1.2.5. テクノロジアーキテクチャ

1. 概要

 テクノロジアーキテクチャ(Technology Architecture: TA)は、エンタープライズアーキテクチャ(EA)フレームワークを構成する重要な要素の一つです。TAは業務を実現するためのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどの技術を体系化したアーキテクチャであり、企業のIT戦略を技術面から支える基盤となります。

 情報システム戦略においてTAの役割は非常に重要です。TAは、ビジネス要件を満たすために必要な技術的な構成要素を明確にし、それらがどのように組み合わされ、相互に関連しているかを示すものです。適切に設計されたTAは、システムの拡張性、保守性、柔軟性を高め、ビジネス変化への迅速な対応を可能にします。

flowchart TB
    EA[エンタープライズアーキテクチャ\n(EA)] --- BA[ビジネスアーキテクチャ\n(BA)]
    EA --- DA[データアーキテクチャ\n(DA)]
    EA --- AA[アプリケーションアーキテクチャ\n(AA)]
    EA --- TA[テクノロジアーキテクチャ\n(TA)]
    
    subgraph TAComponents[テクノロジアーキテクチャの構成要素]
        TA --- HW[ハードウェア]
        TA --- SW[ソフトウェア]
        TA --- NW[ネットワーク]
        TA --- SEC[セキュリティ]
    end
    
    classDef highlight fill:#f96,stroke:#333,stroke-width:2px;
    class TA,TAComponents highlight;

図1:エンタープライズアーキテクチャにおけるTAの位置づけ

2. 詳細説明

2.1. テクノロジアーキテクチャの構成要素

構成要素 内容 主な構成品目例 役割
ハードウェア 物理的なIT機器の構成
  • サーバ
  • ストレージ
  • クライアント端末
  • 周辺機器
データ処理や格納などの基盤となる
ソフトウェア システムを構成するプログラム群
  • OS
  • ミドルウェア
  • アプリケーション
  • 仮想化ソフトウェア
ハードウェアを制御し、業務処理を実現する
ネットワーク システム間のデータ通信基盤
  • ルータ/スイッチ
  • ファイアウォール
  • ロードバランサー
  • 通信回線
システム間のデータ連携やユーザーアクセスを実現する
セキュリティ 情報資産保護のための対策
  • 認証システム
  • 暗号化機能
  • 侵入検知/防御システム
  • ウイルス対策
システムの安全性と信頼性を確保する
クラウド環境 外部提供のITリソース
  • IaaS
  • PaaS
  • SaaS
  • ハイブリッドクラウド
柔軟なリソース調達とコスト最適化を実現する
運用管理 システムの安定稼働のための仕組み
  • 監視システム
  • バックアップ/復旧
  • 構成管理
  • キャパシティ管理
システムの安定稼働と効率的な保守を実現する

表1:テクノロジアーキテクチャの構成要素一覧

2.1.1. ハードウェア構成

 サーバ、ストレージ、クライアント端末などの物理的なIT機器の構成を定義します。ハードウェア構成図はこれらの機器の種類、数量、配置、接続関係を視覚的に表現したものです。この図を通じて、システム全体のハードウェアリソースの把握が可能となります。

図2:ハードウェア構成図の例

2.1.2. ソフトウェア構成

 オペレーティングシステム、ミドルウェア、アプリケーションソフトウェアなどの構成を定義します。ソフトウェア構成図は、これらのソフトウェアコンポーネントの関係性や依存関係を示すものです。この図によって、システムを構成するソフトウェアの全体像を理解することができます。

flowchart TB
    subgraph ClientTier["クライアント層"]
        Browser["Webブラウザ\n- Chrome/Firefox/Edge\n- HTML5/CSS3/JavaScript"]
    end
    
    subgraph WebTier["Webサーバー層"]
        WebServer["Webサーバー\n- RHEL 8.5\n- Apache 2.4.37"]
        
        subgraph WebComponents["Webコンポーネント"]
            direction LR
            HTML["HTML/CSS"]
            JavaScript["JavaScript\nReact/Vue.js"]
            RESTClient["REST API\nクライアント"]
        end
    end
    
    subgraph AppTier["アプリケーションサーバー層"]
        AppServer["アプリケーションサーバー\n- RHEL 8.5\n- Tomcat 9.0/JDK 11"]
        
        subgraph AppComponents["アプリケーションコンポーネント"]
            direction LR
            APIEndpoints["REST APIエンドポイント"]
            BusinessLogic["ビジネスロジック\nSpring Boot 2.6"]
            DataAccess["データアクセス層\nMyBatis 3.5"]
        end
    end
    
    subgraph DBTier["データベース層"]
        DBServer["データベースサーバー\n- RHEL 8.5\n- Oracle 19c/PostgreSQL 13"]
        
        subgraph DBComponents["データベースコンポーネント"]
            direction LR
            Tables["テーブル"]
            StoredProcs["ストアドプロシージャ"]
            Views["ビュー"]
        end
    end
    
    Browser --> WebServer
    WebComponents --> RESTClient
    RESTClient --> APIEndpoints
    AppComponents --> DataAccess
    DataAccess --> DBServer
    
    classDef serverNode fill:#f5f5f5,stroke:#333,stroke-width:1px;
    classDef componentGroup fill:#e6f7ff,stroke:#1890ff,stroke-width:1px;
    classDef tierGroup fill:#f0f2f5,stroke:#d9d9d9,stroke-width:1px;
    
    class WebServer,AppServer,DBServer serverNode;
    class WebComponents,AppComponents,DBComponents componentGroup;
    class ClientTier,WebTier,AppTier,DBTier tierGroup;

図3:ソフトウェア構成図の例

2.1.3. ネットワーク構成

 LAN、WAN、インターネット接続などのネットワークインフラの構成を定義します。ネットワーク構成図は、ネットワーク機器(ルータ、スイッチなど)の配置や接続関係、通信プロトコル、セキュリティ対策などを表現したものです。この図を通じて、データの流れやシステム間の接続状況を把握できます。

flowchart TB
    Internet((インターネット)) --- FW1[ボーダーファイアウォール]
    
    subgraph DMZ["DMZ (10.10.1.0/24)"]
        FW1 --- LB[ロードバランサー]
        LB --- WebSrv1[Webサーバー#1\n10.10.1.10]
        LB --- WebSrv2[Webサーバー#2\n10.10.1.11]
    end
    
    FW2[内部ファイアウォール] --- FW1
    
    subgraph AppZone["アプリケーション層 (10.10.2.0/24)"]
        FW2 --- AppSrv1[APサーバー#1\n10.10.2.10]
        FW2 --- AppSrv2[APサーバー#2\n10.10.2.11]
    end
    
    FW3[データベースファイアウォール] --- FW2
    
    subgraph DataZone["データベース層 (10.10.3.0/24)"]
        FW3 --- DBSrv1[DBサーバー#1\n10.10.3.10]
        FW3 --- DBSrv2[DBサーバー#2\n10.10.3.11]
        DBSrv1 --- Storage[ストレージ\n10.10.3.20]
        DBSrv2 --- Storage
    end
    
    subgraph InternalZone["内部ネットワーク (192.168.1.0/24)"]
        FW2 --- DC[ドメインコントローラー\n192.168.1.10]
        FW2 --- ADServer[Active Directory\n192.168.1.11]
        FW2 --- FileServer[ファイルサーバー\n192.168.1.20]
    end
    
    subgraph ManagementZone["管理ネットワーク (10.10.10.0/24)"]
        ManagementServer[管理サーバー\n10.10.10.10] --- FW1
        ManagementServer --- FW2
        ManagementServer --- FW3
    end
    
    classDef zone fill:#f0f2f5,stroke:#d9d9d9,stroke-width:1px;
    classDef firewall fill:#ffe7ba,stroke:#fa8c16,stroke-width:1px;
    classDef server fill:#e6f7ff,stroke:#1890ff,stroke-width:1px;
    classDef internet fill:#f5f5f5,stroke:#333,stroke-width:1px,stroke-dasharray: 5 5;
    
    class DMZ,AppZone,DataZone,InternalZone,ManagementZone zone;
    class FW1,FW2,FW3 firewall;
    class WebSrv1,WebSrv2,AppSrv1,AppSrv2,DBSrv1,DBSrv2,DC,ADServer,FileServer,ManagementServer,Storage server;
    class Internet internet;

図4:ネットワーク構成図の例

2.2. テクノロジアーキテクチャの役割

 テクノロジアーキテクチャは以下のような役割を果たします:

2.2.1. 技術標準の確立

 組織全体で使用する技術標準を定め、技術的な一貫性を確保します。これにより、システム間の互換性が向上し、保守コストの削減にもつながります。

2.2.2. システム構成の最適化

 ビジネス要件を満たすために最適なハードウェア、ソフトウェア、ネットワークの組み合わせを設計します。これにより、コスト効率の高いシステム構築が可能になります。

2.2.3. 技術的課題の特定と解決

 現状のシステムの技術的な課題を特定し、それを解決するための方針を示します。これにより、システムのパフォーマンスや信頼性の向上につながります。

2.3. 最新のテクノロジアーキテクチャの潮流

2.3.1. クラウドネイティブアーキテクチャ

 クラウド環境に最適化されたアプリケーション設計アプローチです。マイクロサービス、コンテナ化、DevOpsなどの概念を取り入れ、柔軟でスケーラブルなシステムを実現します。

2.3.2. マイクロサービスアーキテクチャ

 大規模なアプリケーションを小さな独立したサービス群に分割し、それぞれが独自のデータストアを持ち、APIを介して通信する設計手法です。サービスごとに独立した開発・デプロイが可能になり、柔軟性が高まります。

2.3.3. サーバレスアーキテクチャ

 クラウドプロバイダが提供するサービスを組み合わせ、サーバの管理・運用を極力減らしたアーキテクチャです。開発者はコードの実装に集中でき、インフラ管理のコストを削減できます。

3. 応用例

3.1. 企業のシステム統合プロジェクト

 企業の合併や買収に伴うシステム統合プロジェクトでは、テクノロジアーキテクチャが重要な役割を果たします。異なるシステム間のハードウェア、ソフトウェア、ネットワークの統合方針を明確にし、移行計画を策定する基盤となります。

3.2. クラウド移行プロジェクト

 オンプレミスシステムからクラウドへの移行を検討する際、テクノロジアーキテクチャは現状と目標状態の技術的なギャップを明確にします。ハードウェア構成図、ソフトウェア構成図、ネットワーク構成図を通じて、移行対象のシステムを可視化し、クラウド環境での再構築方針を定めることができます。

flowchart TB
    subgraph OnPremises["オンプレミス環境"]
        subgraph LegacySystems["レガシーシステム"]
            LegacyApp1[基幹システム]
            LegacyApp2[経理システム]
            LegacyDB[(オンプレミスDB)]
        end
        
        subgraph MigrationTargets["移行対象システム"]
            WebSystem[Webシステム]
            MailSystem[メールシステム]
            FileShare[ファイル共有]
            InternalDB[(内部DB)]
        end
    end
    
    subgraph CloudEnv["クラウド環境"]
        direction TB
        subgraph IaaS["IaaS"]
            VirtualMachines[仮想マシン群]
            ManagedDB[(マネージドDB)]
            Storage[ストレージサービス]
        end
        
        subgraph PaaS["PaaS"]
            AppService[アプリケーションサービス]
            ContainerService[コンテナサービス]
            ServerlessFunc[サーバーレス関数]
        end
        
        subgraph SaaS["SaaS"]
            EmailSaaS[メールサービス]
            CollabSaaS[コラボレーションツール]
            OfficeSaaS[オフィススイート]
        end
    end
    
    subgraph HybridConnection["ハイブリッド接続"]
        VPN[VPN接続]
        DirectConnect[専用線接続]
        CDN[CDNサービス]
    end
    
    %% 接続関係
    MigrationTargets -- "段階的移行" --> CloudEnv
    LegacySystems -- "API連携" --> CloudEnv
    OnPremises <--> HybridConnection
    HybridConnection <--> CloudEnv
    
    %% 個別の接続
    WebSystem -- "リフト&シフト" --> VirtualMachines
    FileShare -- "移行" --> Storage
    InternalDB -- "移行" --> ManagedDB
    MailSystem -- "移行" --> EmailSaaS
    
    classDef onPrem fill:#f5f5f5,stroke:#333,stroke-width:1px;
    classDef cloud fill:#e6f7ff,stroke:#1890ff,stroke-width:1px;
    classDef hybrid fill:#fff7e6,stroke:#fa8c16,stroke-width:1px;
    classDef service fill:#f6ffed,stroke:#52c41a,stroke-width:1px;
    
    class OnPremises,LegacySystems,MigrationTargets onPrem;
    class CloudEnv,IaaS,PaaS,SaaS cloud;
    class HybridConnection,VPN,DirectConnect,CDN hybrid;
    class VirtualMachines,ManagedDB,Storage,AppService,ContainerService,ServerlessFunc,EmailSaaS,CollabSaaS,OfficeSaaS service;

図5:クラウド移行のためのTAモデル図

3.3. デジタルトランスフォーメーション(DX)の推進

 DXを推進する企業では、テクノロジアーキテクチャが新技術の導入指針となります。AI、IoT、ビッグデータなどの新技術を既存システムにどのように統合するかの青写真を提供します。

3.4. ゼロトラストセキュリティの実装

 伝統的な境界型セキュリティから、すべてのアクセスを検証するゼロトラストモデルへの移行において、テクノロジアーキテクチャは新たなセキュリティモデルを技術面から定義します。ネットワークセグメンテーション、認証・認可の仕組み、監視体制などを体系的に設計します。

4. 例題

例題1

問題: テクノロジアーキテクチャ(TA)に含まれる主要な構成要素として、適切なものを全て選びなさい。

  1. 業務プロセス
  2. ハードウェア
  3. 組織構造
  4. ソフトウェア
  5. ネットワーク
  6. データモデル

解答: b, d, e

解説: テクノロジアーキテクチャ(TA)は、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどの技術要素を体系化したものです。業務プロセスはビジネスアーキテクチャ、組織構造は組織アーキテクチャ、データモデルはデータアーキテクチャに含まれる要素となります。

例題2

問題: ある企業のシステム部門が、新たなWebシステムのためのテクノロジアーキテクチャを設計しています。このシステムは高可用性が求められており、負荷分散機能を持つ必要があります。この要件を満たすためのネットワーク構成図として、最も適切なものはどれか。

  1. 単一のWebサーバにすべてのアクセスを集中させる構成
  2. 複数のWebサーバを配置し、ロードバランサでトラフィックを分散させる構成
  3. データベースサーバを複数配置し、Webサーバは1台のみとする構成
  4. Webサーバとデータベースサーバを1台ずつ配置し、バックアップサーバを用意する構成

解答: b

解説: 高可用性と負荷分散の要件を満たすためには、複数のWebサーバを配置し、ロードバランサでトラフィックを分散させる構成が最も適切です。この構成により、一部のサーバに障害が発生しても、他のサーバでサービスを継続できるため、可用性が向上します。また、アクセス負荷を複数のサーバに分散させることで、システム全体のパフォーマンスも向上します。

例題3

問題: ソフトウェア構成図について、以下の記述のうち誤っているものを1つ選びなさい。

  1. ソフトウェアコンポーネント間の依存関係を示すことができる
  2. ライセンス管理のための基礎資料として活用できる
  3. ハードウェアの物理的な配置場所を明確にするために使用される
  4. アプリケーションとミドルウェアの関係性を可視化できる
  5. ソフトウェアのバージョン管理に役立てることができる

解答: c

解説: ハードウェアの物理的な配置場所を明確にするのは、ハードウェア構成図の役割です。ソフトウェア構成図は、システムを構成するソフトウェアコンポーネントの種類、バージョン、相互関係などを示すものであり、物理的な配置場所の情報は含まれません。

例題4

問題: クラウド移行を検討している企業において、テクノロジアーキテクチャの設計で考慮すべき事項として、最も適切でないものはどれか。

  1. サーバの物理的な設置場所や電源設備の冗長化
  2. クラウドサービス間の連携方法とAPI設計
  3. オンプレミス環境とクラウド環境の接続方式
  4. データの暗号化と認証・認可の仕組み
  5. クラウドリソースの動的スケーリングの設定

解答: a

解説: クラウド環境では、物理的なインフラストラクチャはクラウドプロバイダによって管理されるため、サーバの物理的な設置場所や電源設備の冗長化は利用者が直接考慮する必要はありません。クラウド移行のテクノロジアーキテクチャでは、サービス間連携、ネットワーク接続、セキュリティ、スケーリングなどの論理的な設計が重要になります。

5. まとめ

 テクノロジアーキテクチャ(TA)は、業務を実現するためのハードウェア、ソフトウェア、ネットワークなどの技術を体系化したアーキテクチャです。TAはエンタープライズアーキテクチャの一部として、組織のITインフラの全体像を技術的な観点から明確にします。

 TAの主要な構成要素として、ハードウェア構成図、ソフトウェア構成図、ネットワーク構成図があります。これらの図を通じて、システムの技術的な構成要素とその関係性を可視化することができます。

 適切に設計されたTAは、技術標準の確立、システム構成の最適化、技術的課題の特定と解決など、多くの役割を果たします。企業のシステム統合、クラウド移行、デジタルトランスフォーメーションなど、様々な場面で活用されています。

 近年では、クラウドネイティブアーキテクチャやマイクロサービスなど、新たなアーキテクチャパターンが登場しており、TAもこれらに対応したモデルへと進化しています。このような最新動向も理解した上で、ビジネス要件に最適なTAを設計することが重要です。