1.2.3. データアーキテクチャ

1. 概要

 データアーキテクチャ(DA:Data Architecture)とは、組織の目標や業務に必要となるデータの構成、データ間の関連を体系化したアーキテクチャです。エンタープライズアーキテクチャ(EA)の重要な構成要素の一つであり、組織全体のデータ資産を効率的に管理・活用するための枠組みを提供します。

 データアーキテクチャの重要性は、以下の点にあります:

  1. 組織内のデータの一貫性と整合性を確保
  2. データの重複や矛盾を防止
  3. データの可用性と信頼性の向上
  4. 経営戦略と情報システムの整合性確保
  5. 効率的なデータ活用による意思決定の質の向上

 データアーキテクチャは、エンタープライズアーキテクチャ全体の中で他のアーキテクチャと密接に関連しています。以下の図はエンタープライズアーキテクチャの全体像を示しています。

図1: エンタープライズアーキテクチャの全体像

2. 詳細説明

2.1. データアーキテクチャの構成要素

 データアーキテクチャは主に以下の要素から構成されています:

2.1.1. データモデル

 データモデルは、業務で扱うデータの論理的な構造を定義したものです。概念データモデル、論理データモデル、物理データモデルの3つのレベルで整理されることが一般的です。

2.1.2. データ定義表

 データ定義表は、業務で使用するデータ項目の名称、意味、属性、データ型、桁数などを一覧表形式で定義したものです。データの標準化と一貫性の確保に役立ちます。

データ項目名意味データ型桁数備考
顧客ID顧客を一意に識別する番号数値8主キー
顧客名顧客の氏名文字列50
生年月日顧客の生年月日日付8YYYYMMDD形式

表1:データ定義表の例

2.1.3. 情報体系整理図(UMLのクラス図)

 情報体系整理図は、業務で扱う情報の全体像を整理した図です。UMLのクラス図を用いて表現されることが多く、エンティティ(実体)間の関連性や継承関係を視覚的に表現します。クラス図ではエンティティの属性やメソッド、他のエンティティとの関連性(多重度)などを記述します。

図2:情報体系整理図(UMLのクラス図)の例

2.1.4. E-R図(Entity-Relationship図)

 E-R図は、データベース設計において使用される図式で、エンティティ(実体)間の関連を表現します。エンティティは四角形、関連は線や菱形で表され、1対多、多対多などの関連の種類も示されます。論理データモデルを視覚的に表現するために広く使用されています。

図2:E-R図の例

2.2. データアーキテクチャの設計プロセス

 データアーキテクチャの設計は、一般的に以下のプロセスで進められます:

  1. 現状分析:既存のデータ構造、データフロー、課題の把握
  2. 要件定義:組織の目標達成に必要なデータ要件の明確化
  3. 概念データモデルの設計:業務で扱う主要なエンティティと関連の特定
  4. 論理データモデルの設計:属性の詳細化、正規化、E-R図の作成
  5. 物理データモデルの設計:実装を考慮したデータベース設計
  6. データ標準の策定:データ命名規則、データ定義表の作成
  7. 実装と評価:設計に基づくデータベース構築と評価

2.3. 最新のデータアーキテクチャのトレンド

 近年のデータ量の爆発的増加とビジネス要件の多様化に伴い、データアーキテクチャも進化しています。主なトレンドとしては以下が挙げられます:

2.3.1. データレイク

 構造化・非構造化を問わず多様なデータを生データのまま格納する「データレイク」アーキテクチャが普及しています。従来の構造化されたデータウェアハウスと比較して柔軟性が高く、ビッグデータの活用に適しています。

2.3.2. データメッシュ

 中央集権型のデータアーキテクチャから、ドメインごとにデータの所有権と責任を分散させる「データメッシュ」アーキテクチャへの移行が進んでいます。各ドメインがデータを提供し、標準化されたインターフェースを通じて他のドメインと連携する分散型のアプローチです。

3. 応用例

3.1. 企業の統合データベース構築

 大手小売企業がデータアーキテクチャを活用した事例として、店舗、オンラインショップ、顧客管理システムなど複数のシステムで管理されていたデータを統合するプロジェクトが挙げられます。情報体系整理図(UMLのクラス図)を用いて「商品」「顧客」「販売」「在庫」などの主要エンティティとその関連を整理し、データ定義表で各属性を標準化しました。E-R図を基にデータウェアハウスを設計し、全社的な販売分析や在庫最適化を実現しました。

3.2. 行政機関のデータ連携基盤構築

 複数の部署や機関にまたがるデータ連携を効率化するため、行政機関ではデータアーキテクチャを活用したデータ連携基盤の構築が進められています。住民情報、税情報、福祉情報などのデータモデルをE-R図で体系化し、データ定義表で各データ項目の定義を統一することで、部署間のデータ連携の効率化と住民サービスの向上を実現しています。

3.3. 製造業のIoTデータ活用

 製造業では、IoTセンサーから収集される大量のデータを活用するためのデータアーキテクチャが重要となっています。センサーデータ、設備情報、生産計画などの関係を情報体系整理図(UMLのクラス図)で整理し、データ定義表でセンサーデータの種類や形式を標準化。これにより予知保全や生産効率の向上を実現しています。

4. 例題

例題1

 ある小売企業のデータアーキテクチャ設計において、以下のエンティティが特定されました:「顧客」「商品」「注文」「店舗」。これらのエンティティ間の関連を表すE-R図を作成し、各エンティティの主要な属性を3つずつ挙げてください。

 E-R図の概略:

  • 顧客(1)-(多)注文:一人の顧客は複数の注文を行う
  • 商品(多)-(多)注文:一つの注文は複数の商品を含み、一つの商品は複数の注文に含まれる
  • 店舗(1)-(多)注文:一つの店舗では複数の注文が行われる
  • 店舗(1)-(多)商品:一つの店舗には複数の商品が在庫されている

 各エンティティの主要属性:

  • 顧客:顧客ID、氏名、住所
  • 商品:商品ID、商品名、価格
  • 注文:注文ID、注文日時、合計金額
  • 店舗:店舗ID、店舗名、所在地

例題2

 データ定義表の重要性について述べ、ある人事システムの「従業員」エンティティに関するデータ定義表を5つの属性について作成してください。

 データ定義表は、システム内で使用されるデータ項目の定義を明確にし、システム開発や保守における共通理解を促進する重要なドキュメントです。データの一貫性を確保し、重複や矛盾を防ぐ役割を持ちます。

 「従業員」エンティティのデータ定義表例:

データ項目名意味データ型桁数必須制約・備考
従業員ID従業員を一意に識別する番号文字列10主キー、「E」+9桁数字
氏名従業員の氏名文字列50
部署コード所属部署を表すコード文字列4外部キー(部署マスタ)
入社日従業員の入社した日付日付8YYYYMMDD形式
役職従業員の役職文字列20×

例題3

 情報体系整理図(UMLのクラス図)とE-R図の違いについて説明し、それぞれが最適に使用される状況を挙げてください。

 情報体系整理図(UMLのクラス図)とE-R図は、いずれもデータモデルを視覚的に表現するための図式ですが、以下のような違いがあります:

  1. 表現の焦点:
    • UMLのクラス図:オブジェクト指向の観点からクラス(属性とメソッド)とその関係を表現
    • E-R図:データベース設計の観点からエンティティとその関連性を表現
  2. 表現要素:
    • UMLのクラス図:クラス、属性、メソッド、継承関係、関連関係など
    • E-R図:エンティティ、属性、関連(リレーションシップ)など
  3. 最適な使用状況:
    • UMLのクラス図:オブジェクト指向システムの設計、ビジネスドメインの概念モデリング、システムの全体構造の把握
    • E-R図:リレーショナルデータベースの論理設計、データ中心のアプリケーション設計

 UMLのクラス図は、業務プロセスとデータの関係を含めた広い視点での情報体系を整理する場合に適しており、E-R図はデータベース設計に焦点を当てた詳細なデータ構造を表現する場合に適しています。

5. まとめ

 データアーキテクチャ(DA)は、組織の目標や業務に必要となるデータの構成、データ間の関連を体系化したアーキテクチャです。エンタープライズアーキテクチャ(EA)の重要な構成要素として、組織全体のデータ資産を効率的に管理・活用するための枠組みを提供します。

 データアーキテクチャの主要な構成要素としては、データモデル、データ定義表、情報体系整理図(UMLのクラス図)、E-R図などがあります。これらの要素を適切に設計・活用することで、組織内のデータの一貫性と整合性を確保し、経営戦略と情報システムの整合性を高めることができます。

 最近のトレンドとしては、データレイクやデータメッシュなど、より柔軟で分散型のデータアーキテクチャが注目されています。これらの新しいアプローチを理解しつつ、基本的なデータモデリング手法や表現方法を習得することが重要です。

 情報処理技術者は、データアーキテクチャの基本概念と構成要素を理解し、具体的な業務シナリオにおいてデータモデルやデータ定義表、E-R図などを適切に活用できる能力が求められます。