2.1.2. ビジネスプロセスマネジメント

1. 概要

 ビジネスプロセスマネジメント(Business Process Management:BPM)とは、企業の業務プロセスを可視化・分析し、継続的に改善していくための体系的なアプローチです。BPMは単なる業務改善手法ではなく、企業全体の戦略と連携し、業務プロセスを効率化することで競争力を高めることを目的としています。現代のビジネス環境では、市場の変化やテクノロジーの進化に迅速に対応するために、業務プロセスの最適化が不可欠となっており、BPMはその実現のための重要な手段となっています。

2. 詳細説明

2.1. BPMの目的と考え方

 BPMの主な目的は、業務プロセスの効率化、品質向上、コスト削減、および顧客満足度の向上です。従来の機能別組織構造を横断する形で、エンドツーエンドの業務プロセスを管理することで、組織全体の最適化を図ります。

 BPMの考え方の核心は以下の点にあります:

  1. プロセス指向:組織をプロセスの集合体として捉え、部門を越えた最適化を目指す
  2. 継続的改善:PDCAサイクルを通じて業務プロセスを継続的に改善する
  3. 顧客視点:顧客に価値を提供するプロセスに焦点を当てる
  4. 可視化:業務プロセスを明確に可視化し、関係者間で共有する
  5. テクノロジー活用:ITツールを活用してプロセスの自動化・効率化を図る

2.2. BPMの手順とサイクル

graph TD
    subgraph "BPMライフサイクル"
    A[業務分析\nProcess Analysis] -->|分析結果に基づく| B[業務設計\nProcess Design]
    B -->|設計に基づく| C[業務の実行\nProcess Execution]
    C -->|データ収集| D[モニタリング\nProcess Monitoring]
    D -->|パフォーマンス測定| E[評価\nProcess Evaluation]
    E -->|改善提案| A
    end

    subgraph "PDCAサイクル"
    P[Plan\n計画] -.-> A
    P -.-> B
    D1[Do\n実行] -.-> C
    C1[Check\n評価] -.-> D
    C1 -.-> E
    A1[Act\n改善] -.-> A
    end

    style A fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px
    style B fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style C fill:#bfb,stroke:#333,stroke-width:2px
    style D fill:#fbf,stroke:#333,stroke-width:2px
    style E fill:#fbb,stroke:#333,stroke-width:2px

 BPMは以下の5つの主要なフェーズからなるサイクルで実施されます:

  1. 業務分析(Process Analysis)
    • 現状の業務プロセスを可視化し、問題点や改善の機会を特定する
    • BPMN(Business Process Model and Notation)などの表記法を用いてプロセスをモデル化する
    • 関係者へのインタビューやシステムログの分析などを通じて現状を把握する

 上図はBPMNを用いた簡易的な受注プロセスの例です。丸い形状はイベント(開始・終了)、四角形はアクティビティ(作業)、ひし形はゲートウェイ(分岐・結合)を表しています。BPMNを使用することで、業務プロセスを標準化された形式で可視化し、関係者間での共通理解を促進できます。

  1. 業務設計(Process Design)
    • 分析結果に基づき、理想的な業務プロセスを設計する
    • ボトルネックの解消や無駄の排除を検討する
    • 新しいプロセスの実行方法やルールを明確化する
  2. 業務の実行(Process Execution)
    • 設計したプロセスを実際の業務に適用する
    • ワークフローシステムなどのBPMSを活用して業務の自動化を図る
    • 関係者への教育・トレーニングを実施する
  3. モニタリング(Process Monitoring)
    • KPI(Key Performance Indicator)を設定し、プロセスのパフォーマンスを測定する
    • リアルタイムでプロセスの状況を把握する
    • 問題点や異常を早期に発見する
  4. 評価(Process Evaluation)
    • 収集したデータを分析し、プロセスの有効性を評価する
    • 改善点を特定し、次のサイクルに向けた対策を立案する
    • ベストプラクティスを文書化し、組織内で共有する

 これらのフェーズはPDCA(Plan-Do-Check-Act)サイクルと密接に関連しており、継続的な改善を実現するための仕組みとなっています。図表1で示したように、業務分析と業務設計はPlan、業務の実行はDo、モニタリングと評価はCheck、そして次のサイクルへの改善提案はActに対応しています。

2.3. BPMS(Business Process Management System)の機能

 BPMS(Business Process Management System/Suite)とは、BPMの考え方を実践するための具体的なソフトウェア製品です。BPMがビジネスプロセスを継続的に改善するための「手法」であるのに対し、BPMSはそれを実現するための「ツール」です。業務プロセスの設計から実行、モニタリング、改善までを一貫して支援するアプリケーションパッケージであり、ERPなどの既存システムと連携しながら、業務の流れを制御する役割を担います。

 BPMSは、ビジネスプロセスマネジメントを支援するためのシステムであり、以下のような機能を提供します:

  1. プロセスモデリング機能
    • 業務プロセスを視覚的に設計・モデル化する機能
    • BPMNなどの標準表記法をサポート
  2. ワークフロー管理機能
    • プロセスの自動化と実行管理
    • タスクの割り当てと進捗管理
    • 承認ルートの設定と管理
  3. ルールエンジン
    • ビジネスルールに基づく処理の自動化
    • 複雑な条件分岐の管理
  4. モニタリング・分析機能
    • リアルタイムのプロセス監視
    • パフォーマンス指標の測定と分析
    • ボトルネックの特定
  5. シミュレーション機能
    • プロセス変更の影響を事前に評価
    • 「What-If」分析の実施
  6. 統合機能
    • 既存システム(ERP、CRM、SFAなど)との連携
    • データの自動連携
  7. ドキュメント管理機能
    • プロセスに関連する文書の管理
    • バージョン管理と履歴追跡

2.4. 最新技術動向とBPMの関係

 近年のデジタルトランスフォーメーション(DX)の進展に伴い、BPMも進化しています。特に以下の技術との連携が注目されています:

  1. RPA(Robotic Process Automation)
    • 定型的な業務プロセスの自動化
    • BPMで設計したプロセスの一部をロボットが代行
  2. AI/機械学習
    • プロセスマイニングによる自動的なプロセス発見
    • 予測分析による将来のプロセスパフォーマンス予測
    • 意思決定の自動化・最適化
  3. ローコード/ノーコードプラットフォーム
    • プログラミングの知識がなくても業務プロセスを構築・改善
    • ビジネスユーザー主導の迅速なプロセス改善

 これらの技術をBPMと組み合わせることで、より高度な業務プロセスの最適化が可能になっています。

3. 応用例

3.1. 製造業におけるBPM

 製造業では、受注から出荷までのプロセスをBPMの手法で最適化することで、リードタイムの短縮やコスト削減を実現しています。例えば、ある自動車部品メーカーでは、BPMを導入することで以下の成果を上げました:

  • 受発注プロセスの自動化により、処理時間を50%削減
  • 生産計画の最適化により、納期遵守率を95%以上に向上
  • 品質管理プロセスの改善により、不良率を3%から0.5%に低減

 これらの改善は、BPMSによる業務プロセスの可視化と、PDCAサイクルに基づく継続的な改善活動によって実現されました。なお、上記の数値は典型的な事例に基づく参考値であり、実際の効果は組織や取り組み内容によって異なります。

3.2. 金融機関におけるBPM

 銀行や保険会社では、融資審査や保険金支払いなどの業務プロセスにBPMを適用しています。ある地方銀行では、融資審査プロセスにBPMを導入した結果:

  • 審査期間が平均10営業日から3営業日に短縮
  • 審査担当者の作業負荷が30%軽減
  • 審査基準の標準化により、判断のバラつきが減少

 このケースでは、ワークフローシステムによる申請書類の電子化と承認プロセスの自動化が大きな効果を上げました。また、審査履歴のデータ分析により、審査基準の継続的な改善も実現しています。こちらも数値は代表的な改善事例を示すための参考値です。

3.3. 営業プロセスにおけるBPM

 営業活動においても、BPMの考え方は有効に機能します。SFA(Sales Force Automation:営業支援システム)とBPMSを連携させることで、以下のような効果が期待できます:

  • 見込み客の発掘から成約までの営業プロセスの標準化
  • 営業活動の可視化による進捗管理の効率化
  • 営業データの分析による戦略的なアプローチの実現

 ある製薬会社では、医薬情報担当者(MR)の活動にBPMを適用し、訪問計画の最適化や報告業務の効率化を実現しました。その結果、顧客訪問回数が15%増加し、新規契約率も向上しています。これらの数値も業界の一般的な改善効果を示す参考値です。

4. 例題

例題1

 A社は製造業を営む中小企業で、受注から製造、出荷までのプロセスに多くの手作業と部門間の調整が発生し、納期遅延やミスが頻発していました。BPMの考え方に基づいて、この問題を解決するための適切なアプローチを選びなさい。

  1. 受注部門のスタッフを増員し、処理能力を向上させる
  2. 製造設備を最新のものに入れ替え、生産能力を高める
  3. 受注から出荷までのプロセスを可視化し、ボトルネックを特定した上で、ワークフローシステムを導入して部門間の連携を強化する
  4. 営業部門にSFAを導入し、受注情報の精度を高める

解答 3

解説
 BPMの基本的なアプローチは、まず現状のプロセスを可視化し、問題点を特定した上で、改善策を講じることです。選択肢1と2は単に処理能力や生産能力の向上を図るものであり、プロセス全体の最適化という観点が欠けています。選択肢4はSFAの導入により営業プロセスの改善は期待できますが、製造や出荷など他の部門との連携に関する課題は解決できません。選択肢3は、エンドツーエンドのプロセスを可視化し、ワークフローシステムによる部門間連携の強化を図るもので、BPMの考え方に最も合致しています。

例題2

 BPMSの主要な機能として、不適切なものはどれか。

  1. プロセスモデリング機能
  2. ワークフロー管理機能
  3. ハードウェア資源の最適配分機能
  4. モニタリング・分析機能

解答 3

解説
 BPMSは業務プロセスの管理を支援するためのシステムであり、プロセスのモデリング、実行管理、モニタリングなどの機能を提供します。選択肢1のプロセスモデリング機能、選択肢2のワークフロー管理機能、選択肢4のモニタリング・分析機能はいずれもBPMSの主要な機能です。一方、選択肢3のハードウェア資源の最適配分機能は、主にシステム運用管理やクラウドマネジメントツールが提供する機能であり、BPMSの主要な機能としては不適切です。

例題3

 BPMにおけるPDCAサイクルと業務プロセス改善の関係について、正しい記述はどれか。

  1. Plan(計画)フェーズでは、業務プロセスの実行を通じてデータを収集する
  2. Do(実行)フェーズでは、業務プロセスのモニタリングと評価を行う
  3. Check(評価)フェーズでは、業務プロセスの問題点を分析し、改善案を立案する
  4. Act(改善)フェーズでは、立案した改善案を実際の業務プロセスに適用する

解答 4

解説
 BPMにおけるPDCAサイクルと各フェーズの関係は以下の通りです:

  • Plan(計画):業務プロセスの分析と設計
  • Do(実行):設計したプロセスの実行
  • Check(評価):プロセスのモニタリングとパフォーマンス評価
  • Act(改善):評価結果に基づく改善案の実行

 したがって、選択肢4のAct(改善)フェーズで立案した改善案を実際の業務プロセスに適用するという記述が正しいです。選択肢1のデータ収集はDo(実行)フェーズ、選択肢2のモニタリングと評価はCheck(評価)フェーズ、選択肢3の問題点分析と改善案立案はPlan(計画)フェーズに該当します。

5. まとめ

 ビジネスプロセスマネジメント(BPM)は、業務プロセスを継続的に改善するための体系的なアプローチです。その核心は、プロセス指向の考え方と、業務分析、業務設計、業務の実行、モニタリング、評価というサイクルを通じた継続的改善にあります。

 BPMの実践においては、PDCAサイクルを意識しながら、各フェーズの活動を確実に実施することが重要です。また、ワークフローシステムやSFAなどのBPMSを効果的に活用することで、より高度な業務プロセスの自動化や最適化を実現することができます。

 近年ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展に伴い、RPA(Robotic Process Automation)やAI技術とBPMを組み合わせることで、さらに高度な業務改革が進められています。

 現代のビジネス環境では、市場の変化やテクノロジーの進化に迅速に対応するために、業務プロセスの継続的な改善が不可欠です。BPMは、そのための強力な手段となり、組織の競争力向上に貢献します。情報処理技術者は、BPMの考え方や手順を理解し、自組織の業務改善に活かせるようになることが求められます。