが重要です。また、ベンダー選定の際には、技術力、価格、信頼性、サポート体制などの多角的な視点から評価することで、最適なパートナーを選ぶことができます。

 応用情報処理技術者試験においては、調達計画の基本的な考え方や構成要素、内外作基準、IFBなどの概念を理解し、実際のシステム開発プロジェクトにおいて適切な調達計画を策定できる知識が求められます。

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