1.4. システム要件の評価及びレビュー

1. 概要

　システム要件の評価とレビューは、システム開発プロセスにおいて非常に重要なステップです。この段階では、定義されたシステム要件が適切かつ実現可能であり、ステークホルダー（stakeholder：利害関係者）のニーズを満たしているかどうかを確認します。また、システムの取得者と供給者が共同でレビューを実施することで、プロジェクトの方向性を合意し、将来的なリスクや問題を未然に防ぐことができます。

2. 詳細説明

2.1. システム要件の評価基準

　システム要件を評価する際には、以下の基準が重要となります：

1. 双方向の追跡可能性（トレーサビリティ）:
   　要件が上位のビジネス要求や下位の設計要素と相互に追跡可能であることを確認します。これにより、要件の起源やその変更の影響を容易に特定できます。
2. 一貫性:
   　システム要件間に矛盾がないか、要件同士が整合しているかを確認します。矛盾がある場合、後の開発フェーズでの誤解や手戻りが発生するリスクがあります。
3. テスト可能性:
   　各要件が明確かつ検証可能であること、具体的な基準や指標が設定されていることを確認します。これにより、開発後の検証プロセスが効率的に行えます。
4. システム設計の実現可能性:
   　要件が技術的に実現可能であり、与えられたリソースや制約の範囲内で適切に実装できるかを確認します。
5. 運用及び保守の実現可能性:
   　システムが稼働後も効率的に運用・保守できるかどうかを評価します。運用面での現実的な制約を考慮しなければ、後に保守が困難になることがあります。

2.2. システム要件定義書のレビュー

　システム要件定義書の作成後、システムの取得者と供給者が共同でレビューを行います。このプロセスには以下の要素が含まれます：

1. レビュー参加者:
   　システムの取得者、供給者、主要な stakeholder、技術専門家など、多様な観点から評価ができるようにチームを編成します。
2. レビュー方式:
   　プロジェクトの規模や複雑性に応じて、フォーマルレビュー、ウォークスルー、インスペクションなどの適切な方式を選択します。例えば、重要なシステム要件では、事前にチェックリストを用意し、厳密に評価するインスペクションが推奨されます。
3. レビューの焦点:
   　要件の完全性、正確性、一貫性、明確性、実現可能性などに重点を置いてレビューを行います。特に、要件が技術的に実現可能であり、明確に定義されているかを確認します。

　例えば、ウォークスルーは初期段階の要件レビューにおいて、取得者や供給者の理解を深めるのに適しており、インスペクションは要件が確定段階に入った際の厳密な検証に効果的です。

3. 応用例

　システム要件の評価及びレビューは、様々な業界において重要な役割を果たしています。以下はその具体的な応用例です：

1. 自動車業界:
   　自動車の車載システムの開発において、安全性や信頼性に関する要件が厳密に評価されます。例えば、エアバッグ制御システムの要件評価では、複数の supplier（供給者）との共同レビューを通じて、万が一の動作不良に備えた多層的な評価が行われます。
2. 金融システム:
   　セキュリティや法令遵守に関する要件が重点的に評価されます。例えば、国際的な金融取引プラットフォームの開発では、金融当局とのレビューが行われ、システムのコンプライアンスが確認されます。
3. 医療機器開発:
   　患者の安全に直結する要件について、医療専門家を交えた厳密な評価が行われます。例えば、医療用ロボットの制御ソフトウェアでは、操作ミスによるリスクがないかを事前に評価するための専門的なレビューが欠かせません。

4. 例題

例題1

Q: システム要件の評価基準のうち、「双方向の追跡可能性」とは何を意味しますか？

A: 双方向の追跡可能性（トレーサビリティ）とは、システム要件が上位のビジネス要求から導出され、下位の設計要素に繋がっていること、さらにその逆方向の追跡も可能であることを意味します。これにより、要件の出どころや変更がシステム全体に与える影響を容易に特定できます。

例題2

Q: システム要件定義書のレビューにおいて、「レビュー方式」の一つである「インスペクション」の特徴を説明してください。

A: インスペクションは、事前に定められたチェックリストを使用し、参加者が個別に資料を精査した後、会議で発見された問題点を報告する形式のレビュー方式です。特徴としては、会議では問題点の指摘に重点を置き、解決策の議論は基本的に行わないことが挙げられます。進行役であるモデレータが会議を管理し、記録係が指摘事項を記録するため、厳密な評価が必要な要件に適しています。

5. まとめ

　システム要件の評価およびレビューは、システム開発の品質を高めるための重要なプロセスです。以下のポイントを押さえて進めることが求められます：

1. 評価基準:
   　双方向の追跡可能性、一貫性、テスト可能性、システム設計の実現可能性、運用及び保守の実現可能性など、システム要件の重要な側面を評価します。
2. レビューの共同実施:
   　システムの取得者と供給者が共同でレビューを実施し、要件の品質向上を図り、stakeholder間の合意を形成します。
3. レビュー方式の選択:
   　プロジェクトの特性に応じて適切なレビュー方式を選択し、要件の品質を確保します。
4. 応用例:
   　業界によって異なるが、システム要件の評価は、安全性や信頼性が重視される自動車業界や金融業界、医療機器開発など、多岐にわたる分野で重要な役割を果たしています。

　これらのプロセスを確実に実施することで、システム開発の成功確率を高めることができます。システム要件の評価とレビューは、単に開発の一部ではなく、プロジェクト全体の成否を左右する重要な活動です。