2.3. 情報セキュリティ継続

1. 概要

 情報セキュリティ継続とは、組織が危機や災害などの困難な状況に直面した際にも、情報セキュリティの運用を継続的に確保するためのプロセスです。この概念は、組織の事業継続マネジメントシステム(BCMS)の重要な要素として位置付けられています。

 情報セキュリティ継続の重要性は、以下の点にあります:

1.1. 事業継続性の確保

 組織の重要な情報資産を保護し、業務の中断を最小限に抑えることで、事業の継続性を維持します。

1.2. 法的要求事項の遵守

 多くの業界で、情報セキュリティの継続的な運用が法的に要求されています。

1.3. 信頼性の維持

 危機時にも適切に情報を管理することで、顧客や取引先からの信頼を維持できます。

2. 詳細説明

 この章では、情報セキュリティ継続を実現するための具体的な手法とその重要性について詳述します。

2.1. 緊急事態の区分

 情報セキュリティ継続を効果的に実施するためには、まず緊急事態を適切に区分する必要があります。緊急事態の区分により、それぞれの事態に適した対応策を策定することが可能になります。一般的な区分は以下の通りです:

  • 自然災害(地震、台風、洪水など)
  • 人為的災害(火災、テロ、サイバー攻撃など)
  • インフラ障害(停電、通信障害など)
  • パンデミック

2.2. 緊急時対応計画(コンティンジェンシー計画)

 緊急時対応計画は、緊急事態発生時の初動対応から復旧までの手順を定めたものです。緊急時対応計画の効果的な実施により、被害の最小化と早期の業務再開が可能となります。主な要素は以下の通りです:

  • 緊急事態の検知と通報手順
  • 初動対応チームの編成と役割分担
  • 被害状況の調査手法
  • 情報セキュリティインシデントの管理手順
  • 外部との連絡体制  例として、ある企業がサイバー攻撃を受けた際には、初動対応チームが迅速に対応し、被害拡大を防ぐための即時対策を講じることが求められます。

2.3. 復旧計画

 復旧計画は、緊急事態後の業務再開に向けた手順を定めたものです。復旧計画により、最小限のリソースで迅速な業務再開を実現できます。主な要素には以下があります:

  • 重要業務の特定と優先順位付け
  • 復旧目標時間(RTO)の設定
  • 復旧手順の詳細
  • 必要なリソースの調達計画

2.4. バックアップによる対策

 バックアップは情報セキュリティ継続の要となる対策です。バックアップ戦略を明確にし、データの保護と迅速な復旧を実現することが求められます。以下の点に注意が必要です:

  • 定期的なバックアップの実施
  • オフサイトバックアップの活用
  • バックアップデータの完全性と機密性の確保
  • 定期的なリストア訓練の実施  図1に示すように、バックアップ戦略を視覚化することで、計画の全体像をより理解しやすくなります。

3. 応用例

3.1. 金融機関での適用

 金融機関では、情報セキュリティ継続が特に重要です。例えば、大規模な自然災害発生時にも、以下のような対応が求められます:

  • バックアップセンターへの速やかな切り替え
  • 顧客データの保護と利用可能性の確保
  • ATMネットワークの継続運用
  • サイバー攻撃への迅速な対応  金融機関においては、顧客情報や取引データの保護が最優先事項であり、そのための多層的な対策が必要です。

3.2. 製造業での適用

 製造業では、生産ラインの制御システムのセキュリティ継続が重要です:

  • 生産管理システムの冗長化
  • サプライチェーン情報の保護
  • 産業用IoTデバイスのセキュリティ対策
  • 知的財産情報の保護と復旧  例えば、工場の制御システムがサイバー攻撃を受けた場合、早期に復旧を行い、製造ラインの停止を最小限に抑えることが求められます。

4. 例題

例題1

 ある企業で大規模な停電が発生し、主要なサーバーが停止しました。情報セキュリティ継続の観点から、最初に取るべき行動として最も適切なものはどれですか?

a) メディアに状況を説明する
b) 緊急時対応計画に基づき、初動対応チームを招集する
c) すぐに全従業員を帰宅させる
d) 新しいサーバーを購入する

回答例:正解は b) です。緊急時対応計画に基づいて初動対応チームを招集し、状況を評価して適切な対応を開始することが最優先されます。他の選択肢は、現時点では適切な行動とは言えません。

例題2

 情報セキュリティ継続計画の一環として、バックアップ戦略を検討しています。次のうち、最も適切なバックアップ方針はどれですか?

a) 毎日フルバックアップを取り、同じ建物内に保管する
b) 週に1回フルバックアップを取り、遠隔地に保管する
c) 毎日増分バックアップを取り、週に1回フルバックアップを取って遠隔地に保管する
d) 月に1回フルバックアップを取り、社内のクラウドに保管する

回答例:正解は c) です。日次の増分バックアップと週次のフルバックアップを組み合わせ、さらに遠隔地に保管することで、データの保護と災害時の復旧を効果的に行えます。a) の選択肢は災害時のリスクを高め、d) の選択肢はバックアップ頻度が不十分です。

5. まとめ

 情報セキュリティ継続は、組織が危機的状況下でも情報セキュリティを維持するための重要な概念です。主要なポイントは以下の通りです:

  • 緊急事態を適切に区分し、それぞれに対応した計画を立てる
  • 緊急時対応計画と復旧計画を策定し、定期的に訓練と見直しを行う
  • バックアップ戦略を確立し、データの保護と復旧を確実にする
  • 被害状況の調査手法を確立し、迅速な状況把握と対応を可能にする
  • 情報セキュリティ継続を組織の事業継続マネジメントシステムに統合する

 これらの要素を適切に実装することで、組織は困難な状況下でも情報セキュリティを維持し、事業の継続性を確保することができます。