7.3. ツールと技法

目的と用語例

コストの対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。

用語例

類推見積り,パラメトリック見積り,三点見積り,ボトムアップ見積り,予備設定分析, ファンクションポイント法, LOC ( Lines of Code ) 法, COCOMO( Constructive Cost Model ), COCOMOⅡ( Constructive Cost ModelⅡ), EVM(Earned Value Management),アーンドスケジュール(ES)理論,コストベースライン,コンティンジェンシー予備,マネジメント予備

1. 概要

1.1. 基本的な説明

 プロジェクトのコスト管理は、プロジェクトを成功に導くための重要な要素です。コストの見積り、予算策定、支出のコントロールを適切に行うことで、プロジェクトの目標達成と経済的な成功を実現します。

1.2. 重要性

 コスト管理の失敗は、プロジェクトの失敗に直結する可能性があります。適切なツールと技法を活用することで、以下の利点が得られます:

  • 正確なコスト見積りによる現実的な予算策定
  • 効果的な予算管理と支出のコントロール
  • プロジェクトの財務的健全性の維持
  • ステークホルダーとの信頼関係の構築

2. 詳細説明

2.1. コスト見積り手法

2.1.1. 類推見積り

 過去の類似プロジェクトの実績データを基に、現在のプロジェクトのコストを見積もる手法です。

  • 特徴:簡便で早い
  • 適用場面:初期の概算見積り時
  • 課題:主観性が高く、類似性の判断が難しい場合がある

2.1.2. パラメトリック見積り

 統計的な関係性を用いて、パラメータとコストの相関関係から見積もりを行う手法です。

  • 特徴:客観的で精度が高い
  • 適用場面:十分なデータが存在する場合
  • 課題:データの信頼性やパラメータ選定の妥当性に依存

2.1.3. 三点見積り

 最悪値(P)、最頻値(M)、最良値(O)の3つの見積値を用いる手法です。

  • 期待値 = (P + 4M + O) ÷ 6
  • 標準偏差 = (P – O) ÷ 6
  • 図1に具体例(数値と計算過程)を示します。

標準偏差の計算

期待値の計算

入力値

最悪値\nP = 1000万円

最頻値\nM = 800万円

最良値\nO = 700万円

P + 4M + O

1000 + 3200 + 700

4900 ÷ 6

期待値 = 816.67万円

P - O

1000 - 700

300 ÷ 6

標準偏差 = 50万円

図1:三点見積法の具体例(計算過程)

2.1.4. ボトムアップ見積り

 作業を細分化し、各作業のコストを積み上げて全体を見積もる手法です。

  • 特徴:詳細で精度が高い
  • 適用場面:プロジェクト計画が十分に細分化されている場合
  • 課題:時間と労力がかかる

2.2. ソフトウェア開発特有の見積り手法

2.2.1. ファンクションポイント法

 ソフトウェアの機能量を基準として工数を見積もる手法です。

  • 入力機能、出力機能、照会機能、内部ファイル、外部インタフェースの5要素を評価
  • 機能量をもとに工数とコストを算出
  • 図2に機能要素の評価例を示します。

評価例

機能要素の種類と複雑度による重み付け

トランザクションファンクション

データファンクション

ファンクションポイント評価

内部ファイル\n低:7 中:10 高:15

外部インタフェース\n低:5 中:7 高:10

外部入力\n低:3 中:4 高:6

外部出力\n低:4 中:5 高:7

外部照会\n低:3 中:4 高:6

総FP = Σ(個数 × 重み)

調整係数による補正

最終FP = 総FP × 調整係数

図2:ファンクションポイント法の機能要素評価例

2.2.2. LOC法

 ソースコードの行数(Lines of Code)を基準として工数を見積もる手法です。

  • 特徴:単純で理解しやすい
  • 課題:言語による差異が大きい

2.2.3. COCOMO / COCOMOⅡ

 ソフトウェア開発の工数見積りモデルです。

  • COCOMO:基本モデル、中間モデル、詳細モデルの3種類
  • COCOMOⅡ:COCOMOを現代的な開発手法に対応させた改良版

2.3. プロジェクト進捗管理手法

2.3.1. EVM(Earned Value Management)

 プロジェクトの進捗を「出来高」という観点から測定・評価する手法です。

  • PV(計画値):計画上の予定コスト
  • EV(出来高):実際の作業進捗を金額換算した値
  • AC(実コスト):実際にかかったコスト
  • 図3にEVMの進捗管理例を示します。

図3:EVMの進捗管理例

2.3.2. アーンドスケジュール理論

 EVMを時間管理に応用した手法です。

  • スケジュール効率性の測定が可能
  • 完了予測時期の算出に活用

2.4. コスト管理における予備

2.4.1. コストベースライン

 承認された期間別のプロジェクトコスト見積りです。

  • 進捗測定の基準として使用
  • 変更管理の基準点として機能

2.4.2. コンティンジェンシー予備

 特定のリスクに対応するための予備費用です。

  • リスク対応策の一部として計画
  • プロジェクト範囲内での使用

2.4.3. マネジメント予備

 未特定のリスクに対応するための予備費用です。

  • プロジェクト範囲外の事象に対応
  • 上位管理者の承認が必要

3. 応用例

3.1. システム開発プロジェクトでの応用

 システム開発プロジェクトでは、以下のように各手法を組み合わせて使用します:

  1. 企画段階:類推見積りとパラメトリック見積り
  2. 要件定義段階:ファンクションポイント法
  3. 設計段階:LOC法とCOCOMOⅡ
  4. 開発段階:EVMによる進捗管理

3.2. 建設プロジェクトでの応用

 建設プロジェクトでは、以下のような適用が一般的です:

  1. 計画段階:三点見積りとボトムアップ見積り
  2. 実行段階:EVMとアーンドスケジュール理論
  3. 予備費管理:コンティンジェンシー予備とマネジメント予備の使い分け

4. 例題

例題1

問題:
 あるソフトウェア開発プロジェクトで、以下の3つの見積値が得られました。

  • 最悪値(P):1000万円
  • 最頻値(M):800万円
  • 最良値(O):700万円

 三点見積法を用いて、期待値と標準偏差を求めてください。

  1. 期待値の計算
    • 期待値 = (P + 4M + O) ÷ 6
    • = (1000 + 4×800 + 700) ÷ 6
    • = (1000 + 3200 + 700) ÷ 6
    • = 4900 ÷ 6
    • = 816.67万円
  2. 標準偏差の計算
    • 標準偏差 = (P – O) ÷ 6
    • = (1000 – 700) ÷ 6
    • = 300 ÷ 6
    • = 50万円

図4:三点見積法の計算視覚化

例題2

問題:
 プロジェクトの進捗管理において、以下の値が得られています。

  • PV(計画値):1000万円
  • EV(出来高):800万円
  • AC(実コスト):900万円

 コスト効率(CPI)とスケジュール効率(SPI)を求めてください。

  1. コスト効率(CPI)の計算
    • CPI = EV ÷ AC
    • = 800 ÷ 900
    • = 0.89
      → コストが計画より超過していることを示す
  2. スケジュール効率(SPI)の計算
    • SPI = EV ÷ PV
    • = 800 ÷ 1000
    • = 0.80
      → スケジュールが遅れていることを示す

プロジェクト状況

スケジュール効率指標SPI

コスト効率指標CPI

現状値

PV = 1000万円

EV = 800万円

AC = 900万円

CPI = EV ÷ AC
= 800 ÷ 900
= 0.89

解釈:
CPI < 1.0
コスト超過

SPI = EV ÷ PV
= 800 ÷ 1000
= 0.80

解釈:
SPI < 1.0
進捗遅延

プロジェクト状況
コスト超過
且つ
進捗遅延

必要な対策
コスト効率の改善
スケジュールの挽回
原因分析と是正措置

図5:EVMの進捗指標(CPI、SPI)の解釈と分析

5. まとめ

 プロジェクトのコスト管理において、適切なツールと技法の選択と活用は不可欠です。主要なポイントは以下の通りです:

  1. コスト見積り手法の適切な選択
    • プロジェクトの特性や段階に応じた手法の使い分け
    • 複数の手法を組み合わせた精度の向上
  2. 進捗管理の重要性
    • EVMによる定量的な進捗管理
    • アーンドスケジュール理論の活用
  3. 予備費の適切な管理
    • コンティンジェンシー予備とマネジメント予備の使い分け
    • コストベースラインの適切な設定と管理
  4. 継続的なモニタリングと制御
    • 定期的な進捗確認と評価
    • 必要に応じた是正措置の実施