1. 概要
マルチプロセッサシステムとは、複数のプロセッサ(CPU)を搭載し、高速化や高信頼化を実現したコンピュータシステムです。現代のコンピューティングにおいて、マルチプロセッサシステムは非常に重要な役割を果たしています。
1.1. マルチプロセッサシステムの重要性
- 処理速度の向上:複数のプロセッサで並列処理を行うことで、全体的な処理速度を向上させることができます。
- 信頼性の向上:一つのプロセッサが故障しても、他のプロセッサで処理を継続できるため、システムの信頼性が向上します。
- スケーラビリティ:必要に応じてプロセッサを追加することで、システムの性能を柔軟に拡張できます。
2. 詳細説明
2.1. マルチプロセッサシステムの種類
マルチプロセッサシステムは、主に以下の3つに分類されます:
- 疎結合マルチプロセッサシステム
- 密結合マルチプロセッサシステム
- タンデム結合マルチプロセッサシステム
2.1.1. 疎結合マルチプロセッサシステム
- 各プロセッサが独自のメモリを持ち、ネットワークを介して通信を行うシステム
- 特徴:拡張性が高い、通信オーバーヘッドが大きい
- 例:クラスタシステム
2.1.2. 密結合マルチプロセッサシステム
- 複数のプロセッサが共有メモリを使用するシステム
- 特徴:高速な通信が可能、プログラミングが比較的容易
- 例:SMP(Symmetric Multi Processing:対称型マルチプロセッシング)
2.1.3. タンデム結合マルチプロセッサシステム
- 2つのプロセッサが同じ処理を並行して行い、結果を比較するシステム
- 特徴:高い信頼性、エラー検出能力が高い
- 用途:ミッションクリティカルな環境(航空管制システムなど)
2.2. マルチプロセッサシステムの構造
マルチプロセッサシステムは、以下のような構造を持つことがあります:
- トーラス:格子状に接続された構造
- ハイパーキューブ:n次元立方体の頂点にプロセッサを配置した構造
- ハイパーツリー:木構造とハイパーキューブを組み合わせた構造
2.3. アムダールの法則
アムダールの法則は、並列処理による性能向上の限界を示す法則です。並列化できない部分が全体の処理時間に大きな影響を与えることを示しています。
3. 応用例
3.1. スーパーコンピュータ
- 気象予報や宇宙シミュレーションなど、大規模な科学技術計算に使用
- 例:アレイコンピュータシステム(ベクトル処理に特化したシステム)
3.2. データセンター
- クラウドコンピューティングやビッグデータ処理に活用
- 大規模なクラスタシステムを構築
3.3. 組み込みシステム
- 自動車や産業機器などに搭載され、リアルタイム処理や高信頼性を実現
4. 例題
例題1
Q: SMPシステムの特徴を3つ挙げてください。
A: SMPシステムの特徴:
- 複数のプロセッサが共有メモリを使用する
- すべてのプロセッサが対等な関係にある
- 1つのOSで全プロセッサを管理する
例題2
Q: アムダールの法則に基づいて、並列化可能な部分が全体の80%で、8台のプロセッサを使用した場合の理論上の速度向上率を計算してください。
A: アムダールの法則の公式:
速度向上率 = 1 / ((1 – P) + P/N)
ここで、P: 並列化可能な割合、N: プロセッサ数
計算:
1 / ((1 – 0.8) + 0.8/8) = 1 / (0.2 + 0.1) = 1 / 0.3 ≈ 3.33
したがって、理論上の速度向上率は約3.33倍となります。
例題3
Q: 疎結合マルチプロセッサシステムと密結合マルチプロセッサシステムの違いを説明してください。
A: 主な違い:
- メモリ構成:疎結合は各プロセッサが独自のメモリを持つ、密結合は共有メモリを使用
- 通信方法:疎結合はネットワークを介して通信、密結合は共有メモリを介して高速通信
- スケーラビリティ:疎結合の方が拡張性が高い
- プログラミング:密結合の方が比較的容易
5. まとめ
マルチプロセッサシステムは、複数のプロセッサを組み合わせることで高速化や高信頼化を実現する重要な技術です。主に疎結合、密結合、タンデム結合の3種類があり、それぞれ特徴と適した用途があります。システム構造としてはトーラス、ハイパーキューブ、ハイパーツリーなどがあります。
実際の応用では、スーパーコンピュータやデータセンター、組み込みシステムなど幅広い分野で活用されています。アムダールの法則は、並列処理による性能向上の限界を示す重要な概念です。
マルチプロセッサシステムの適切な選択と設計は、システムの性能や信頼性に大きな影響を与えるため、情報処理技術者として理解しておくべき重要なトピックです。