4.1. スコープの対象群が含むプロセス

目的とプロセス

スコープの対象群には,作業及び成果物のうち必要とするものだけを特定し,定義するために必要なプロセスを含む。それらのプロセスの目的,役割,機能,プロセス間の関連などを理解する。

プロセス

スコープの定義,WBS の作成,活動の定義,スコープの管理

1. 概要

 プロジェクトのスコープ管理は、プロジェクトマネジメントにおいて最も重要な要素の一つです。スコープとは、プロジェクトで実施する作業の範囲と、作成する成果物の範囲を指します。スコープの対象群に含まれるプロセスは、プロジェクトの成功に直接的な影響を与えるため、体系的な理解と適切な実践が不可欠です。

1.1. スコープ管理の重要性

 スコープを適切に管理できないと、以下のような問題が発生する可能性があります:

  • 必要な作業の漏れや過剰な作業の実施
  • プロジェクトコストの超過
  • スケジュールの遅延
  • 顧客満足度の低下

 例えば、要件定義が曖昧なまま進行した結果、不必要な機能が追加され、納期が2ヶ月延長した事例があります。このような事態を防ぐために、スコープ管理は不可欠です。

2. 詳細説明

2.1. スコープの定義

 スコープの定義は、プロジェクトで実施する作業と作成する成果物を明確にするプロセスです。

主な活動

  • プロジェクトの目的と目標の明確化
  • 成果物の詳細な仕様の決定
  • 除外事項(プロジェクトに含まれない作業)の明確化
  • ステークホルダーとの合意形成

2.2. WBSの作成

 WBS(Work Breakdown Structure)は、プロジェクトの成果物を段階的に詳細化し、作業パッケージレベルまで分解する階層構造図です。

WBS作成のポイント

  • トップダウンアプローチによる作業の分解
  • 100%ルール(上位の作業は下位の作業の総和)の遵守
  • 作業パッケージの適切な粒度の設定
  • コードによる体系的な管理
graph TD
    A[プロジェクト全体] --> B[システム設計]
    A --> C[システム開発]
    A --> D[テスト]
    
    B --> B1[基本設計]
    B --> B2[詳細設計]
    
    C --> C1[モジュール開発]
    C --> C2[単体テスト]
    
    D --> D1[統合テスト]
    D --> D2[受け入れテスト]

図1:WBSの図解

2.3. 活動の定義

 WBSで特定された作業パッケージを、具体的な活動(アクティビティ)に展開するプロセスです。

定義すべき要素

  • 活動の内容と範囲
  • 必要なリソース
  • 所要時間の見積もり
  • 前提条件と制約条件

2.4. スコープの管理

 定義されたスコープを監視し、必要に応じて変更を管理するプロセスです。

管理のポイント

  • スコープベースラインの設定
  • 変更管理手続きの確立
  • 進捗状況の定期的な確認
  • 是正処置の実施

3. 応用例

3.1. システム開発プロジェクトでの適用

 システム開発プロジェクトでは、以下のように各プロセスを適用します:

  1. スコープの定義
    • 要件定義書の作成
    • システム機能の明確化
    • 開発対象外機能の特定
  2. WBSの作成
    • 設計→開発→テストの階層化
    • モジュール単位での作業分解
    • 各フェーズの成果物の明確化
  3. 活動の定義
    • 開発タスクの詳細化
    • 必要な開発者スキルの特定
    • テスト項目の具体化
  4. スコープの管理
    • 要件変更管理
    • 進捗報告会議の実施
    • 課題管理表の運用

4. 例題

例題1

問題
あるシステム開発プロジェクトで、WBSを作成する際の適切な作業分解レベルを判断する基準として、最も適切なものを選びなさい。

選択肢
A) 作業期間が1日以下になるまで分解する
B) 作業コストが10万円以下になるまで分解する
C) 進捗管理可能で、担当者が特定できる程度まで分解する
D) プロジェクトマネージャの経験に基づいて分解する

回答:C

解説
作業パッケージの分解レベルは、進捗管理が可能で、責任の所在が明確になる程度が適切です。期間や金額による一律の基準は、プロジェクトの特性によって適切でない場合があります。

例題2

問題
スコープ管理プロセスにおける「スコープの定義」と「活動の定義」の関係について、最も適切な説明を選びなさい。

選択肢
A) スコープの定義と活動の定義は同時に行うべきである
B) スコープの定義が完了してから活動の定義を行う
C) 活動の定義が完了してからスコープの定義を行う
D) スコープの定義と活動の定義は独立して行うべきである

回答:B

解説
スコープの定義でプロジェクトの範囲を明確にした後、その範囲内で具体的な活動を定義していきます。この順序を守ることで、効率的なプロジェクト計画が可能になります。

5. まとめ

 スコープの対象群に含まれる各プロセスは、以下のような関係性を持って機能します:

  1. スコープの定義によってプロジェクトの範囲を明確にする
  2. WBSの作成で作業を階層的に分解する
  3. 活動の定義で具体的なタスクを特定する
  4. スコープの管理で全体を適切にコントロールする

 これらのプロセスを適切に実施することで、プロジェクトの目標達成に必要な作業を漏れなく特定し、効率的に管理することが可能になります。応用情報技術者として、これらのプロセスの目的と役割を理解し、実務で適切に活用できることが求められます。