1. 概要
システム開発における外部資源の利用とは、自社だけでなく社外の資源(企業やサービス)を活用してシステム開発や運用を行うことを指します。昨今のIT業界では、自社ですべてのシステムを開発・運用するよりも、外部の専門企業やサービスを活用することで、コスト削減、専門知識の活用、開発期間の短縮などの効果が期待できます。特に急速に変化する技術環境やビジネス要件に対応するため、外部資源の効果的な活用は現代のシステム開発において不可欠な戦略となっています。
システム開発における外部資源活用の目的は、「自社のコア・コンピタンスに集中し、それ以外の部分は外部の専門性を活用する」という経営戦略に基づいています。これにより、限られた経営資源を最適に配分し、ビジネスの競争力強化を図ることができます。
flowchart TD subgraph COMPANY["企業"] CORE["コア・コンピタンス"] end subgraph EXT_RESOURCES["外部資源"] SIER["システムインテグレーター\nSI事業者"] OUTSOURCE["アウトソーシング"] CLOUD["クラウドサービス\nSaaS/ASP/IDC"] SOA["SOA/Webサービス"] PACKAGE["ソフトウェアパッケージ"] OSS["オープンソース\nソフトウェア"] OEM["OEM/ODM"] FABLESS["ファブレス/ファウンドリ"] end SIER -->|システム構築・運用の\n一括請負| COMPANY OUTSOURCE -->|業務の外部委託| COMPANY CLOUD -->|必要な機能の\nサービス提供| COMPANY SOA -->|標準化された\nサービス連携| COMPANY PACKAGE -->|汎用的な機能の\nパッケージ提供| COMPANY OSS -->|無償/低コストの\nソフトウェア| COMPANY OEM -->|製品の設計・製造委託| COMPANY FABLESS -->|製造工程の外部委託| COMPANY classDef company fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:2px; classDef extres fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px; class COMPANY,CORE company; class SIER,OUTSOURCE,CLOUD,SOA,PACKAGE,OSS,OEM,FABLESS extres;
図1: 外部資源活用の概念図
2. 詳細説明
2.1. 外部資源の種類
2.1.1. システムインテグレーター(SIer)とSI事業者
システムインテグレーターとは、顧客の要望に応じてシステムの企画、設計、開発、運用、保守までのライフサイクル全体を一括して請け負う事業者です。SI事業者を活用することで、専門的なスキルや知識を持つ人材を確保できるだけでなく、過去の開発経験から得られたノウハウも活用できます。
- SI事業者は、規模や得意分野によって様々なタイプがあります:
- 大手SIer:幅広い業種・業務に対応し、大規模システムの構築実績がある
- 業種特化型SIer:特定の業種(金融、製造、流通など)に特化したノウハウを持つ
- 技術特化型SIer:特定の技術領域(セキュリティ、モバイル、AIなど)に特化している
2.1.2. アウトソーシング
アウトソーシングとは、企業の業務の一部または全部を外部の専門業者に委託することです。システム開発においては、以下のような形態があります。
- 開発アウトソーシング:プログラミングやテストなどの開発工程を外部委託
- 運用アウトソーシング:システム運用・保守業務を外部委託
- BPO(Business Process Outsourcing):業務プロセス全体を外部委託
アウトソーシングにより、自社のコア業務に集中することができ、固定費の削減も期待できます。
2.1.3. クラウドサービス
クラウドサービスには、以下のような種類があります:
SaaS(Software as a Service):ソフトウェアをインターネット経由でサービスとして提供するモデル。従来のようにパッケージソフトウェアを購入・インストールする必要がなく、月額料金などの形で必要な機能だけを利用できます。例:Salesforce(CRM)、Google Workspace(オフィス)、Microsoft 365(オフィス)など。
ASP(Application Service Provider):SaaSの前身とも言えるサービスで、特定のアプリケーションをインターネット経由で提供します。SaaSとの違いは、SaaSがマルチテナント方式(複数の顧客が同じインスタンスを共有)であるのに対し、ASPは顧客ごとに独立したインスタンスを提供することが多い点です。
IDC(Internet Data Center):サーバーやネットワーク機器を設置・運用するための施設で、高度なセキュリティと安定した電源供給、空調設備などを備えています。自社でサーバーを運用する代わりに、IDCを利用することでインフラ管理の負担を軽減できます。近年ではクラウドコンピューティングの普及により、従来型のIDCからIaaS(Infrastructure as a Service)への移行が進んでいます。
2.1.4. SOAとWebサービス
SOA(Service Oriented Architecture:サービス指向アーキテクチャ)は、ビジネス上の様々な機能をサービスとして定義し、それらを組み合わせてシステムを構築する考え方です。
SOAの特徴は以下の通りです
- サービスの粒度:ビジネス機能に沿った適切な粒度でサービスを定義
- 疎結合:サービス間の依存関係を最小限に抑える
- 標準インターフェース:共通の規格に基づいたインターフェースを使用
- 再利用性:一度定義したサービスを様々なシステムで再利用可能
WebサービスはSOAを実現するための主要な技術の一つであり、異なるプラットフォーム間でデータやサービスを連携させることができます。代表的なWebサービスの実装技術には、SOAP(Simple Object Access Protocol)やREST(Representational State Transfer)などがあります。
SOAにより、既存のシステムを大幅に修正することなく、新しい機能を追加したり、外部サービスと連携したりすることが容易になります。
2.1.5. ソフトウェアパッケージの適用
市販のソフトウェアパッケージを導入することで、一から開発するよりも短期間かつ低コストでシステムを構築できます。パッケージの種類には、以下のようなものがあります:
業務アプリケーションパッケージ:ERP、CRM、SCM、会計システムなど
ミドルウェア:DBMS、アプリケーションサーバー、ETLツールなど
ユーティリティソフトウェア:セキュリティ、バックアップ、監視ツールなど
パッケージ適用の際には、自社の業務にどの程度適合するか(フィット&ギャップ分析)を行い、必要に応じてカスタマイズや業務プロセスの変更を検討します。
2.1.6. オープンソースソフトウェアの適用
オープンソースソフトウェア(OSS)は、ソースコードが公開され、誰でも利用、改変、再配布が可能なソフトウェアです。
主なOSSの例
- OS:Linux、FreeBSDなど
- Web/アプリケーションサーバー:Apache、Nginxなど
- データベース:MySQL、PostgreSQL、MongoDBなど
- 開発フレームワーク:Spring、Laravel、React、Angularなど
- CMS:WordPress、Drupalなど
OSSを活用することで、ライセンス費用を抑えつつ高品質なソフトウェアを利用できるメリットがありますが、適切なサポートの確保や、セキュリティ対策なども考慮する必要があります。
2.1.7. 製造委託(OEM・ODM)
OEM(Original Equipment Manufacturer)は、相手先ブランド製品製造であり、発注元企業のブランドで販売される製品を製造することです。製品の仕様は発注元が決定し、製造のみを委託します。
ODM(Original Design Manufacturer)は、相手先設計製造であり、製品の設計から製造までを一括して請け負うことです。ODMでは委託先が製品設計も担当するため、発注元の負担が少なく、委託先のノウハウも活用できます。
IT分野では、ハードウェア製品だけでなく、ソフトウェア製品でもOEMやODMの形態が見られます。例えば、セキュリティソフトウェアなどでは、他社のエンジンを自社ブランドで販売するOEM方式が一般的です。
2.1.8. ファブレスとファウンドリ
ファブレスとは、自社で製造設備を持たず、設計のみを行い、製造は外部に委託する企業形態です。IT業界では、半導体メーカーなどでこの形態が多く見られます。例えば、米Qualcommや英ARMなどはファブレス企業の代表例です。
ファウンドリは、半導体などの製造を専門に請け負う企業で、設計は行わず製造に特化しています。台湾のTSMCや韓国のSamsungなどがファウンドリの代表的企業です。
システム開発においても、この考え方を応用し、企画・設計は自社で行い、プログラミングなどの製造工程は外部に委託するモデルが採用されることがあります。
%%{init: {'theme': 'base', 'themeVariables': { 'primaryColor': '#f0f8ff', 'primaryTextColor': '#000', 'primaryBorderColor': '#7570b3', 'lineColor': '#7570b3', 'secondaryColor': '#e6e6fa', 'tertiaryColor': '#fff0f5'}}}%% flowchart TD subgraph table[外部資源の種類と特徴比較表] direction LR subgraph header[" "] direction LR resource["外部資源の種類"] --- init_cost["初期コスト"] --- run_cost["運用コスト"] --- period["導入期間"] --- custom["カスタマイズ性"] --- tech["専門性の必要度"] --- depend["ベンダー依存度"] end subgraph data1[" "] direction LR sier["SI事業者"] --- sier_init["高"] --- sier_run["中~高"] --- sier_period["長"] --- sier_custom["高"] --- sier_tech["中"] --- sier_depend["高"] end subgraph data2[" "] direction LR out["アウトソーシング"] --- out_init["中"] --- out_run["中"] --- out_period["中"] --- out_custom["中~高"] --- out_tech["中"] --- out_depend["中~高"] end subgraph data3[" "] direction LR saas["SaaS/ASP"] --- saas_init["低"] --- saas_run["中~高"] --- saas_period["短"] --- saas_custom["低"] --- saas_tech["低"] --- saas_depend["高"] end subgraph data4[" "] direction LR idc["IDC"] --- idc_init["中"] --- idc_run["中~高"] --- idc_period["中"] --- idc_custom["中"] --- idc_tech["中"] --- idc_depend["中"] end subgraph data5[" "] direction LR package["ソフトウェア\nパッケージ"] --- package_init["中~高"] --- package_run["中"] --- package_period["中"] --- package_custom["中"] --- package_tech["中"] --- package_depend["中~高"] end subgraph data6[" "] direction LR oss["オープンソース\nソフトウェア"] --- oss_init["低"] --- oss_run["低~中"] --- oss_period["中"] --- oss_custom["高"] --- oss_tech["高"] --- oss_depend["低"] end subgraph data7[" "] direction LR oem["OEM/ODM"] --- oem_init["中"] --- oem_run["低~中"] --- oem_period["中"] --- oem_custom["中"] --- oem_tech["中"] --- oem_depend["高"] end end classDef header fill:#d1e3f9,stroke:#333,stroke-width:1px; classDef data fill:#f5f5ff,stroke:#333,stroke-width:1px; class header header; class data1,data2,data3,data4,data5,data6,data7 data;
表1: 外部資源の種類と特徴比較表
2.2. 外部資源活用の特徴
2.2.1. 外部資源活用のメリット
- コスト削減:固定費の変動費化、規模の経済の活用
- 専門性の活用:外部の専門知識や技術の活用
- スピード向上:開発期間の短縮、市場投入の早期化
- 柔軟性向上:需要変動への対応力強化
- リスク分散:投資リスクの軽減
- コア業務への集中:自社の強みに経営資源を集中
2.2.2. 外部資源活用のデメリット
- 依存リスク:外部企業への依存度増加、ベンダーロックイン
- コントロール低下:品質や進捗管理の難しさ
- セキュリティリスク:情報漏洩リスクの増加
- コミュニケーションコスト:調整や意思疎通の負担
- 長期的なコスト増:長期間利用による累積コスト増加の可能性
- 技術力低下:自社の技術力やノウハウの蓄積機会の減少
2.3. 外部資源活用の妥当性判断
2.3.1. コスト面での評価
外部資源を活用する際には、単純な初期コストだけでなく、TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト)の観点から評価することが重要です。
評価すべき主なコスト要素
- 初期コスト:導入費用、カスタマイズ費用、教育費用など
- 運用コスト:利用料、保守費用、運用管理費用など
- 間接コスト:管理負担、ベンダー管理コストなど
- 将来コスト:アップグレード費用、移行コスト、拡張コストなど
また、自社開発・運用した場合と外部資源を活用した場合のコスト比較をROI(Return On Investment:投資収益率)やNPV(Net Present Value:正味現在価値)などの指標で評価することも重要です。
2.3.2. 期間面での評価
自社開発と比較して、外部資源を活用することで開発期間を短縮できるかどうかを評価します。特に時間的制約が厳しい場合、既存のパッケージやクラウドサービスの活用が効果的です。
評価ポイント
- 要件定義から本番稼働までの期間
- 市場投入までのリードタイム
- 将来の機能追加・変更に要する期間
2.3.3. 品質・機能面での評価
外部資源が提供する品質や機能が、自社の要件を満たしているかを評価します。カスタマイズの容易さや、将来的な拡張性も重要な判断基準となります。
評価ポイント
- 機能充足度:必須要件をどの程度満たしているか
- パフォーマンス:処理速度、レスポンス時間、同時接続数など
- 信頼性:障害発生率、平均故障間隔(MTBF)など
- セキュリティ:認証・認可機能、暗号化、監査機能など
- 拡張性:将来の要件変更への対応のしやすさ
2.3.4. リスク管理の観点
外部資源に依存することによるリスク(ベンダーロックイン、サービス停止、セキュリティリスクなど)を評価し、それらを軽減するための対策を検討します。
主なリスク要素
- ベンダーリスク:提供企業の財務状況、継続性
- 技術リスク:技術の陳腐化、標準への準拠性
- 契約リスク:SLA(Service Level Agreement)の内容、違反時の補償
- セキュリティリスク:情報漏洩、不正アクセスの可能性
- コンプライアンスリスク:法規制への準拠性
flowchart TD START([外部資源活用の検討開始]) --> Q1{開発期間に\n強い制約があるか} Q1 -->|はい| Q2{予算に\n強い制約があるか} Q1 -->|いいえ| Q3{自社に十分な\n技術力があるか} Q2 -->|はい| Q4{カスタマイズの\n必要性は高いか} Q2 -->|いいえ| Q5{セキュリティ要件は\n特に厳しいか} Q3 -->|はい| Q6{開発リソースに\n余裕があるか} Q3 -->|いいえ| Q7{コア業務に\n関わるシステムか} Q4 -->|はい| OSS[オープンソース\nソフトウェアの活用] Q4 -->|いいえ| SAAS[SaaS/ASPの活用] Q5 -->|はい| PACKAGE[パッケージソフトウェア\n+カスタマイズ] Q5 -->|いいえ| SIER[SI事業者への委託] Q6 -->|はい| INHOUSE[自社開発] Q6 -->|いいえ| OUTSOURCE[開発アウトソーシング] Q7 -->|はい| HYBRID[ハイブリッド\n(自社+外部リソース)] Q7 -->|いいえ| BPO[BPO/完全アウトソース] OSS --> EVAL([評価と検証]) SAAS --> EVAL PACKAGE --> EVAL SIER --> EVAL INHOUSE --> EVAL OUTSOURCE --> EVAL HYBRID --> EVAL BPO --> EVAL EVAL --> DECISION([最終決定]) classDef question fill:#f9f,stroke:#333,stroke-width:1px; classDef solution fill:#bbf,stroke:#333,stroke-width:1px; classDef process fill:#dfd,stroke:#333,stroke-width:1px; class Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6,Q7 question; class OSS,SAAS,PACKAGE,SIER,INHOUSE,OUTSOURCE,HYBRID,BPO solution; class START,EVAL,DECISION process;
図2: 外部資源活用の判断フロー
判断基準 | 評価ポイント | 重要度 |
---|---|---|
コスト | 初期コスト(導入・構築・カスタマイズ費用) | 高 |
運用コスト(利用料・保守料・管理費用) | 高 | |
TCO(Total Cost of Ownership:総所有コスト) | 高 | |
ROI(Return On Investment:投資収益率) | 中 | |
期間 | 要件定義から本番稼働までの期間 | 高 |
市場投入までのリードタイム | 中 | |
将来の機能追加・変更に要する期間 | 中 | |
品質・機能 | 機能充足度(必須要件の充足率) | 高 |
パフォーマンス(処理速度・応答時間) | 中 | |
信頼性(障害発生率・平均故障間隔) | 高 | |
セキュリティ機能(認証・暗号化) | 高 | |
拡張性(将来の要件変更への対応) | 中 | |
リスク | ベンダーリスク(提供企業の継続性) | 高 |
技術リスク(技術の陳腐化・標準準拠性) | 中 | |
契約リスク(SLAの内容・違反時の補償) | 中 | |
セキュリティリスク(情報漏洩・不正アクセス) | 高 | |
コンプライアンスリスク(法規制への準拠性) | 高 |
表2: 外部資源活用の判断基準と評価ポイント
3. 応用例
3.1. 中小企業におけるSaaS活用事例
人事・給与システムを自社開発する代わりに、クラウド型のSaaS人事給与サービスを利用することで、初期コストを抑えつつ、法改正にも迅速に対応できるシステムを導入した中小企業の例があります。自社での保守・運用の負担も軽減され、人事部門は本来の業務に集中できるようになりました。
具体的には、月額制のSaaS型人事給与システムを採用することで、初期投資を数百万円から数十万円に抑制し、年間運用コストも従来の自社運用時の約60%に削減できました。また、定期的なバージョンアップにより常に最新の法改正に対応できるため、自社でのメンテナンス負担も大幅に軽減されました。
3.2. 製造業におけるSI事業者活用事例
製造業の企業が、生産管理システムの刷新プロジェクトにおいて、業界特化型のSI事業者を活用した事例です。SI事業者の業界知識とノウハウを活かし、短期間で効率的なシステム構築に成功しました。また、システム導入後も継続的な改善提案を受けることで、長期的な競争力強化につながっています。
このプロジェクトでは、SI事業者が持つ製造業向けテンプレートを活用することで、要件定義期間を当初予定の半分に短縮。さらに、同業他社の導入事例に基づくベストプラクティスを取り入れることで、業務プロセス自体の改善も実現しました。結果として、生産リードタイムが約30%短縮し、在庫回転率が1.5倍に向上しました。
3.3. 金融機関におけるIDC活用事例
金融機関が、高い可用性と堅牢なセキュリティが求められる基幹システムのホスティングにIDCを活用した事例です。災害対策も含めた専門的な施設管理をIDC事業者に委託することで、自社での設備投資を抑えつつ、安定したシステム運用を実現しています。
具体的には、メインサイトと地理的に離れた場所にあるバックアップサイトの2拠点のIDCを利用し、データセンター間の専用線接続によるリアルタイムデータ同期を実現。これにより、99.999%の可用性(年間停止時間5.26分以内)を確保しています。自社でこのレベルの設備を構築・運用する場合と比較して、5年間のTCOで約40%のコスト削減を達成しました。
3.4. Webサービス企業におけるOSS活用事例
新興のWebサービス企業が、サービス立ち上げ時にオープンソースソフトウェアを積極的に活用した事例です。限られた開発リソースと予算の中で、OSSを活用することで短期間でのサービス開発を実現し、その後の成長に合わせて段階的に独自開発への移行を行っています。
この企業では、WebアプリケーションのフレームワークとしてRuby on Rails、データベースとしてPostgreSQL、検索エンジンとしてElasticsearchなどのOSSを採用。これらの組み合わせにより、商用ソフトウェアを購入した場合と比較して初期コストを約80%削減できました。また、開発者コミュニティからの情報やナレッジを活用することで、技術的な問題解決も効率的に行うことができました。
3.5. メーカーにおけるODM活用事例
家電メーカーが、IoT機器の開発においてODM方式を採用した事例です。ハードウェア設計から製造、基本ソフトウェアの開発までをODM企業に委託し、自社はブランディングとマーケティング、および独自サービスの開発に注力することで、短期間での市場投入を実現しています。
従来の自社開発方式では企画から市場投入まで約18ヶ月かかっていたプロセスを、ODM方式の採用により約8ヶ月に短縮。また、ODM企業の量産効果により、製造コストも当初見積もりから約25%削減できました。自社リソースをクラウドサービスやスマートフォンアプリなどの周辺サービス開発に集中投下できたことで、ハードウェアと連携した独自の付加価値サービスを提供し、競合他社との差別化に成功しています。
4. 例題
例題1
A社は中規模の製造業企業で、老朽化した販売管理システムの刷新を検討しています。以下の選択肢の中から、外部資源活用の観点で最も適切な選択肢を選び、その理由を説明してください。
- 自社の情報システム部門で一から開発する
- パッケージソフトウェアを導入し、必要に応じてカスタマイズする
- SaaSの販売管理システムを利用する
- システムインテグレーターに一括委託する
最適な選択肢は「b. パッケージソフトウェアを導入し、必要に応じてカスタマイズする」です。
理由:製造業の販売管理は業界特有の要件がある可能性が高く、汎用的なSaaSでは対応しきれない部分があるかもしれません。かといって、一から開発すると時間とコストがかかりすぎます。パッケージを基盤としつつ、A社特有の要件に合わせてカスタマイズするアプローチが、コスト・期間・機能面でバランスが取れています。システムインテグレーターへの一括委託も選択肢ですが、自社の要件定義能力があれば、パッケージ導入の方がコスト効率が良い場合が多いです。
例題2
ある企業がシステム刷新プロジェクトにおいて、SOA(Service Oriented Architecture)を採用し、複数の外部資源を組み合わせたシステム構築を計画しています。この状況に関する以下の設問に答えてください。
この企業がSOAを採用する主なメリットを2つ説明してください。
SOAに基づくシステム構築において、OSSとSaaSをそれぞれどのように活用するべきかを具体例を挙げて説明してください。
システム安定稼働のために、外部資源を活用する際のリスク管理として最も重要な対策を2つ挙げ、その理由を述べてください。
SOA採用の主なメリット:
柔軟性と拡張性の向上:業務機能をサービス単位でモジュール化するため、一部の機能だけを変更・追加することが容易になります。また、新たなビジネス要件に応じて、既存サービスを再構成することで迅速に対応できます。
再利用性と相互運用性の向上:標準化されたインターフェースを通じてサービスを提供するため、様々なシステムやプラットフォームから利用可能になります。また、一度開発したサービスを他のシステムでも再利用できるため、開発効率が向上します。
OSSとSaaSの活用方法:
OSSの活用:システムの基盤となるミドルウェア層(アプリケーションサーバー、メッセージキューイングシステム、ESBなど)にOSSを活用するべきです。例えば、Apache ServiceMixやMule ESBなどのオープンソースESB(Enterprise Service Bus)を採用することで、低コストでサービス間の連携基盤を構築できます。また、サービスレジストリにはJBoss jUDDIなどのOSSを活用できます。
SaaSの活用:コア業務に直接関わらない周辺機能や、業界標準的な業務プロセスを持つ機能にSaaSを活用するべきです。例えば、CRM機能にSalesforce、人事給与機能にWorkdayなどのSaaSを採用し、それらのAPIを通じて社内の基幹システムと連携させることで、開発・運用コストを削減しつつ高品質なサービスを提供できます。
重要なリスク管理対策:
サービスレベル管理(SLM)とSLAの締結:外部資源に依存する部分については、明確なサービスレベル目標を設定し、提供事業者とSLA(Service Level Agreement)を締結することが重要です。特に可用性、性能、障害時の対応時間などの指標を明確にし、違反時のペナルティも規定しておくべきです。理由は、SOAにおいては各サービスの品質がシステム全体の品質に直結するため、外部サービスの品質管理が特に重要になるからです。
マルチベンダー環境のガバナンス体制構築:複数の外部資源を組み合わせる場合、障害発生時の切り分けや責任範囲の明確化が難しくなります。そのため、全体を統括するガバナンス体制を構築し、定期的な報告会や統一された監視・管理ツールの導入などを行うべきです。理由は、複数ベンダー間の「責任のたらい回し」を防ぎ、迅速な問題解決を可能にするためです。
例題3
あるスタートアップ企業が新規Webサービスを開発するにあたり、限られた予算と人員で迅速にサービスを立ち上げる必要があります。以下の外部資源活用の組み合わせのうち、最も適切なものを選び、その理由を説明してください。
- 自社でインフラを構築し、オフショア開発会社にプログラミングを委託
- パブリッククラウド(IaaS)を利用し、自社でアプリケーション開発
- パブリッククラウド(PaaS)を利用し、国内のSI事業者に開発委託
- SaaSとオープンソースソフトウェアを組み合わせ、必要な部分のみ自社開発
最適な選択肢は「d. SaaSとオープンソースソフトウェアを組み合わせ、必要な部分のみ自社開発」です。
理由:スタートアップ企業の限られた予算と人員という制約の中で最も効率的にサービスを立ち上げるには、既存のSaaSやOSSを最大限活用し、自社の独自性を出す部分のみを自社開発するアプローチが適しています。
SaaSを活用することで、認証、決済、分析などの共通機能を低コストかつ短期間で導入できます。例えば、Auth0やOktaなどの認証サービス、StripeやPayPalなどの決済サービス、Google AnalyticsやMixpanelなどの分析サービスを活用できます。
また、OSSを活用することで、ライセンスコストをかけずにWebアプリケーションフレームワークやデータベースなどの基盤技術を導入できます。例えば、Ruby on RailsやLaravelなどのWebフレームワーク、MySQLやMongoDBなどのデータベース、Redisなどのキャッシュシステムなどを組み合わせることができます。
これらの既存リソースを組み合わせ、スタートアップの差別化ポイントとなる独自機能のみを自社開発することで、最小限の投資で迅速にサービスを立ち上げることができます。また、利用料金が従量制のSaaSが多いため、サービス成長に合わせて段階的にコストを拡大できる点も、スタートアップにとって大きなメリットとなります。
5. まとめ
システム開発における外部資源の利用は、自社の限られたリソースを補完し、効率的かつ効果的なシステム構築を実現するための重要な戦略です。外部資源としては、システムインテグレーター、ASP・SaaSなどのクラウドサービス、IDC、パッケージソフトウェア、オープンソースソフトウェア、OEM・ODM、ファブレス・ファウンドリなど、多様な選択肢があります。
外部資源の活用判断においては、コスト、期間、品質・機能、リスクなどの観点から総合的に評価することが重要です。また、自社のコア・コンピタンスに集中するという経営戦略の一環として位置づけることも大切です。
効果的な外部資源の活用により、自社だけでは実現困難な技術やサービスを取り入れることができ、ビジネスの競争力強化、市場投入時間の短縮、コスト削減などの効果が期待できます。一方で、依存度が高まることによるリスクも認識し、適切なガバナンスとリスク管理を行うことも忘れてはなりません。
外部資源活用の成功のためには、明確な目的設定、適切な外部資源の選定、綿密な計画立案、効果的なベンダー管理、継続的な評価・改善のサイクルが不可欠です。自社のビジネス戦略に沿った外部資源活用戦略を策定し、実行することで、ITシステムを経営戦略実現の強力な武器とすることができるでしょう。