2.2.1. システム設計の目的

1. 概要

 システム設計は、情報システム開発プロセスにおいて極めて重要な段階です。システム設計の質は、プロジェクト全体の成功を左右するといっても過言ではありません。システム設計の主な目的は、システム要件を実装可能な形に変換し、全体的な構成を決定することです。このプロセスでは、ハードウェア、ソフトウェア、そして手作業の要素に適切に振り分け、効率的で保守しやすいシステムを設計します。

 さらに、システム設計では機能要件や非機能要件を満たすことができるか、リスクを考慮した代替案が提案できるかを評価します。最終的には、長期的に運用可能で、柔軟かつ拡張性のあるシステムが求められます。

2. 詳細説明

2.1. システム要件の振り分け

 システム設計の最初のステップは、要件をハードウェア、ソフトウェア、手作業に適切に振り分けることです。この振り分けにより、システム全体の効率性や運用コストが大きく変わります。

2.1.1. ハードウェア構成品目

 ハードウェアはシステムの物理的な基盤を形成します。具体的には、サーバー、ネットワーク機器、ストレージデバイスなどが含まれます。図表1:システム構成図(ハードウェア、ソフトウェア、手作業の振り分け)を参考に、これらの構成品目がどのように役割を果たすかを視覚的に理解できます。

graph TB
    subgraph ハードウェア
        H1[サーバー]
        H2[ネットワーク機器]
        H3[ストレージデバイス]
    end
    subgraph ソフトウェア
        S1[アプリケーションソフトウェア]
        S2[データベース管理システム]
        S3[オペレーティングシステム]
    end
    subgraph 手作業
        M1[データ入力]
        M2[システム監視]
        M3[カスタマーサポート]
    end
    H1 --> S1
    H1 --> S2
    H1 --> S3
    H2 --> S1
    H3 --> S2
    S1 --> M1
    S1 --> M2
    S1 --> M3

図表1:システム構成図(ハードウェア、ソフトウェア、手作業の振り分け)

2.1.2. ソフトウェア構成品目

 ソフトウェアは、システムの論理的な機能を提供します。これには、アプリケーションソフトウェア、データベース管理システム(DBMS)、オペレーティングシステム(OS)などが含まれます。ソフトウェアはユーザーに直接影響を与える部分でもあり、特に機能性と使いやすさが重視されます。

2.1.3. 手作業

 完全に自動化できない、または自動化すべきでない業務プロセスは手作業として残ります。これには、人的リソースが必要な部分(例:カスタマーサポートや業務監視)が含まれます。システム設計では、これらの手作業が他の要素とどう連携するかを慎重に設計する必要があります。

2.2. システム要求仕様の実現可能性評価

 システム設計の次のステップは、提案されたシステムが機能要件と非機能要件を満たすかどうかを評価することです。ここで重要なのは、理想と現実のバランスをとり、実現可能な設計を選択することです。

2.2.1. 機能要件

 機能要件は、システムが実行すべき具体的な機能や操作です。例えば、ユーザーがデータを入力し、それを処理して結果を出力するプロセスが機能要件に該当します。表1:機能要件の具体例を参照してください。

IDカテゴリ説明
1ユーザー管理ユーザーの登録、編集、削除機能
2データ処理大量データの高速検索および集計機能
3レポート作成各種分析レポートの自動生成機能
4セキュリティユーザー認証とアクセス制御機能
5データ連携外部システムとのデータ連携機能
表1:機能要件の具体例

2.2.2. 非機能要件

 非機能要件は、システムの品質を評価する基準です。これには、性能、セキュリティ、可用性、拡張性などが含まれます。たとえば、システムが24時間365日稼働し続ける「可用性」や、将来的な負荷増大に対応できる「スケーラビリティ」が重要な非機能要件です。

2.3. リスク考慮と選択肢の提案

 システム設計では、潜在的なリスクを事前に特定し、そのリスクに対する選択肢を提案します。リスクには技術的な問題、スケジュールの遅延、コストの増加などが含まれます。設計段階でこれらのリスクを適切に管理することで、後のフェーズでの問題発生を防ぎます。

2.4. 効率的な運用および保守の考慮

 システム設計では、将来的な運用や保守の容易さも重要です。これには、システムの監視、バックアップ、アップデート、トラブルシューティングなどが含まれます。例えば、図表2:運用・保守フロー図を参考に、どのように効率的な運用が実現されるかを具体的に示します。

flowchart TD
    A[システム稼働] --> B{問題発生?}
    B -->|No| C[定期メンテナンス]
    B -->|Yes| D[問題の特定]
    C --> E[パフォーマンス最適化]
    C --> F[セキュリティアップデート]
    C --> G[バックアップ]
    D --> H{ハードウェア問題?}
    D --> I{ソフトウェア問題?}
    H -->|Yes| J[ハードウェア修理/交換]
    I -->|Yes| K[ソフトウェア修正/アップデート]
    J --> L[テスト]
    K --> L
    L --> M{問題解決?}
    M -->|No| D
    M -->|Yes| A

図表2:運用・保守フロー図

3. 応用例

3.1. Eコマースシステムの設計

 Eコマースシステムの設計では、以下のような振り分けと考慮が行われます:

  • ハードウェア:Webサーバー、データベースサーバー、ネットワーク機器
  • ソフトウェア:Webアプリケーション、DBMS、決済処理システム
  • 手作業:カスタマーサポート、商品登録、在庫管理

 さらに、システム要求仕様の実現可能性を評価し、セキュリティリスクや負荷増大時の対応策を提案します。定期的なメンテナンスやアップデートを簡便に行えるような設計が求められます。

3.2. 病院情報システムの設計

 病院情報システムの設計では、以下の点が重要です:

  • ハードウェア:医療機器のインターフェース、サーバー、ネットワーク機器
  • ソフトウェア:電子カルテシステム、医療画像管理システム、予約管理システム
  • 手作業:医師による診断、看護師による患者ケア

 特に、患者データの安全性やシステムの可用性に関する厳格な要件を満たす設計が必要です。法規制の変更や新しい医療技術の導入にも柔軟に対応できるシステムが求められます。

4. 例題

例題1

問題: ある企業のCRMシステムを設計する際に、システム要件をハードウェア、ソフトウェア、手作業に振り分ける必要があります。以下の要件をそれぞれ適切に分類してください。

  1. 顧客データの保存
  2. 営業担当者による顧客訪問記録の入力
  3. 大量のデータ処理のための高速演算
  4. 顧客対応履歴の管理
  5. ネットワークセキュリティの確保

回答

  1. ハードウェア:ストレージデバイス(顧客データの保存)
  2. 手作業:営業担当者による顧客訪問記録の入力
  3. ハードウェア:高性能プロセッサ(大量のデータ処理のための高速演算)
  4. ソフトウェア:CRMアプリケーション(顧客対応履歴の管理)
  5. ハードウェア&ソフトウェア:ファイアウォール機器とセキュリティソフトウェア(ネットワークセキュリティの確保)

例題2

問題: 新しい在庫管理システムの設計において、以下の非機能要件が提示されました。各要件に対して、システム設計時に考慮すべき具体的な対策を1つずつ挙げてください。

  1. 可用性:システムは24時間365日稼働する必要がある
  2. スケーラビリティ:将来的な取扱商品の増加に対応できること
  3. セキュリティ:在庫データへの不正アクセスを防止すること
  4. パフォーマンス:在庫検索は3秒以内に結果を返すこと
  5. 保守性:システムの更新やバグ修正が容易であること

回答

  1. 可用性:冗長構成を採用し、障害時に自動でバックアップシステムに切り替わる設計にする
  2. スケーラビリティ:クラウドベースのインフラを採用し、需要に応じてリソースを柔軟に拡張できるようにする
  3. セキュリティ:データの暗号化とアクセス制御機能を実装し、定期的なセキュリティ監査を可能にする設計にする
  4. パフォーマンス:インメモリデータベースを採用し、頻繁にアクセスされるデータをキャッシュする仕組みを設計に組み込む
  5. 保守性:マイクロサービスアーキテクチャを採用し、個別のコンポーネントを独立して更新できるようにする

5. まとめ

 システム設計は、システム要件を実現可能な形に変換するプロセスであり、プロジェクト全体の成功に直結します。この過程では、以下の点が特に重要です:

  1. システム要件をハードウェア、ソフトウェア、手作業に適切に振り分ける
  2. 機能要件と非機能要件の実現可能性を評価する
  3. 潜在的なリスクを考慮し、適切な選択肢を提案する
  4. 長期的な運用および保守の容易さを考慮する

 これらの要素を考慮することで、高品質で運用可能なシステム設計が実現されます。