2.1.3. ビジネスプロセスリエンジニアリング

1. 概要

 ビジネスプロセスリエンジニアリング(Business Process Reengineering: BPR)とは、企業の競争力強化のために、業務プロセスを根本から見直し、抜本的に再設計する手法です。1990年代初頭にマイケル・ハマーとジェームズ・チャンピーによって提唱されたこの概念は、単なる業務改善とは異なり、既存の業務プロセスをゼロベースで考え直し、劇的な業績向上を目指すものです。

 BPRの核心には、プロセス視点があります。従来の部門別・機能別の組織視点ではなく、業務の流れ全体を一連のプロセスとして捉え、顧客志向の価値創造という観点から根本的に再構築することを目指します。このアプローチにより、業務の効率化だけでなく、顧客価値向上を実現することが可能になります。

 情報処理技術者は、BPRの目的、手順、考え方を理解することが求められています。これは単に概念を知識として持つだけでなく、実際のビジネス課題に対してBPRの考え方を適用できる応用力を身につけることを意味します。

2. 詳細説明

2.1. BPRの目的

 BPRの主な目的は以下の通りです:

  1. 業務プロセスの抜本的な改革による劇的な業績の向上
  2. コスト削減、品質向上、スピード向上などの複数の成果の同時達成
  3. 顧客志向のプロセス設計による顧客価値向上
  4. 組織の競争優位性の確立

 BPRでは、業務プロセスを10%や20%改善するのではなく、30%から50%、あるいはそれ以上の飛躍的な改善を目指します。このような劇的な改善を実現するためには、既存のプロセスの枠組みにとらわれない発想が必要です。

2.2. BPRの手順

 BPRを実施する一般的な手順は、以下のステップで構成されます:

  1. 準備段階:経営戦略の明確化、BPR対象プロセスの選定、プロジェクトチームの編成
  2. 現状分析:現行プロセスの可視化と問題点の把握
  3. 再設計プロセス視点での業務の根本的な再設計
  4. 実装:新プロセスの導入、情報システムの構築・変更
  5. 評価・改善:新プロセスの効果測定と継続的な改善

 これらの各ステップにおいて、情報技術(IT)が重要な役割を果たします。特に現在は、クラウドコンピューティング、ビッグデータ、AIなどの先進技術を活用することで、より効果的なBPRが可能になっています。

2.3. BPRの考え方

 BPRの基本的な考え方には、以下のような特徴があります:

  1. プロセス視点:機能別・部門別ではなく、業務の流れ全体を横断的に捉える
  2. ゼロベース思考:既存のプロセスを前提とせず、白紙の状態から最適なプロセスを考える
  3. 顧客志向:顧客にとっての価値を最大化する視点からプロセスを設計する
  4. 情報技術の活用:ITをプロセス変革の重要な手段として積極的に活用する
  5. チーム編成:部門の壁を超えた横断的なチームによるプロジェクト推進

 特に「顧客志向」の考え方は、BPRの中核をなす概念です。すべての業務プロセスは最終的に顧客に価値を提供するためのものであり、顧客価値向上を念頭に置いたプロセス再設計が重要となります。

表1:BPRと業務改善(カイゼン)の比較
比較項目 BPR
(ビジネスプロセスリエンジニアリング)
業務改善
(カイゼン)
改革の規模 抜本的・劇的な変革
(30%〜50%以上の改善)
漸進的・段階的な改善
(5%〜15%程度の改善)
対象範囲 業務プロセス全体
(複数部門にまたがる横断的なプロセス)
個別業務や特定の工程
(主に部門内の業務)
アプローチ ゼロベースでの再設計
(既存プロセスにとらわれない)
既存プロセスの改良
(現状の延長線上での改善)
実施期間 中長期(6ヶ月〜2年程度) 短期(数週間〜数ヶ月程度)
リスク 比較的高い
(組織的抵抗、失敗時の影響大)
比較的低い
(小規模な変更の積み重ね)
主な視点 プロセス視点顧客志向
(部門を横断する業務の流れ全体)
機能視点・内部効率化
(特定業務の効率性向上)
ITの活用 ITを変革の中核的手段として活用
(業務とITの一体的な設計)
既存業務の効率化ツールとしてIT活用
(現行業務の自動化・効率化)
成果の重点 顧客価値向上と業務効率化の両立
(顧客満足度向上と内部効率の同時達成)
主に内部効率性や品質向上
(コスト削減、品質改善など)

3. 応用例

3.1. 製造業におけるBPR

 ある自動車メーカーでは、従来は設計・製造・販売がそれぞれ独立したプロセスとして機能していました。BPRの適用により、商品企画から顧客サービスまでの一連のプロセスを顧客志向で再構築。特に、顧客の声を直接設計にフィードバックする仕組みを構築したことで、開発期間の50%短縮と顧客満足度の30%向上を実現しました。この事例では、プロセス視点での業務再設計が顧客価値向上に直結しています。

3.2. 金融業におけるBPR

 ある銀行では、融資審査業務のBPRを実施しました。従来は複数の部門を経由し、書類ベースで進められていた審査プロセスを、AIとワークフローシステムを活用して再構築。プロセス視点で業務全体を見直し、承認階層の簡素化と並行処理の導入により、審査期間を5日から1日へと大幅に短縮しました。また、顧客情報の一元管理により、顧客志向のサービス提供が可能となり、顧客価値向上につながりました。

3.3. 小売業におけるBPR

 大手小売チェーンでは、発注から在庫管理、店舗補充までのサプライチェーンプロセスをBPRの対象としました。POS情報と顧客購買データを活用した需要予測システムを導入し、顧客志向の在庫管理を実現。これにより在庫回転率が40%向上し、品切れによる機会損失が60%減少しました。プロセス視点での業務改革により、コスト削減と顧客価値向上を同時に達成した好例です。

4. 例題

例題1

 A社は従来の部門別組織構造に基づいて業務を遂行していますが、近年顧客ニーズへの対応が遅れ、競争力が低下しています。BPRを実施するにあたり、最も重要な視点はどれですか。

  1. 部門最適化視点
  2. 費用削減視点
  3. プロセス視点
  4. 技術導入視点

解答:c

 BPRでは、部門ごとの最適化ではなく、部門を横断する業務の流れ全体をプロセス視点で捉え直すことが重要です。部門間の壁を取り払い、顧客に価値を提供するプロセス全体を最適化することで、顧客対応のスピードアップや品質向上を実現できます。

例題2

 B社ではBPRを検討していますが、以下のうちBPRの特徴として最も適切なものはどれですか。

  1. 既存プロセスの10%程度の改善を目指す
  2. 業務の専門化・細分化により効率化を図る
  3. コスト削減を最優先目標とする
  4. 顧客志向のプロセス再設計により顧客価値向上を図る

解答:d

 BPRの本質は、顧客志向のプロセス再設計による顧客価値向上にあります。a)はBPRが目指す劇的な改善(30%以上)に反し、b)は機能別・専門別の分業がもたらす部門間の壁という問題を解決できません。c)はBPRの目的の一つですが、コスト削減だけを目指すものではありません。

例題3

 C社は受注から出荷までのプロセスをBPRの対象としています。現状分析の結果、受注情報の手作業での転記や複数の承認ステップが存在し、リードタイムが長いことが判明しました。BPRに基づくプロセス再設計として最も適切なものはどれですか。

  1. 各部門の業務手順書を改定し、作業の標準化を図る
  2. 受注業務と出荷業務をアウトソーシングする
  3. プロセス全体を見直し、情報システムを活用した一気通貫の処理を実現する
  4. 部門ごとに専任マネージャーを置き、管理体制を強化する

解答:c

 BPRではプロセス視点に立ち、業務全体の流れを改革することが重要です。情報システムを活用して部門間の情報連携を自動化し、不要な承認ステップを省略することで、リードタイムの大幅な短縮と顧客対応の迅速化が期待できます。これが顧客価値向上につながります。

5. まとめ

 ビジネスプロセスリエンジニアリング(BPR)は、企業の競争力強化のために業務プロセスを根本から再設計する手法です。その特徴は以下の通りです:

  1. 目的:業務プロセスの抜本的改革による劇的な業績向上(30%以上の改善)
  2. 手順:準備、現状分析、再設計、実装、評価・改善という体系的アプローチ
  3. 考え方プロセス視点での横断的な業務改革、ゼロベース思考、顧客志向、情報技術の活用

 BPRにおいては、部門別・機能別の組織の壁を超えて、プロセス視点で業務全体を捉え直すことが重要です。そして、すべての業務プロセスは最終的に顧客に価値を提供するためのものであるという顧客志向の考え方に基づき、顧客価値向上を追求することがBPR成功の鍵となります。

 情報処理技術者は、BPRの概念を理解するだけでなく、実際のビジネス課題に対してBPRの考え方を適用し、情報技術を活用した業務プロセス改革を推進できる能力を身につけることが求められています。

2.1.4. ビジネスプロセスアウトソーシング >>