4.3. ツールと技法

目的と用語例

スコープの対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。

用語例

スコープ(作業及び成果物),活動,ワークパッケージ,要素分解,100 パーセントルール,プロジェクトスコープのクリープ

1. 概要

 プロジェクトスコープのツールと技法は、プロジェクトの範囲を明確に定義し、管理するための重要な手法です。スコープ(範囲や成果物)を適切に管理することで、プロジェクト目標の達成に必要な活動を明確化し、効率的なプロジェクト運営を実現できます。

2. ツールと技法の詳細

2.1. 要素分解技法(WBS)

 要素分解(WBS: Work Breakdown Structure)は、プロジェクトの成果物や作業を階層的に分解する技法です。上位レベルの成果物を、より詳細な作業単位であるワークパッケージまで段階的に分解します。このプロセスにより、作業の範囲が明確になり、進捗の管理が容易になります。

graph TD
    A[プロジェクト] --> B[フェーズ1: 要件定義]
    A --> C[フェーズ2: 設計]
    A --> D[フェーズ3: 開発]
    A --> E[フェーズ4: テスト]
    
    B --> B1[要件分析]
    B --> B2[要件文書作成]
    B --> B3[要件レビュー]
    
    C --> C1[基本設計]
    C --> C2[詳細設計]
    
    C1 --> C1A[システム構成設計]
    C1 --> C1B[データベース設計]
    C1 --> C1C[インターフェース設計]
    
    C2 --> C2A[モジュール設計]
    C2 --> C2B[データ構造設計]
    C2 --> C2C[画面設計]
    
    D --> D1[コーディング]
    D --> D2[単体テスト]
    D --> D3[コードレビュー]
    
    E --> E1[結合テスト]
    E --> E2[システムテスト]
    E --> E3[受入テスト]

    classDef phase fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px
    classDef work fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px
    classDef package fill:#dfd,stroke:#333,stroke-width:1px
    
    class A phase
    class B,C,D,E phase
    class B1,B2,B3,C1,C2,D1,D2,D3,E1,E2,E3 work
    class C1A,C1B,C1C,C2A,C2B,C2C package

図1: WBSの構造図

2.2. 100パーセントルール

 100パーセントルールとは、WBSにおいて、上位レベルの作業はその下位レベルの作業の総和と等しくなるという原則です。このルールにより、作業の漏れや重複を防ぐことができます。
 例: システム開発のWBSで「設計」フェーズが「要件定義」「基本設計」「詳細設計」の総和と一致するように設定する。

2.3. スコープ管理のための技法

 プロジェクトスコープのクリープ(範囲の逸脱)を防ぐため、以下の技法が用いられます:

  • スコープベースライン管理: 初期のスコープ定義を基準とする。
  • 変更管理プロセス: 変更要求を評価し、承認手続きを経るプロセス。
  • 構成管理: 成果物のバージョンや変更内容を一元管理。

3. 実際の応用例

3.1. システム開発プロジェクトでの適用

 システム開発プロジェクトでは、以下のようにWBSやスコープ管理技法が活用されます:

  • 要件定義 → 基本設計 → 詳細設計 → 実装 → テストという階層的な要素分解
  • 各フェーズごとにワークパッケージを定義し、進捗を管理
  • スコープベースラインを活用して変更要求を評価し、適切なプロセスを経て管理
レベル1 レベル2 レベル3(ワークパッケージ) 成果物
要件定義 業務分析 現行業務フロー作成
課題分析
業務フロー図
課題一覧
要件整理 機能要件定義
非機能要件定義
要件定義書
要件確認 要件レビュー
要件承認
レビュー議事録
承認書
基本設計 システム方式設計 アーキテクチャ設計
システム構成設計
システム方式設計書
データベース設計 ER図作成
テーブル定義
ER図
テーブル定義書

表1: システム開発におけるWBSの具体例

3.2. 建設プロジェクトでの適用

 建設プロジェクトでは、以下のように活用されます:

  • 設計 → 施工 → 検査の要素分解
  • 各工程に対応するワークパッケージの定義
  • 厳密なスコープ管理により、スコープクリープを防止
graph TD
    A[建設プロジェクト] --> B[設計フェーズ]
    A --> C[施工フェーズ]
    A --> D[検査フェーズ]
    
    B --> B1[基本設計]
    B --> B2[実施設計]
    
    B1 --> B1A[配置計画]
    B1 --> B1B[概略設計]
    B1 --> B1C[概算見積]
    
    B2 --> B2A[詳細図面作成]
    B2 --> B2B[構造計算]
    B2 --> B2C[仕様書作成]
    
    C --> C1[基礎工事]
    C --> C2[躯体工事]
    C --> C3[仕上工事]
    C --> C4[設備工事]
    
    C1 --> C1A[地盤調査]
    C1 --> C1B[掘削]
    C1 --> C1C[基礎打設]
    
    C2 --> C2A[鉄筋組立]
    C2 --> C2B[型枠設置]
    C2 --> C2C[コンクリート打設]
    
    D --> D1[自主検査]
    D --> D2[中間検査]
    D --> D3[完了検査]

    classDef phase fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px
    classDef work fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px
    classDef package fill:#dfd,stroke:#333,stroke-width:1px
    
    class A phase
    class B,C,D phase
    class B1,B2,C1,C2,C3,C4,D1,D2,D3 work
    class B1A,B1B,B1C,B2A,B2B,B2C,C1A,C1B,C1C,C2A,C2B,C2C package

図2: 建設プロジェクトにおけるWBSの例

4. 例題

例題1

 問題: あるシステム開発プロジェクトで、要素分解(WBS)を作成する際の正しい考え方を選びなさい。
a) 上位レベルの作業時間は、下位レベルの作業時間の合計より少なくてよい
b) 100パーセントルールに従い、上位作業は下位作業の総和と等しくする
c) 作業の重複は許容される
d) ワークパッケージは大きく設定する

解答: b
解説: 100パーセントルールに従い、上位レベルの作業は下位レベルの作業の総和と等しくする必要があります。これにより作業の漏れや曖昧さを防ぐことが可能です。

例題2

 問題: プロジェクトスコープのクリープが発生した際の適切な対応を選びなさい。
a) 変更を無条件に受け入れる
b) 変更管理プロセスに従って影響を評価し、承認プロセスを経る
c) すべての変更を却下する
d) プロジェクトマネージャーの判断のみで決定する

解答: b
解説: スコープクリープに対しては、適切な変更管理プロセスを通じて影響を評価し、正式な承認を経ることが重要です。

5. まとめ

 プロジェクトスコープのツールと技法を効果的に活用するためには、以下の点が重要です:

  • 要素分解(WBS)による作業の階層的な分解
  • 100パーセントルールの遵守
  • ワークパッケージの適切な定義
  • スコープクリープの管理
  • 変更管理プロセスの確立

 これらを適切に組み合わせることで、効果的なプロジェクトスコープ管理が実現できます。