2.5. 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)

1. 概要

 情報セキュリティマネジメントシステム(Information Security Management System: ISMS)は、組織における情報セキュリティを体系的に管理し、継続的に改善するための包括的なアプローチです。ISMSは、情報セキュリティリスクを識別、評価、制御するためのプロセスを体系化し、組織全体での一貫性と効率性を高める役割を果たします。組織の情報資産を保護し、情報セキュリティリスクを効果的に管理するために不可欠な仕組みです。

 ISMSの重要性は、以下の点にあります:

  1. 組織の情報資産の保護
  2. セキュリティリスクの体系的な管理
  3. 法令順守とステークホルダーからの信頼獲得
  4. セキュリティインシデントの予防と対応能力の向上
  5. 継続的な改善による組織のセキュリティ体制の強化

2. 詳細説明

2.1. ISMSの構成要素

 ISMSは以下の主要な要素で構成されています:

  1. ISMS適用範囲:組織がISMSを適用する範囲を明確に定義します。適用範囲は、組織の事業活動やリスク評価に基づいて設定され、全体的な管理の方向性を決定します。
  2. リーダーシップ:経営陣のコミットメントと責任を明確にし、情報セキュリティ方針の策定や資源の割り当てを行います。
  3. 計画:リスクアセスメントを実施し、リスク対策の計画を立てます。計画には、リスクの特定、評価、対応策の選定が含まれます。
  4. 運用:セキュリティ対策を実施し、計画に基づいてリスクを管理します。具体的には、アクセス制御の導入やデータ保護の実施が含まれます。
  5. パフォーマンス評価:内部監査やマネジメントレビューを通じて、実施した対策の有効性を評価します。
  6. 改善:不適合の是正と継続的改善を行い、組織の情報セキュリティレベルを向上させます。

2.2. ISMSの管理目的と管理策

 ISMSには、情報セキュリティを確保するための具体的な管理目的と管理策が定められています。以下に主な管理策の例を示します:

  • 情報セキュリティインシデント管理:セキュリティインシデント発生時の迅速な対応と再発防止策の策定。
  • 情報セキュリティの教育及び訓練:従業員に対するセキュリティ意識向上のための定期的な教育や演習の実施。
  • 法的及び契約上の要求事項の順守:関連する法規制や契約条件を遵守するための管理策の導入。

2.3. ISMSの国際規格

 ISMSに関する主な国際規格には以下があります:

  • JIS Q 27001(ISO/IEC 27001):ISMSの要求事項を定めた国際規格。認証取得を通じて、組織の情報セキュリティ管理の信頼性を向上させます。
  • JIS Q 27002(ISO/IEC 27002):情報セキュリティ管理策の実践のための規範。リスクの特定と対策の実施方法に関するガイダンスを提供します。
  • JIS Q 27014(ISO/IEC 27014):情報セキュリティガバナンスのガイドライン。組織全体でのセキュリティ方針の策定や監督を支援します。
  • JIS Q 27017(ISO/IEC 27017):クラウドサービスのための情報セキュリティ管理策。クラウド特有のセキュリティリスクに対応するための指針を示します。

3. 応用例

3.1. ISMS認証の取得

 多くの組織が、ISMSの有効性を第三者機関に評価してもらうISMS適合性評価制度を活用しています。ISMS認証を取得することで、組織の情報セキュリティ管理の信頼性を対外的に示すことができます。例えば、日本の大手企業A社は、ISO/IEC 27001認証を取得することで、顧客からの信頼を高め、ビジネス機会を拡大しました。

3.2. クラウドサービスにおけるISMS

 クラウドサービスプロバイダーは、JIS Q 27017(ISO/IEC 27017)を参照し、クラウド特有のセキュリティリスクに対応したISMSを構築・運用しています。例えば、クラウド企業B社は、ISO/IEC 27017に基づくリスク対策を導入し、データ漏洩リスクを30%削減しました。

3.3. 情報セキュリティガバナンスの実践

 大規模組織では、JIS Q 27014(ISO/IEC 27014)に基づいて情報セキュリティガバナンスを確立し、組織全体でのセキュリティ方針の策定や監督を行っています。例えば、企業C社では、情報セキュリティガバナンスを強化するために、全社的なセキュリティ方針の定期的な見直しと監視体制の強化を実施しています。

4. 例題

例題1

問題:ISMSの PDCAサイクルにおける「Check(評価)」のフェーズで実施される活動として、最も適切なものはどれか。

a) セキュリティポリシーの策定
b) セキュリティ対策の実施
c) 内部監査の実行
d) 是正措置の実施

回答例:正解は c) 内部監査の実行

解説:ISMSのPDCAサイクルにおいて、「Check(評価)」フェーズでは、実施した対策の有効性を評価します。内部監査はこの評価の重要な手段の一つです。a)はPlan、b)はDo、d)はActフェーズに該当します。

例題2

問題:ISMS認証を取得する際の適用範囲について、最も適切な記述はどれか。

a) 組織全体を必ず含めなければならない
b) ITシステムの管理部門のみを対象とすれば十分である
c) 組織の状況に応じて、適切な範囲を定義する
d) 経営層を除外してもよい

回答例:正解は c) 組織の状況に応じて、適切な範囲を定義する

解説:ISMS認証の適用範囲は、組織の目的や状況に応じて適切に定義する必要があります。全社的に適用することが理想的ですが、段階的に範囲を拡大していくアプローチも可能です。ただし、範囲から重要な部分を恣意的に除外することは適切ではありません。

5. まとめ

 情報セキュリティマネジメントシステム(ISMS)は、組織の情報セキュリティを体系的に管理し、継続的に改善するための重要な仕組みです。ISMSは、適用範囲の定義、リーダーシップ、計画、運用、評価、改善というサイクルで構成され、具体的な管理目的と管理策を通じて実現されます。

 国際規格であるISO/IEC 27001やその関連規格を基に、多くの組織がISMSを導入し、ISMS認証を取得しています。クラウドサービスや情報セキュリティガバナンスなど、さまざまな分野でISMSの考え方が応用されており、組織の情報セキュリティ管理の水準を高め、維持し、改善していく上で不可欠な役割を果たしています。