2.9.3.2. 構造化設計の手法

1. 概要

 構造化設計は、複雑なシステムを整理し、効率的に開発するための手法です。システムを管理可能な単位に分割し、全体の構造を明確にすることを目的としています。この手法は、様々な図表やチャートを用いてシステムの構造や処理の流れを視覚化し、設計者間や開発者間でのコミュニケーションを円滑にします。これにより、開発の効率化や品質の向上を図ることができ、特にチーム開発において誤解や手戻りを防ぐ効果があります。

 構造化設計は、具体的には以下のようなツールや手法を活用します。これらを適切に組み合わせることで、システムの複雑さを管理しやすくし、開発プロセスを効率化します。

2. 詳細説明

2.1. 流れ図(フローチャート)

 流れ図は、処理の順序や分岐、繰り返しなどを視覚的に表現する手法です。順次、選択、繰返しの3つの基本構造を図示し、システム内で行われる操作や判断を視覚化します。この手法は、特にプログラムの制御フローを理解する上で有用です。

  • 順次:処理が順に進む流れを表します。
  • 選択:条件に基づいて異なる処理が行われる場合を表します。
  • 繰返し:一定の条件下で処理を繰り返す場合を表します。

2.2. DFD(Data Flow Diagram)

 DFDは、システム内のデータの流れを視覚化する手法です。データがどのようにシステムを通って処理されるかを明確に示すため、特に複雑なシステムのデータフローを理解するのに役立ちます。DFDは以下の4つの要素で構成されます。

  • プロセス:データを加工する操作や処理を示します。
  • データフロー:データの流れを表します。
  • データストア:データの保管場所を示します。
  • 外部実体:システムの外部とやり取りする実体を示します。  DFDは、システムの全体像を一目で把握できるため、特に業務システムや大規模なプロジェクトでのデータ管理に適しています。

2.3. 構造化チャート

 構造化チャートは、システムの階層構造を視覚的に表現するための手法です。特に大規模なシステムでは、階層的に機能や処理を整理することで、システム全体の構造を理解しやすくします。主に以下の形式が使用されます。

  • HIPO(Hierarchy plus Input Process Output):階層構造と入出力の関係を示します。
  • ブロック図:機能ブロック間の関係を示し、システムのモジュール構造を視覚化します。
  • バブルチャート:機能間の関連性を円で表し、システムの全体像を把握しやすくします。

2.4. 状態遷移図

 状態遷移図は、システムが取りうる状態と、それらの状態間の遷移を視覚化します。状態遷移図は、システムの動的な挙動を理解するのに役立ち、特にリアルタイムシステムやイベント駆動型システムの設計において効果的です。

  • 状態:システムが取りうる状態を示します。
  • 遷移:状態間の変化を表します。
  • イベント:状態遷移を引き起こすトリガーを表します。

2.5. その他の手法

 構造化設計には、他にも多くの補完的な手法が存在します。これらの手法を適切に組み合わせることで、システムの全体像や詳細を明確に表現できます。

  • NS図:構造化プログラミングの制御構造を図示します。
  • 階層構造図:システムの階層構造を木構造で表現します。
  • イベントトレース図:時系列に沿ってイベントの発生と処理の流れを視覚化します。
  • ジャクソン法:データ構造に基づいてプログラムの構造を設計します。
  • ワーニエ法:データ構造と処理構造を対応付けて設計します。

3. 応用例

 構造化設計の手法は、多くの業界でソフトウェア開発に活用されています。以下のような具体的な例を通して、実際の使用場面を理解することが重要です。

  • 金融システム:例えば銀行の取引処理では、DFDを使用して複雑なデータの流れを整理し、システム全体の透明性を高めています。これにより、開発者がシステムのデータの取り扱いを正確に理解でき、エラーや不具合のリスクを軽減します。
  • 製造業:生産管理システムでは、状態遷移図を用いて異常が発生した場合の処理を明確に設計します。これにより、システムの安定性と効率性が向上し、現場でのスムーズな運用が可能になります。
  • Web開発:Webアプリケーションの設計では、ユーザーインターフェースの遷移を構造化チャートで視覚化し、画面間の動作を効率的に設計しています。これにより、開発者間のコミュニケーションが向上し、開発効率が上がります。

4. 例題

例題1:商品管理システムのDFD作成

 問題:簡単な商品管理システムのDFDを作成してください。システムは、商品の登録、在庫確認、発注処理の機能を持つものとします。

回答例:

graph TD
    A[外部実体: ユーザー] -->|商品情報| B((プロセス: 商品登録))
    B -->|登録データ| C[(データストア: 商品DB)]
    A -->|在庫確認要求| D((プロセス: 在庫確認))
    D -->|在庫データ要求| C
    C -->|在庫データ| D
    D -->|在庫情報| A
    A -->|発注要求| E((プロセス: 発注処理))
    E -->|在庫データ更新| C
    E -->|発注書| F[外部実体: 仕入先]

 このDFDは、商品管理システムの主要な機能と、データの流れを視覚化しています。システム内のプロセスと外部実体間のデータのやり取りが明確に示されています。

例題2:ATMの預金引き出し機能の状態遷移図作成

 問題:ATMの「預金引き出し」機能の状態遷移図を作成してください。

回答例:

stateDiagram-v2
    [*] --> カード挿入待ち
    カード挿入待ち --> 暗証番号入力待ち: カード挿入
    暗証番号入力待ち --> 金額入力待ち: 暗証番号確認OK
    暗証番号入力待ち --> カード排出中: 暗証番号確認NG

    金額入力待ち --> 残高確認中: 金額入力
    残高確認中 --> 現金出金中: 残高十分
    残高確認中 --> 取引中止: 残高不足
    現金出金中 --> レシート出力中: 出金完了
    レシート出力中 --> カード排出中: レシート出力完了
    カード排出中 --> [*]: カード取出し
    取引中止 --> カード排出中: 中止処理完了

 この状態遷移図は、ATMの預金引き出し機能の全体的な流れを示しています。システムが取る可能性のある状態と、それぞれの状態間の遷移を理解することができます。

5. まとめ

 構造化設計の手法は、システム開発プロセスにおいて重要な役割を果たします。主な手法として、流れ図、DFD、構造化チャート、状態遷移図があり、これらを適切に使用することで、システム全体の構造を明確化し、チーム内でのコミュニケーションを円滑にすることが可能です。

 さらに、NS図、HIPO、イベントトレース図などの補完的な手法を組み合わせることで、システムの設計をより深く掘り下げることができます。特に実務では、プロジェクトの特性や要件に応じて柔軟にこれらの手法を使い分けることが求められます。