5.4.1. システム及び/又はソフトウェアの導入計画の作成

1. 概要

 システム及び/又はソフトウェアの導入計画の作成は、新しいシステムやソフトウェアを実環境に導入する際に不可欠なプロセスです。この計画は、導入の成功を確実にし、潜在的なリスクを最小限に抑えるために重要な役割を果たします。導入計画には、導入要件、移行要件、スケジュール、体制、データ保全や業務への影響などの留意事項が含まれます。

 本記事では、導入計画の作成プロセス、主要な考慮事項、および実際の応用例について詳しく説明します。

2. 導入計画の作成プロセス

2.1 導入計画の主要要素

2.1.1. 導入要件

 導入要件は、新システムの導入に必要な条件や制約を明確にします。以下の点を具体的に検討します:

  • ハードウェア要件:システムの動作に必要なサーバー、ネットワーク機器などのスペック。
  • ソフトウェア要件:導入するソフトウェアが他のシステムとどのように連携するか、互換性のあるバージョンやライセンスの確認。
  • ネットワーク要件:新システムがネットワークに与える負荷、必要な帯域幅、セキュリティ。
  • セキュリティ要件:システムが満たすべきセキュリティ基準(暗号化、アクセス制限など)。
  • ユーザートレーニング要件:新システムを使いこなすために必要なトレーニング内容やスケジュール。

2.1.2. 移行要件

 移行要件は、既存システムから新システムへの移行に必要な詳細な手順を定義します:

  • プロセス及びデータの移行手順:既存システムから新システムへ、業務プロセスやデータをどのように移行するか。
  • 移行保守の取組方法及びスケジュール:移行期間中の保守体制、問題発生時の対応スケジュール。
  • データ変換や整合性確認の方法:データの形式変換や、移行後のデータが正確に移行されたことを確認するプロセス。

2.1.3. 導入可否判断基準

 導入の各段階で、次のフェーズに進むかどうかを判断するための基準を設定します:

  • 性能テスト結果:新システムが要求される処理速度や同時接続数を満たしているかを評価します。
項目 基準値 実際の結果 合否
CPU使用率 80%以下 75% 合格
メモリ使用率 70%以下 68% 合格
レスポンスタイム 500ms以下 450ms 合格
同時接続数 100ユーザー以上 120ユーザー 合格
エラーレート 1%未満 0.8% 合格

表1:性能テストの結果の表

  • ユーザー受け入れテスト結果:システムがエンドユーザーに受け入れられるかどうか、操作性や機能に関して問題がないかを判断します。
  • セキュリティ監査結果:セキュリティ要件が満たされていることを確認するための監査結果。

2.1.4. インストール計画

 システムやソフトウェアのインストールに関する手順を詳細に記述します:

  • インストール手順のステップバイステップガイド:具体的な手順や注意点を、必要なツールと共に記述します。
  • インストール時の注意点:他のシステムとの競合や設定ミスを防ぐためのガイドラインを記載します。
flowchart TD
    A[インストール準備] --> B[必要なリソースの確認]
    B --> C[インストールファイルのダウンロード]
    C --> D[インストール環境の確認]
    D --> E[インストール開始]
    E --> F[インストール設定の選択]
    F --> G[インストール実行]
    G --> H[インストール完了]
    H --> I[システム再起動]
    I --> J[動作確認]
    J --> K[インストール完了報告]

図1:インストール手順のフローチャート

2.2. 導入方法の選択

 システム導入には複数の方法があります。それぞれの方法にはメリットとデメリットが存在し、選択はシステムの規模や業務への影響に応じて行われます。

2.2.1. 一斉移行

 全てのユーザーや部門が同時に新システムに移行する方法です:

  • メリット:移行期間が短く、旧システムの維持コストを削減できます。
  • デメリット:リスクが高く、移行に失敗すると業務全体に大きな影響を与える可能性があります。

2.2.2. 段階移行

 ユーザーや部門ごとに段階的に新システムに移行する方法です:

  • メリット:リスクを分散でき、移行に伴う問題の影響範囲を限定できます。
  • デメリット:移行期間が長くなり、旧システムの維持コストがかかります。

2.2.3. 並行稼働

 新旧システムを一定期間並行して運用する方法です:

  • メリット:新システムの信頼性を確認でき、万が一のトラブル時には旧システムをバックアップとして使用できます。
  • デメリット:運用コストが高く、データの二重入力などユーザーの負担が増加します。
項目 メリット デメリット
信頼性 新システムの信頼性を実運用環境で確認できる システム間でデータ整合性を保つのが難しい
リスク管理 旧システムでのバックアップが可能で、問題発生時にすぐに戻せる 並行稼働期間が長引くほどリスクが複雑化する
コスト システム障害時のダウンタイムを削減できる 両システムを同時に運用するため、コストが高くなる
ユーザーの負担 ユーザーが新システムに徐々に慣れることができる ユーザーが新旧システムを併用する必要があり、作業が増加する
運用の複雑さ 移行期間中でも業務を継続できる 運用管理が複雑になり、二重管理が発生する

表2:並行稼働の比較表

2.3. 導入作業の主要ステップ

 導入作業は、以下のステップで進められます:

  1. 導入準備:環境整備や必要なリソースの確保。
  2. インストール:システムやソフトウェアのインストール手順を遂行。
  3. 初期設定:システムの基本設定とカスタマイズを行います。
  4. データ移行:旧システムからのデータ移行と整合性の確認を行います。
  5. テスト:機能テスト、性能テスト、ユーザー受け入れテストを実施し、最終確認を行います。
  6. ユーザートレーニング:新システムの操作方法を教育します。
  7. 本番稼働:実環境での運用を開始します。
  8. 移行後の支援:初期段階の問題解決やパフォーマンス監視を行います。
flowchart TD
    A[導入準備] --> B[リソースの確保]
    B --> C[インストールの実行]
    C --> D[初期設定の実施]
    D --> E[データ移行]
    E --> F[機能テストと性能テスト]
    F --> G[ユーザー受け入れテスト]
    G --> H[ユーザートレーニング]
    H --> I[本番稼働]
    I --> J[移行後の支援]
    J --> K[最終確認と完了報告]

図2:導入作業ステップのフーチャート

2.4. 導入計画の文書化

 導入計画は以下の要素を含む文書として作成されます:

  • プロジェクト概要と目的:システム導入の背景と目的を明記します。
  • スコープと制約:プロジェクトの範囲と技術的、時間的制約を定義します。
  • 導入スケジュール:各段階のスケジュールを詳細に記述します。
  • リソース配分と役割分担:導入に必要なリソースや責任分担を明確にします。
  • リスク評価と対策:リスクの特定とその軽減策を記載します。
  • コミュニケーション計画:関係者間の情報共有方法を記載します。
  • 品質管理計画:システムの品質基準とその管理方法を明確にします。
  • 予算:導入に必要な予算とその配分を明記します。

導入計画文書

1. プロジェクト概要と目的

システムまたはソフトウェア導入の背景、導入の目的を簡潔に記述します。
例: 本プロジェクトは、現在使用中の〇〇システムを新しい〇〇ソフトウェアに置き換えることを目的としています。

2. スコープと制約

プロジェクトの範囲や、時間的・技術的な制約を記述します。
例: この導入計画は、全社にわたるERPシステムの導入を対象とし、全社員が新システムに移行することを目指しています。
制約には予算やリソース不足などが含まれます。

3. 導入スケジュール

各作業フェーズのスケジュールを記載します。
例:

  • 導入準備: 2024年10月1日〜2024年10月15日
  • インストール: 2024年10月16日〜2024年10月20日
  • テスト: 2024年10月21日〜2024年10月25日
  • 本番稼働: 2024年10月26日

4. リソース配分と役割分担

導入プロジェクトに関与するチームメンバーや外部ベンダーの役割を記載します。
例:

  • プロジェクトマネージャー: 〇〇氏(総責任者)
  • テクニカルリード: 〇〇氏(技術的サポート担当)
  • ベンダー: 〇〇社(システム提供者)

5. リスク評価と対策

導入に伴うリスクを評価し、その軽減策を示します。
例:

  • リスク: 移行期間中のシステム障害
  • 対策: 並行稼働期間を設け、旧システムでのバックアップ体制を維持

6. コミュニケーション計画

プロジェクトメンバー間および利害関係者とのコミュニケーション方法を記述します。
例: 毎週月曜日に進捗会議を実施し、報告書は共有フォルダに保存します。

7. 品質管理計画

導入されるシステムやソフトウェアの品質基準とその管理方法を記載します。
例: 全ての機能が期待通り動作することを確認するために、受け入れテストを実施します。品質基準は〇〇のパフォーマンス指標を使用します。

8. 導入後のサポート計画

導入完了後のサポートやメンテナンス計画を記載します。
例: 導入後1ヶ月間は、技術サポートを提供し、初期の問題を解決します。メンテナンススケジュールも定期的に見直します。

9. 予算

導入プロジェクトに必要な費用を記載します。
例:

  • ハードウェア費用: ¥500,000
  • ソフトウェアライセンス: ¥300,000
  • 技術サポート費用: ¥200,000
  • 合計: ¥1,000,000

表3:導入計画文書のテンプレート例

3. 応用例

3.1. 企業の基幹システム更新

 大規模な製造業企業が、老朽化した基幹システムを最新のクラウドベースのERPシステムに更新する場合、次のアプローチが取られます:

  • 段階移行:各部門(財務、人事、生産管理など)ごとに順次移行し、リスクを分散します。
  • 移行リハーサル:データの整合性を確認するために、移行リハーサルを実施します。
  • 並行稼働:新旧システムの整合性を一定期間確認し、並行稼働でリスクを最小化します。

3.2. 小売チェーンのPOSシステム更新

 全国展開する小売チェーンが、新しいPOSシステムを導入する場合:

  • 段階的リプレース:地域ごとに段階的にリプレースを進めます。
  • 営業時間外の作業:夜間や営業時間外を利用したインストール作業を実施します。
  • トレーニング:スタッフへの段階的なトレーニングを行います。

3.3. 医療機関の電子カルテシステム導入

 中規模病院が紙のカルテから電子カルテシステムに移行する場合:

  • 段階的導入:診療科ごとに段階的に導入し、業務への影響を最小限に抑えます。
  • 並行稼働:紙カルテと電子カルテを一定期間併用して、移行リスクを分散します。

4. 例題

例題1

問題:システム導入計画における「並行稼働」の主なメリットとデメリットを説明してください。

回答例:

  • メリット
  1. 新システムの信頼性を実環境で確認できる
  2. 問題発生時に旧システムでバックアップが可能
  3. ユーザーが徐々に新システムに慣れることができる
  • デメリット
  1. 両システムの運用コストが発生し、総コストが増加する
  2. ユーザーの作業負担が増加する(データの二重入力など)
  3. 並行期間中のデータ整合性維持が複雑になる

例題2

問題:新しい人事管理システムの導入計画を作成する際に考慮すべき「移行要件」の具体例を3つ挙げてください。

回答例:

  1. 従業員データの移行プロセス:現行システムから新システムへの個人情報、雇用履歴、給与情報等の正確な移行手順。
  2. 給与計算プロセスの移行スケジュール:新旧システムでの給与計算の整合性確認と段階的な移行タイムライン。
  3. 過去の勤怠データの取り扱い:法定保存期間を考慮した過去データの移行または保管方法の決定。

例題3

問題:システム導入計画の「導入可否判断基準」として適切なものを3つ挙げ、それぞれについて簡単に説明してください。

回答例:

  1. 性能テスト結果:新システムが要求される処理速度や同時接続数を満たしているか確認する基準。
  2. データ整合性確認:移行されたデータが正確かつ完全であることを検証する基準。
  3. ユーザー受け入れテスト結果:エンドユーザーが新システムの機能や操作性に問題がないと判断したかを示す基準。

5. まとめ

 システム及び/又はソフトウェアの導入計画は、新システムの成功的な導入を確実にするための重要なプロセスです。導入要件や移行要件、導入可否判断基準、インストール計画を含む詳細な計画を文書化し、導入方法に応じた最適なアプローチを選択することが重要です。

 実際の導入では、リスクを最小限に抑えつつ、効率的かつ効果的に移行を実現するために、適切なスケジュールと体制を整えることが成功の鍵となります。