目的と用語例
コストの対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。
類推見積り,パラメトリック見積り,三点見積り,ボトムアップ見積り,予備設定分析, ファンクションポイント法, LOC ( Lines of Code ) 法, COCOMO( Constructive Cost Model ), COCOMOⅡ( Constructive Cost ModelⅡ), EVM(Earned Value Management),アーンドスケジュール(ES)理論,コストベースライン,コンティンジェンシー予備,マネジメント予備
1. 概要
1.1. 基本的な説明
プロジェクトのコスト管理は、プロジェクトを成功に導くための重要な要素です。コストの見積り、予算策定、支出のコントロールを適切に行うことで、プロジェクトの目標達成と経済的な成功を実現します。
1.2. 重要性
コスト管理の失敗は、プロジェクトの失敗に直結する可能性があります。適切なツールと技法を活用することで、以下の利点が得られます:
- 正確なコスト見積りによる現実的な予算策定
- 効果的な予算管理と支出のコントロール
- プロジェクトの財務的健全性の維持
- ステークホルダーとの信頼関係の構築
2. 詳細説明
2.1. コスト見積り手法
2.1.1. 類推見積り
過去の類似プロジェクトの実績データを基に、現在のプロジェクトのコストを見積もる手法です。
- 特徴:簡便で早い
- 適用場面:初期の概算見積り時
- 課題:主観性が高く、類似性の判断が難しい場合がある
2.1.2. パラメトリック見積り
統計的な関係性を用いて、パラメータとコストの相関関係から見積もりを行う手法です。
- 特徴:客観的で精度が高い
- 適用場面:十分なデータが存在する場合
- 課題:データの信頼性やパラメータ選定の妥当性に依存
2.1.3. 三点見積り
最悪値(P)、最頻値(M)、最良値(O)の3つの見積値を用いる手法です。
- 期待値 = (P + 4M + O) ÷ 6
- 標準偏差 = (P – O) ÷ 6
- 図1に具体例(数値と計算過程)を示します。
図1:三点見積法の具体例(計算過程)
2.1.4. ボトムアップ見積り
作業を細分化し、各作業のコストを積み上げて全体を見積もる手法です。
- 特徴:詳細で精度が高い
- 適用場面:プロジェクト計画が十分に細分化されている場合
- 課題:時間と労力がかかる
2.2. ソフトウェア開発特有の見積り手法
2.2.1. ファンクションポイント法
ソフトウェアの機能量を基準として工数を見積もる手法です。
- 入力機能、出力機能、照会機能、内部ファイル、外部インタフェースの5要素を評価
- 機能量をもとに工数とコストを算出
- 図2に機能要素の評価例を示します。
図2:ファンクションポイント法の機能要素評価例
2.2.2. LOC法
ソースコードの行数(Lines of Code)を基準として工数を見積もる手法です。
- 特徴:単純で理解しやすい
- 課題:言語による差異が大きい
2.2.3. COCOMO / COCOMOⅡ
ソフトウェア開発の工数見積りモデルです。
- COCOMO:基本モデル、中間モデル、詳細モデルの3種類
- COCOMOⅡ:COCOMOを現代的な開発手法に対応させた改良版
2.3. プロジェクト進捗管理手法
2.3.1. EVM(Earned Value Management)
プロジェクトの進捗を「出来高」という観点から測定・評価する手法です。
- PV(計画値):計画上の予定コスト
- EV(出来高):実際の作業進捗を金額換算した値
- AC(実コスト):実際にかかったコスト
- 図3にEVMの進捗管理例を示します。
図3:EVMの進捗管理例
2.3.2. アーンドスケジュール理論
EVMを時間管理に応用した手法です。
- スケジュール効率性の測定が可能
- 完了予測時期の算出に活用
2.4. コスト管理における予備
2.4.1. コストベースライン
承認された期間別のプロジェクトコスト見積りです。
- 進捗測定の基準として使用
- 変更管理の基準点として機能
2.4.2. コンティンジェンシー予備
特定のリスクに対応するための予備費用です。
- リスク対応策の一部として計画
- プロジェクト範囲内での使用
2.4.3. マネジメント予備
未特定のリスクに対応するための予備費用です。
- プロジェクト範囲外の事象に対応
- 上位管理者の承認が必要
3. 応用例
3.1. システム開発プロジェクトでの応用
システム開発プロジェクトでは、以下のように各手法を組み合わせて使用します:
- 企画段階:類推見積りとパラメトリック見積り
- 要件定義段階:ファンクションポイント法
- 設計段階:LOC法とCOCOMOⅡ
- 開発段階:EVMによる進捗管理
3.2. 建設プロジェクトでの応用
建設プロジェクトでは、以下のような適用が一般的です:
- 計画段階:三点見積りとボトムアップ見積り
- 実行段階:EVMとアーンドスケジュール理論
- 予備費管理:コンティンジェンシー予備とマネジメント予備の使い分け
4. 例題
例題1
問題:
あるソフトウェア開発プロジェクトで、以下の3つの見積値が得られました。
- 最悪値(P):1000万円
- 最頻値(M):800万円
- 最良値(O):700万円
三点見積法を用いて、期待値と標準偏差を求めてください。
- 期待値の計算
- 期待値 = (P + 4M + O) ÷ 6
- = (1000 + 4×800 + 700) ÷ 6
- = (1000 + 3200 + 700) ÷ 6
- = 4900 ÷ 6
- = 816.67万円
- 標準偏差の計算
- 標準偏差 = (P – O) ÷ 6
- = (1000 – 700) ÷ 6
- = 300 ÷ 6
- = 50万円
図4:三点見積法の計算視覚化
例題2
問題:
プロジェクトの進捗管理において、以下の値が得られています。
- PV(計画値):1000万円
- EV(出来高):800万円
- AC(実コスト):900万円
コスト効率(CPI)とスケジュール効率(SPI)を求めてください。
- コスト効率(CPI)の計算
- CPI = EV ÷ AC
- = 800 ÷ 900
- = 0.89
→ コストが計画より超過していることを示す
- スケジュール効率(SPI)の計算
- SPI = EV ÷ PV
- = 800 ÷ 1000
- = 0.80
→ スケジュールが遅れていることを示す
図5:EVMの進捗指標(CPI、SPI)の解釈と分析
5. まとめ
プロジェクトのコスト管理において、適切なツールと技法の選択と活用は不可欠です。主要なポイントは以下の通りです:
- コスト見積り手法の適切な選択
- プロジェクトの特性や段階に応じた手法の使い分け
- 複数の手法を組み合わせた精度の向上
- 進捗管理の重要性
- EVMによる定量的な進捗管理
- アーンドスケジュール理論の活用
- 予備費の適切な管理
- コンティンジェンシー予備とマネジメント予備の使い分け
- コストベースラインの適切な設定と管理
- 継続的なモニタリングと制御
- 定期的な進捗確認と評価
- 必要に応じた是正措置の実施