1.5.2. 監査手続の適用

1. 概要

1.1. テーマの基本説明

 本記事では、応用情報処理技術者試験シラバスのマネジメント系「サービスマネジメント」におけるシステム監査の実施プロセスの一部である「監査手続の適用」に焦点を当てます。システム監査は、企業の情報システムが適切に運用され、リスク管理がなされているかを評価するための重要なプロセスです。

1.2. 重要性

 監査手続の適用は、予備調査、本調査、評価、結論といった一連の監査活動の中で、各種監査技法を実際に利用し、システムの信頼性や効率性、コンプライアンスを確保するために不可欠です。これにより、問題の早期発見やリスクの最小化が実現され、企業の持続的成長に寄与します。

 以下のMermaidコードは、予備調査から本調査、評価、結論までのプロセスと、それぞれの段階で適用される代表的な監査技法を示しています。

flowchart TD
    A[予備調査] --> B[本調査]
    B --> C[評価]
    C --> D[結論]
    subgraph 技法の適用例
      A --> E[チェックリスト法
ドキュメントレビュー法
インタビュー法] B --> F[ウォークスルー法
突合・照合法] C --> G[現地調査法
統計的サンプリング] end

図1: システム監査プロセスのフローチャート

2. 詳細説明

2.1. 監査手続の適用とは

 システム監査の実施プロセスにおいて、「監査手続の適用」とは、実際の監査現場で各種技法を用いて情報収集と分析を行い、システムの状態や運用状況を客観的に評価する工程を指します。

2.2. 代表的なシステム監査技法

 以下に、代表的な監査技法とその概要を示します。

2.2.1. チェックリスト法

 チェックリスト法は、監査項目をリスト化し、漏れなく評価を行う手法です。各項目の達成状況を迅速に把握でき、標準化された監査を実施する上で有効です。

2.2.2. ドキュメントレビュー法(文書及び記録の収集・閲覧)

 この手法では、関連する文書や記録を収集し、内容の正確性や整合性を確認します。システムの運用状況や管理体制の裏付けとして、文書の証拠性が重要視されます。

2.2.3. インタビュー法(質問書・調査票)

 インタビュー法は、関係者に対して質問書や調査票を用い、直接情報を聴取する方法です。現場の実情や意識、内部統制の運用状況など、文書では把握しにくい情報の収集に適しています。

2.2.4. ウォークスルー法

 ウォークスルー法は、システムの運用プロセスや手続きを実際に追跡し、作業の流れや手順を確認する手法です。業務プロセスの理解を深め、潜在的な問題点を発見することが可能です。

2.2.5. 突合・照合法

 突合・照合法は、複数のデータや記録を相互に照合することで、一致性や不整合を確認する技法です。データの正確性や整合性の検証に用いられます。

2.2.6. 現地調査法

 現地調査法は、実際の作業現場に赴き、状況を直接確認する方法です。実地の環境や設備の状態、作業手順の実施状況などを詳細に把握できます。

2.2.7. 統計的サンプリング

 統計的サンプリングは、大量のデータから代表的なサンプルを抽出し、その結果を基に全体の状況を推測する手法です。効率的かつ客観的な判断が可能となります。

 以下のHTML表は、各監査技法の特徴、メリット・デメリット、適用シーンを一覧で比較できるようまとめています。

技法 特徴 メリット デメリット 適用シーン
チェックリスト法 監査項目をリスト化して評価 標準化された評価が可能 現場特有の問題を見逃す恐れあり 全般的な監査
ドキュメントレビュー法
(文書及び記録の収集・閲覧)
関連文書や記録の内容を精査 文書の証拠性で裏付けが取れる 記録の不備が影響する可能性 システム運用の確認
インタビュー法
(質問書・調査票)
直接聴取による情報収集 内部の状況や意識を把握可能 主観的回答の影響を受ける 内部統制や運用状況の把握
ウォークスルー法 業務プロセスを追跡して確認 プロセスの詳細な理解が得られる 時間と労力が必要 業務プロセスの改善点の特定
突合・照合法 複数データの相互照合 データの整合性が確認できる 大量データでは手間がかかる データ検証
現地調査法 作業現場へ直接赴いて調査 実環境の状況を正確に把握 移動等のコストが発生 現場の実態確認
統計的サンプリング 代表的サンプルを抽出して分析 大規模データの効率的評価が可能 抽出方法に依存 大量データの全体傾向の把握

表1: 代表的なシステム監査技法の比較表

3. 応用例

3.1. 企業における実践例

 大手IT企業では、システム監査実施時にチェックリスト法を用いて標準的な監査項目を網羅し、ドキュメントレビュー法で過去の記録や運用マニュアルを確認します。さらに、現地調査法やウォークスルー法を併用し、実際の運用状況と文書上の記載内容の乖離を検証することで、信頼性の高い監査評価を実現しています。

3.2. 複合的な技法の活用

 監査プロジェクトでは、インタビュー法による関係者からのヒアリングと、統計的サンプリングによって抽出したデータを突合・照合法で照らし合わせ、客観的な監査評価が行われています。これにより、システムの安全性や業務プロセスの改善点が具体的に特定され、効果的な対策が講じられます。

4. 例題

例題1: チェックリスト法のメリットとデメリット

【問題】
 チェックリスト法を用いたシステム監査実施におけるメリットとデメリットを、それぞれ簡潔に説明してください。

メリット:監査項目を漏れなく網羅でき、標準化された評価が可能。
デメリット:項目に固執することで、現場特有の問題を見逃す可能性がある。

例題2: 複数の監査技法の組み合わせの意義

【問題】
 現地調査法、ウォークスルー法、統計的サンプリングを組み合わせることで、どのようなシナリオで効果的な監査が可能となるか説明してください。

 現地調査法で実環境の状況を正確に把握し、ウォークスルー法で業務プロセスを詳細に確認。統計的サンプリングで抽出した代表サンプルを突合・照合法で検証することで、全体の運用状況を効率的かつ客観的に評価できる。

5. まとめ

 システム監査における監査手続の適用は、チェックリスト法、ドキュメントレビュー法(文書及び記録の収集・閲覧)、インタビュー法(質問書・調査票)、ウォークスルー法、突合・照合法、現地調査法、統計的サンプリングといった代表的な監査技法を駆使し、システムの健全性や運用状況を多角的に評価する重要なプロセスです。各技法の特性を理解し、実務において効果的に組み合わせることが、信頼性の高いシステム監査の実現に寄与します。

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