<< 4.5.5. e-文書法

1. 概要

 電子帳簿保存法(電子計算機を使用して作成する国税関係帳簿書類の保存方法等の特例に関する法律)は、企業の帳簿書類の電子化を推進するために1998年に施行された法律です。従来、国税関係の帳簿書類は紙での保存が原則でしたが、この法律により、一定の要件を満たせば電子データでの保存が認められるようになりました。

 情報システムの発展とともに、企業の業務プロセスの多くがデジタル化される中、帳簿書類だけが紙で保存されることは非効率であり、電子帳簿保存法はこうした課題を解決するために制定されました。2022年1月には大幅な改正が施行され、電子取引データの電子保存が義務化されるなど、デジタル化の流れがさらに加速しています。

 応用情報技術者として、この法律の技術的要件や実装方法を理解することは、企業の電子化推進において重要な役割を果たします。

2. 詳細説明

2.1 電子帳簿保存法の対象となる書類

 電子帳簿保存法では、国税関係帳簿書類を以下の3つのカテゴリーに分類しています。

 第一に、「電子帳簿等保存」の対象となるのは、最初からコンピュータで作成した帳簿や決算関係書類です。会計ソフトで作成した総勘定元帳、仕訳帳、貸借対照表、損益計算書などがこれに該当します。

 第二に、「スキャナ保存」の対象となるのは、紙で受領または作成した書類を画像データで保存する場合です。請求書、領収書、契約書、見積書などの取引関係書類が該当します。

 第三に、「電子取引」の対象となるのは、電子的に授受した取引情報です。電子メールで受信したPDF請求書、ECサイトからダウンロードした領収書、EDIシステムでやり取りした注文データなどが含まれます。

電子帳簿保存法の3つの区分と対象書類

電子帳簿等保存

スキャナ保存

電子取引

最初からコンピュータで作成した帳簿・書類

総勘定元帳

仕訳帳

貸借対照表

損益計算書

その他決算関係書類

紙で受領・作成した書類を画像データで保存

請求書

領収書

契約書

見積書

その他取引関係書類

電子的に授受した取引情報

電子メールで受信したPDF請求書

ECサイトからダウンロードした領収書

EDIシステムでやり取りした注文データ

その他電子取引データ

2.2 保存要件と真実性・可視性の確保

 電子帳簿保存法では、電子データの真実性と可視性を確保するため、厳格な保存要件を定めています。

真実性・可視性確保のための技術要件チェックリスト

真実性確保(訂正削除履歴、相互関連性、システム関係書類)と可視性確保(見読可能装置、検索機能、出力要件)の要件を一覧化した表

区分要件項目具体的な要件実装上の注意点
真実性の確保訂正・削除の履歴□ 訂正・削除の事実及び内容を確認できること・変更ログテーブルの実装
・タイムスタンプの付与
□ 訂正・削除前の内容を確認できること・履歴データの完全保存
・変更前後の差分表示機能
□ 訂正・削除の理由を記録できること
・承認ワークフローとの連携 | | 相互関連性の確保 | □ 帳簿と書類の相互関連性を確認できること | ・統一的な取引番号体系 ・リレーショナルDB設計 | | □ 関連する帳簿書類を相互に参照できること | ・クロスリファレンス機能 ・関連文書の自動リンク | | システム関係書類 | □ システム概要書・仕様書・操作説明書を備付け | ・文書管理システムでの一元管理 ・バージョン管理の徹底 | | 可視性の確保 | 見読可能装置 | □ ディスプレイの備付け | ・カラー表示対応 ・十分な解像度(14インチ以上推奨) | | □ プリンタの備付け | ・A4サイズ以上の出力 ・カラー印刷対応 | | 検索機能 | □ 取引年月日での検索が可能 | ・日付範囲検索の実装 ・インデックスの最適化 | | □ 取引金額での検索が可能 | ・金額範囲検索の実装 ・通貨単位の統一 | | □ 取引先での検索が可能 | ・部分一致検索の実装 ・取引先マスタの整備 | | □ 複数条件での組合せ検索が可能 | ・AND/OR検索の実装 ・検索条件の保存機能 | | 出力要件 | □ 整然とした形式で速やかに出力できること | ・PDF/CSV形式での出力 ・レスポンスタイム3秒以内 |

※ 2022年1月の改正により、事前承認制度は廃止されました。上記要件を満たすシステムであれば、届出なしで電子保存を開始できます。

 真実性の確保については、訂正・削除の履歴が残ること、相互関連性が確保されていること、システム関係書類が備え付けられていることが求められます。特に重要なのは、電子データの改ざんを防止し、仮に変更があった場合でもその履歴を追跡できる仕組みです。

 可視性の確保については、見読可能装置(ディスプレイ、プリンタ等)の備え付け、検索機能の確保、速やかな出力が要件となっています。検索要件では、取引年月日、取引金額、取引先での検索が可能であることが必要です。

 2022年の改正では、事前承認制度が廃止され、より多くの企業が電子保存を始めやすくなりました。一方で、電子取引データの電子保存義務化により、すべての企業が何らかの形で電子帳簿保存法に対応する必要が生じています。

3. 実装方法と応用例

3.1 システム実装における技術要件

 電子帳簿保存法に対応したシステムを実装する際は、以下の技術要件を満たす必要があります。

 データベース設計では、トランザクションログの完全性を保証し、すべての変更履歴を記録する仕組みが必要です。例えば、削除フラグによる論理削除の実装、変更前後のデータを保持する履歴テーブルの設計、タイムスタンプによる時系列管理などが挙げられます。

 検索機能の実装では、日付範囲検索、金額範囲検索、取引先名での部分一致検索など、法定要件を満たす検索インデックスの設計が重要です。また、大量データに対しても高速に検索できるよう、適切なインデックス戦略が必要となります。

電子帳簿保存システムのアーキテクチャ

ストレージ層

データベース層

アプリケーション層

取引年月日取引金額取引先検索

改ざん防止

真実性確保

改変不可

オブジェクトストレージ

Webアプリケーション

API Gateway

認証・認可

検索エンジン

ファイル管理

ワークフロー

メタデータDB

トランザクションDB

変更履歴テーブル

削除履歴テーブル

履歴管理DB

監査ログDB

アーカイブストレージ

バックアップストレージ

タイムスタンプサーバー

暗号化モジュール

WORM機能

3.2 クラウドサービスの活用

 近年では、電子帳簿保存法に対応したクラウドサービスが多数提供されています。これらのサービスは、法的要件を満たすための機能があらかじめ実装されており、企業は自社でシステムを開発することなく、電子保存を開始できます。

PDF/画像

構造化データ

方法1

方法2

日付検索

金額検索

取引先検索

電子取引データ受領

データ形式確認

OCR処理検索可能化

データ抽出

メタデータ付与

改ざん防止措置

改ざん防止方法

タイムスタンプ付与

訂正削除防止事務処理規程

データベース保存

検索インデックス構築

検索要件確保・取引年月日・取引金額・取引先

アクセス権限設定

バックアップ処理

保存完了

検索・閲覧機能

検索方法

範囲指定可能

範囲指定可能

部分一致可能

画面表示/印刷

 クラウドサービスを選定する際は、JIIMA認証(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会による認証)を取得しているかどうかが一つの判断基準となります。また、API連携により既存の業務システムとシームレスに統合できるかどうかも重要な検討ポイントです。

4. 例題と解説

問題1

 電子帳簿保存法において、電子取引データの保存に関する説明として、適切なものはどれか。

ア 電子取引データは、受領後速やかに印刷して紙で保存すれば、電子データの保存は不要である。
イ 電子取引データは、改ざん防止措置を講じた上で、電子データのまま保存しなければならない。
ウ 電子取引データの保存は任意であり、企業の判断で紙保存か電子保存かを選択できる。
エ 電子取引データは、税務署長の事前承認を得た場合のみ電子保存が認められる。

解答:イ

解説
2022年1月の改正により、電子取引データの電子保存が義務化されました。電子メールで受信した請求書PDFなどは、改ざん防止措置(タイムスタンプの付与、訂正削除の防止に関する事務処理規程の備付けなど)を講じた上で、電子データのまま保存する必要があります。

問題2

 電子帳簿保存法における検索要件として、最低限必要な検索項目の組み合わせはどれか。

ア 取引年月日、取引先、取引内容
イ 取引年月日、取引金額、取引先
ウ 取引金額、取引先、勘定科目
エ 取引年月日、取引内容、勘定科目

解答:イ

解説
電子帳簿保存法では、「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目での検索機能の確保が要件となっています。これらの項目で範囲指定検索や組み合わせ検索ができることも必要です。

5. まとめ

 電子帳簿保存法は、企業のデジタルトランスフォーメーションを支える重要な法制度です。応用情報技術者として、単に技術的な実装方法を理解するだけでなく、法的要件と技術要件の両面から適切なシステム設計ができることが求められます。

 特に2022年の改正により電子取引データの電子保存が義務化されたことで、すべての企業が何らかの対応を迫られています。真実性と可視性の確保という基本原則を理解し、適切な技術選択とシステム設計を行うことが、コンプライアンスを確保しながら業務効率化を実現する鍵となります。

4.5.7. 産業機器関連法 >>

ご利用上のご注意

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