2.1.1. 業務プロセスの改善と問題解決

1. 概要

 業務プロセスの改善と問題解決は、組織の効率性と効果を高めるために不可欠な活動です。既存の組織構造や業務プロセスを見直し、情報技術を活用して最適化することで、企業は競争力を維持・向上させることができます。応用情報技術者として、業務プロセス改善の方法論や問題解決アプローチを理解することは、システム戦略を立案・実行する上で重要なスキルとなります。

 今日のビジネス環境では、RPA(Robotic Process Automation)などの新技術を活用した業務プロセス改善が注目されています。こうした技術を適切に導入し活用するためには、まず現状の業務プロセスを正確に把握し、改善点を特定する能力が求められます。

2. 詳細説明

2.1. 業務プロセス改善の基本概念

 業務プロセス改善とは、組織内の業務の流れを分析し、無駄を排除して効率化を図る取り組みです。主な目的は以下の通りです:

  • コスト削減
  • 処理時間の短縮
  • 品質向上
  • 顧客満足度の向上
  • 従業員の生産性向上

 業務プロセス改善の代表的な手法には以下があります:

  1. BPR(Business Process Reengineering):業務プロセスを根本から見直し、抜本的に再設計する手法
  2. TQM(Total Quality Management):全社的品質管理による継続的な改善
  3. シックスシグマ:統計的手法を用いた品質管理と業務改善
  4. リーン生産方式:ムダを徹底的に排除するアプローチ
  5. PDCA/PDSサイクル:計画、実行、評価、改善のサイクルによる継続的改善
手法 特徴 適用場面 導入期間 投資規模
BPR 抜本的再設計 大規模改革時 長期
TQM 全社的品質管理 継続的改善 中〜長期
シックスシグマ 統計的手法 品質向上時 中期
リーン ムダの排除 効率化時 短〜中期 小〜中
PDCA 継続的改善 日常改善 短期
RPA 自動化技術 定型業務 短期 小〜中

表1: 業務プロセス改善手法の比較表

flowchart TD
    A[Plan\n計画段階] --> B[Do\n実行段階]
    B --> C[Check\n評価段階]
    C --> D[Act\n改善段階]
    D --> A
    
    style A fill:#b3e0ff,stroke:#0066cc,stroke-width:2px
    style B fill:#b3e0ff,stroke:#0066cc,stroke-width:2px
    style C fill:#b3e0ff,stroke:#0066cc,stroke-width:2px
    style D fill:#b3e0ff,stroke:#0066cc,stroke-width:2px

図2: 業務プロセス改善のPDCAサイクル

2.2. 問題解決アプローチ

 業務プロセス改善における問題解決のステップは以下の通りです:

  1. 問題の特定:現状の業務プロセスにおける問題点や非効率な部分を特定します
  2. 原因分析:問題の根本原因を特定するために分析を行います(例:特性要因図、5Why分析)
  3. 解決策の立案:複数の解決策を考案し、それぞれのメリット・デメリットを評価します
  4. 解決策の実施:選択した解決策を実行計画に基づいて実施します
  5. 効果測定:改善策の効果を測定し、必要に応じて調整を行います
  6. 標準化:効果が確認された改善策を標準化し、組織全体に展開します
flowchart LR
    A[1.問題の特定] --> B[2.原因分析]
    B --> C[3.解決策立案]
    C --> D[4.解決策実施]
    D --> E[5.効果測定]
    E --> F[6.標準化]
    
    style A fill:#ffcc99,stroke:#ff9933,stroke-width:2px
    style B fill:#ffcc99,stroke:#ff9933,stroke-width:2px
    style C fill:#ffcc99,stroke:#ff9933,stroke-width:2px
    style D fill:#ffcc99,stroke:#ff9933,stroke-width:2px
    style E fill:#ffcc99,stroke:#ff9933,stroke-width:2px
    style F fill:#ffcc99,stroke:#ff9933,stroke-width:2px

図3: 問題解決の6ステップフロー図

2.3. 情報技術を活用した業務プロセス最適化

 情報技術は業務プロセス改善の強力なツールとなります。主な活用方法には以下があります:

  1. 業務の自動化:RPA(Robotic Process Automation)等を活用した定型業務の自動化
  2. 情報共有の効率化:グループウェアやナレッジマネジメントシステムの活用
  3. ワークフローシステム:業務の流れを電子化し、承認プロセスなどを効率化
  4. データ分析:ビッグデータ解析やBIツールを活用した意思決定支援
  5. クラウドサービス:場所や時間に制約されない柔軟な業務環境の実現

2.3.1. RPA(Robotic Process Automation)の活用

 RPAは、人間がコンピュータ上で行う定型的な作業を、ソフトウェアロボットによって自動化する技術です。RPAの主な特徴は以下の通りです:

  • プログラミングの深い知識がなくても導入可能
  • 既存システムを変更せずに導入できる
  • 24時間365日稼働可能
  • 人的ミスの削減
  • 短期間での導入が可能

 RPAは主に以下のような業務に適しています:

  • データ入力・転記作業
  • 定型的な資料作成
  • システム間のデータ連携
  • バッチ処理
  • レポート作成・配布

 RPAの導入ステップは一般的に次のようになります:

  1. 自動化候補業務の選定(定型的で手順が明確な業務を選定)
  2. 業務プロセスの可視化と標準化(業務フローの作成)
  3. RPAツールの選定(業務に適したツールを選ぶ)
  4. シナリオ(ロボット)の開発
  5. テストと検証
  6. 本番環境への展開
  7. 運用保守体制の構築
評価項目 導入前 導入後 改善効果
処理時間 120分/日 10分/日 92%削減
エラー率 5% 0.1% 98%削減
コスト 100万円/月 40万円/月 60%削減
従業員満足度 低い 高い 大幅向上
24時間対応 不可 可能 対応力向上

表4: RPA導入による業務改善効果比較表

3. 応用例

3.1. 金融業界での応用例

 大手銀行では、融資審査業務にRPAを導入し、申込書データの入力や信用情報の取得・分析などの定型作業を自動化しました。その結果、審査時間が従来の3分の1に短縮され、人的ミスも大幅に減少しました。さらに、審査担当者は複雑な判断が必要な案件に集中できるようになり、顧客満足度も向上しました。

3.2. 製造業での応用例

 自動車部品メーカーでは、生産計画策定プロセスを改善するために、PDCA手法とIoT技術を組み合わせたアプローチを採用しました。生産ラインからリアルタイムでデータを収集し、需要予測と連動させて自動的に生産計画を最適化するシステムを構築。その結果、在庫コストが20%削減され、納期遵守率が95%から99%に向上しました。

3.3. 公共サービスでの応用例

 ある市役所では、住民票発行業務のプロセス改善を実施しました。従来は申請書の記入、窓口での受付、担当者による確認、証明書の作成といった多段階のプロセスでしたが、電子申請システムとRPAを組み合わせて自動化。窓口での待ち時間が平均30分から5分に短縮され、職員の業務負担も軽減されました。

4. 例題

例題1

 A社は、経理部門の業務効率化を検討しています。月次決算業務において、複数のシステムからデータを収集し、Excelで集計・分析した後、経営陣向けの報告資料を作成するという一連の作業に多くの時間を費やしています。この状況を改善するための最適なアプローチとして、最も適切なものはどれですか。

  1. 新たな経理システムを一から開発する
  2. RPAを活用して、データ収集・集計作業を自動化する
  3. 経理部門の人員を増やし、作業を分散する
  4. 報告資料の提出頻度を減らす

正解は 2. です。

 本ケースでは、複数システムからのデータ収集やExcel操作など、定型的かつ反復的な作業が多く含まれています。RPAはこのような作業の自動化に適しており、プログラミングの深い知識がなくても比較的短期間で導入できます。新システム開発(選択肢1)は長期的かつ高コストであり、人員増加(選択肢3)や報告頻度の削減(選択肢4)は根本的な業務プロセス改善にはつながりません。

例題2

 以下の業務プロセス改善手法に関する記述のうち、誤っているものはどれですか。

  1. BPRは、既存の業務プロセスを前提とせず、ゼロベースで業務を再設計する手法である
  2. PDCAサイクルは、計画(Plan)、実行(Do)、評価(Check)、改善(Act)のサイクルを繰り返す継続的改善手法である
  3. シックスシグマは、統計的手法を用いて業務プロセスのばらつきを減らし、品質を向上させる手法である
  4. RPAは、業務の非効率な部分を特定し、根本原因を分析するための問題解決手法である

正解は 4. です。

 RPAは問題解決手法ではなく、定型的な業務を自動化するための技術です。RPAはロボットによる業務自動化を指し、業務プロセス改善の「解決策」の一つとなりますが、問題特定や原因分析を行うための手法ではありません。BPR、PDCAサイクル、シックスシグマに関する記述は正しいです。

例題3

 B社は受注処理業務の改善を検討しています。現状の業務フローと改善案が以下の通り提示されています。この改善案の効果として最も適切なものを選んでください。

【現状】

  1. 顧客からのFAX注文を受信(5分)
  2. 受注内容を基幹システムに手入力(15分)
  3. 在庫確認を手動で実施(10分)
  4. 受注確認書を作成しFAXで返信(10分)
  5. 出荷指示書を作成し倉庫に送付(10分)

【改善案】

  1. Web受注システムを導入し、顧客自身がオーダー入力
  2. 受注データを基幹システムに自動連携
  3. 在庫確認を自動化
  4. 受注確認のメール自動送信
  5. 出荷指示の電子化・自動化
  6. 受注処理時間が短縮される
  7. 顧客からの問い合わせ対応が不要になる
  8. 在庫切れによる欠品がなくなる
  9. 紙の使用量が削減される

正解は 1. です。

 この改善案では、手作業による入力や確認作業を自動化することで、処理時間の大幅な短縮が期待できます。一方、顧客からの問い合わせ対応(選択肢2)は別の業務であり、また在庫管理の精度向上(選択肢3)は直接的な効果とは言えません。紙の使用量削減(選択肢4)は副次的な効果ですが、主たる効果は受注処理時間の短縮と考えるのが妥当です。

例題4

 C社では業務プロセス改善プロジェクトを進めており、現状分析の結果、以下の数値データが得られました。C社が優先的に改善すべき業務プロセスとして最も適切なものを選んでください。

業務プロセス処理時間エラー率年間処理件数顧客への影響度
A: 受注登録10分/件3%5,000件
B: 在庫管理20分/件5%1,000件
C: 請求処理15分/件8%3,000件
D: 問合せ対応8分/件2%8,000件
  1. A: 受注登録
  2. B: 在庫管理
  3. C: 請求処理
  4. D: 問合せ対応

正解は 3. です。

 業務プロセス改善の優先順位を決める際は、(1)エラー率、(2)顧客への影響度、(3)処理時間と件数による総工数などを考慮します。C「請求処理」はエラー率が最も高く(8%)、顧客への影響度も高いため最優先で改善すべきです。総工数(処理時間×年間処理件数)ではDが最大ですが、エラー率が低く影響度も中程度です。Bは顧客影響度が高いものの、処理件数が少ないため総合的な影響はCより小さいと判断できます。

5. まとめ

 業務プロセスの改善と問題解決は、組織の競争力強化のための重要な取り組みです。既存の組織構造や業務プロセスを継続的に見直し、情報技術を活用して最適化することで、効率性向上や顧客満足度の向上が期待できます。

 特に近年は、RPA(Robotic Process Automation)をはじめとする新技術の活用により、従来は難しかった業務の自動化や効率化が可能になっています。しかし、技術導入の前に、現状の業務プロセスを正確に把握し、真の問題点や非効率な部分を特定することが重要です。

 業務プロセス改善は一度きりのプロジェクトではなく、PDCAサイクルなどを用いた継続的な取り組みとして捉えることが成功の鍵となります。また、技術だけでなく、組織文化や人材育成も含めた総合的なアプローチが効果的です。

 情報処理技術者として、業務とITの双方を理解し、最適な解決策を提案・実現できる能力が、今後ますます重要となるでしょう。

理解のポイント

  • 業務プロセス改善手法(BPR、TQM、シックスシグマ、リーン生産方式、PDCAサイクル)の特徴と適用場面の違いを理解する
  • 問題解決の6ステップ(問題特定→原因分析→解決策立案→実施→効果測定→標準化)を覚える
  • RPAの特徴と適用業務の例を理解する
  • 業務プロセス改善の効果を定量的に評価する視点を持つ(処理時間、エラー率、コスト、顧客満足度など)
  • 情報技術を活用した業務プロセス最適化の事例を理解する