2.3. ツールと技法

目的と用語例

統合の対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。

用語例

ベースライン,CCB(Change Control Board:変更管理委員会),問題点管理表,プロジェクト評価,プロジェクト評価指標

1. 概要

 プロジェクトの統合管理において、各プロセスにおける主要なインプット(入力)とアウトプット(出力)を理解することは、プロジェクト全体の成功に不可欠です。これらは、プロジェクトの開始から終了まで、一貫性のある管理を実現するための重要な要素となります。

1.1. 重要性

 プロジェクトの統合管理では、様々なプロセスやドキュメントを適切に連携させる必要があります。主要なインプットとアウトプットを理解することで、プロジェクトの各段階で必要な情報や成果物を適切に管理することができます。

2. 詳細説明

2.1. 主要なインプット

 主要なインプットの例とその概要は以下の通りです:

インプット項目概要
プロジェクト憲章プロジェクトの目的や制約、ステークホルダーの役割を定義した文書。
要件定義書プロジェクトで満たすべき機能や性能要件を記載した文書。
ステークホルダー要求事項ステークホルダーの期待やニーズを明確にしたドキュメント。
ベースラインプロジェクトスコープ、コスト、スケジュールの基準値。
変更要求既存の計画や成果物に変更を加えるための正式なリクエスト。
進捗報告書プロジェクトの現状や進捗状況を記録した報告書。

図1:主要なインプット一覧表

2.2. 主要なアウトプット

 主要なアウトプットには以下が含まれます:

アウトプット項目概要
プロジェクト管理計画書プロジェクトの実施方法や管理方法を記載した計画書。
作業成果物プロジェクトで作成される具体的な成果物。
問題点管理表プロジェクト内で発生した問題を追跡・管理するためのツール。
プロジェクト評価報告書プロジェクトの進捗や達成度をまとめた報告書。
評価指標の測定結果プロジェクトの目標に対する達成度を示すデータや分析結果。

図2:主要なアウトプット一覧表

2.3. 変更管理プロセス

 CCB(Change Control Board:変更管理委員会)は、変更要求の評価と承認を行う重要な役割を担います。変更管理のプロセスは以下のように進めます:

  1. 変更要求の受付
  2. 影響分析(スコープ、コスト、スケジュールへの影響を評価)
  3. CCBによる審査
  4. 承認/否認の決定
  5. 変更の実施と監視
flowchart TD
    A[変更要求の受付] --> B[影響分析]
    B --> C{CCBによる審査}
    C -->|承認| D[変更実施]
    C -->|否認| E[要求者へ通知]
    D --> F[変更の監視]
    F --> G{変更の確認}
    G -->|OK| H[完了]
    G -->|NG| D
    
    subgraph 影響分析の対象
        B1[スコープ評価]
        B2[コスト評価]
        B3[スケジュール評価]
    end
    
    B --> 影響分析の対象
    
    style A fill:#e1f3ff
    style B fill:#e1f3ff
    style C fill:#ffe1e1
    style D fill:#e1ffe1
    style E fill:#ffe1e1
    style F fill:#e1ffe1
    style H fill:#e1ffe1

図3:変更管理プロセスのフローチャート

3. 応用例

3.1. システム開発プロジェクトでの活用

 システム開発プロジェクトでは、以下のように統合管理が実践されています:

  • 要件定義フェーズでのベースライン設定と進捗管理の統合。
  • 開発工程での問題点管理表を活用した課題管理。
  • スプリントレビューでのプロジェクト評価の反映。
  • CCBによる仕様変更管理の実施。

3.2. プロジェクト評価指標の活用例

 プロジェクト評価指標(KPIやEVMなど)を活用することで、進捗や品質を客観的に評価します:

  • EVM(Earned Value Management): 例えば、SPI(Schedule Performance Index)やCPI(Cost Performance Index)を用いた進捗評価。
  • KPI(Key Performance Indicator): バグ修正率やテストカバレッジを用いた品質評価。
  • リスク対応策の効果測定: 対応策の効果を計測し、プロジェクトのリスク軽減に寄与。

4. 例題

例題1

問題: プロジェクトにおいて、ベースラインの変更が必要となった場合の適切な手順について、最も適切なものを選びなさい。

a) プロジェクトマネージャーが単独で判断し、変更を実施する
b) CCBに変更要求を提出し、承認を得てから実施する
c) チームリーダーの承認のみで変更を実施する
d) 変更要求を受けたら即時に実施する

解答: b

解説:
ベースラインの変更には、正式な変更管理プロセスを経る必要があります。CCBによる審査と承認は、変更の影響を適切に評価し、プロジェクト全体への影響を最小限に抑えるために重要です。

例題2

問題: 問題点管理表に含めるべき項目として、適切でないものはどれか。

a) 問題の発生日と発見者
b) 問題の重要度と優先度
c) プロジェクトメンバーの個人評価
d) 対応状況と期限

解答: c

解説:
問題点管理表は、プロジェクト内で発生した問題を追跡・管理するためのツールです。個人評価は別途、人事評価の枠組みで実施すべき項目となります。

5. まとめ

 プロジェクトの統合における主要なインプット及びアウトプットの理解は、以下の点で重要です:

  1. プロジェクト全体の一貫性維持。
  2. 変更管理の適切な実施(CCBの活用)。
  3. 問題点の効果的な追跡と管理。
  4. プロジェクト評価指標による客観的な評価。
  5. ベースラインに基づく進捗管理。

 これらを適切に管理することで、プロジェクトの成功確率を高めることができます。