4.1.3. 物理的セキュリティ対策

1. 概要

 物理的セキュリティ対策とは、情報システムを外部からの物理的な脅威から保護し、システムの信頼性と可用性を確保するための対策のことです。この対策は、RASIS(Reliability,Availability,Serviceability,Integrity,Security)の概念に基づいており、特にReliability(信頼性)、Availability(可用性)、そしてServiceability(保守性)の確保に重点を置いています。

 情報システムは、不正侵入、盗難、自然災害(水害、落雷、地震など)、環境問題(大気汚染)、人為的災害(爆発、火災)といった多様な物理的脅威にさらされています。これらの脅威から情報システムを守ることは、企業や組織の事業継続性を維持する上で極めて重要です。本記事では、物理的セキュリティ対策の概要とその具体的な手法について詳しく解説します。

2. 詳細説明

2.1. 物理的セキュリティ対策の主要な要素

2.1.1. 施設・設備の保護

 地震や火災からシステムを守るためには、耐震耐火設備の導入が基本的な対策です。また、突然の停電時にもシステムの稼働を維持するため、UPS(無停電電源装置)の設置が不可欠です。UPSとは、停電時に一時的に電力を供給する装置で、電源トラブルによるデータ損失やシステムダウンを防ぎます。

2.1.2. アクセス制御

 ハウジングセキュリティの一環として、監視カメラやセキュリティゲートの設置が一般的です。入退室管理システムには、アンチパスバック機能(入退室の記録を管理し、不正な再入室を防ぐ機能)が搭載されており、ICカードの不正利用や「tailgating」(正規の入室者の後ろについて入る行為)を防ぐ効果があります。また、施錠管理も重要な対策の一つです。

2.1.3. データ保護

 ストレージのミラーリングや遠隔バックアップは、データの冗長性を確保し、災害時のデータ損失を防ぐための重要な技術です。さらに、USBキーやセキュリティケーブルの使用により、物理的な盗難からデバイスを保護します。

2.1.4. 作業環境の管理

 クリアデスク・クリアスクリーンポリシーの実施は、机上や画面上の機密情報を保護するための重要な対策です。このポリシーにより、離席時には机上の書類をしまい、PC画面をロックすることで、機密情報が無防備な状態で放置されるリスクを軽減します。

2.2. RAS技術と多重化

 RAS技術(Reliability,Availability,Serviceability)は、システムの信頼性、可用性、保守性を向上させるための技術の総称です。例えば、多重化技術は、システムの冗長性を確保し、障害時の可用性を高めます。具体的には、ストレージのミラーリング技術により、一方のストレージが故障しても、もう一方のストレージからデータを復旧できるため、システムの可用性が向上します。

2.3. 自然災害対策

 水害、落雷、地震などの自然災害から情報システムを守るためには、以下のような対策が重要です。サーバールームを上層階に設置することで水害リスクを軽減し、避雷針を設置することで落雷のリスクを防ぎます。また、耐震設備の導入も地震対策として欠かせません。

2.4. 環境管理

 大気汚染対策として、サーバールーム内に空気清浄機を設置し、定期的にフィルターを交換することも、物理的セキュリティ対策の一環です。この対策により、ハードウェアの寿命を延ばし、システムの信頼性を高めることができます。

3. 応用例

3.1. データセンターでの適用

 データセンターでは、高度な物理的セキュリティ対策が実施されています。具体的な対策例として:

  • 生体認証を用いた厳重な入退室管理
  • 24時間365日の監視体制
  • 耐震構造と高度な消火システム
  • 複数の電源系統と大容量UPSの導入
  • ストレージの多重化と遠隔地バックアップ

3.2. オフィス環境での適用

 一般的なオフィス環境でも、以下のような物理的セキュリティ対策が実施されています:

  • ICカードによる入退室管理
  • ノートPCへのセキュリティケーブルの使用
  • 重要書類の施錠保管
  • クリアデスク・クリアスクリーンポリシーの徹底

3.3. モバイルデバイスのセキュリティ

 ノートPCやタブレットなどのモバイルデバイスに対しては、USBキーによる起動制限や、セキュリティケーブルによる物理的な盗難防止策が有効です。これらの対策により、モバイルワーク時のセキュリティリスクを軽減できます。

4. 例題

例題1

問題:物理的セキュリティ対策において、UPSの役割は何ですか?

回答例:UPS(無停電電源装置)の役割は、突然の停電時にも情報システムの稼働を維持することです。これにより、電源トラブルによるデータ損失やシステムダウンを防ぎ、システムの可用性を確保します。

例題2

問題:アンチパスバック機能とは何か、また、どのような効果がありますか?

回答例:アンチパスバック機能とは、入退室管理システムにおいて、一度入室した人が退室記録なしに再度入室することを防ぐ機能です。この機能により、ICカードの不正な貸し借りや、「tailgating」(正規の入室者の後ろについて入る行為)などの不正入室を防ぐ効果があります。

例題3

問題:クリアデスク・クリアスクリーンポリシーとは何か、またその目的は何ですか?

回答例:クリアデスク・クリアスクリーンポリシーとは、離席時に机上の書類をしまい、PCの画面をロックする方針のことです。目的は、机上や画面上に放置された機密情報が、権限のない者の目に触れたり、不正に取得されたりするリスクを低減することです。

例題4

問題:Serviceabilityの向上に寄与する物理的セキュリティ対策を1つ挙げ、その効果を説明してください。

回答例:Serviceabilityの向上に寄与する物理的セキュリティ対策の一つとして、「ホットスワップ可能な冗長電源の導入」が挙げられます。この対策により、電源ユニットに問題が発生した場合でも、システムを停止することなく故障した電源ユニットを交換できます。これにより、システムの保守性(Serviceability)が向上し、同時に可用性(Availability)も確保されます。

5. まとめ

 物理的セキュリティ対策は、情報システムを外部からの物理的脅威から守り、システムの信頼性、可用性、保守性を確保するための重要な取り組みです。主な対策として、施設・設備の保護、アクセス制御、データ保護、作業環境の管理などがあり、それぞれの対策が企業や組織の事業継続性を支える基盤となります。

 これらの対策は、RASISの概念に基づいており、特にReliability、Availability、Serviceabilityの確保に重点を置いています。RAS技術の活用や、多重化技術の導入、ストレージのミラーリングなども、システムの信頼性と可用性を高める上で重要です。

 物理的セキュリティ対策は、技術的対策や管理的対策と並んで、総合的な情報セキュリティの重要な要素です。これらの対策の重要性を理解し、適切に実施・管理できる能力が求められます。また、組織としても定期的にセキュリティの見直しと改善を行い、新たな脅威に対応することが重要です。