3.1.2. データリンク層のプロトコル

1. 概要

 データリンク層のプロトコルは、TCP/IPネットワークにおいて重要な役割を果たしています。これらのプロトコルは、ネットワーク層とデータリンク層の間のインターフェースとして機能し、データの信頼性の高い転送を保証します。本記事では、ARPを中心に、TCP/IPネットワークで使用される主要なデータリンク層プロトコルの役割と機能について解説します。

2. 詳細説明

2.1. ARP(Address Resolution Protocol)

 ARPは、IPアドレスをMACアドレスに変換するためのプロトコルです。その主な機能は以下の通りです:

  • IPアドレスからMACアドレスを取得する
  • ARPキャッシュを管理し、アドレス解決の効率を向上させる
  • ブロードキャストを使用してネットワーク上のデバイスを特定する  例えば、ネットワーク管理者がネットワーク内のデバイスのIPアドレスとMACアドレスの対応を確認するために、arp -a コマンドを使用してARPテーブルを表示できます。

2.2. RARP(Reverse Address Resolution Protocol:逆アドレス解決プロトコル)

 RARPはARPの逆の機能を持つプロトコルで、MACアドレスからIPアドレスを取得します。主に以下の場合に使用されます:

  • ディスクレスワークステーションの起動時
  • IPアドレスが割り当てられていないデバイスのネットワーク参加  RARPは今日ではあまり使用されていませんが、その代替としてDHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)が広く使われています。

2.3. PPP(Point-to-Point Protocol)

 PPPは、ポイントツーポイント接続でデータを送受信するためのプロトコルです。主な特徴は:

  • 認証機能の提供(PAP, CHAPなど)
  • 複数のネットワークプロトコルのサポート(IP、IPX、AppleTalkなど)
  • 動的IPアドレス割り当て  PPPは、例えばダイヤルアップ接続やDSL接続で広く使用されており、pppd コマンドを利用して設定を行います。

2.4. PPPoE(Point-to-Point Protocol over Ethernet)

 PPPoEは、イーサネット上でPPPセッションを確立するためのプロトコルです。主に以下の目的で使用されます:

  • ブロードバンドインターネット接続の認証と管理
  • セッションの確立と切断の管理
  • 帯域制御  PPPoEは、ISPによるユーザー認証と課金のために使用され、pppoe-setup コマンドを使って設定します。

2.5. IPoE(IP over Ethernet)

 IPoEは、イーサネット上で直接IPパケットを送受信する方式です。PPPoEと比較して以下の特徴があります:

  • 低遅延と高スループットの実現
  • 設定の簡素化(追加の認証プロトコルが不要)
  • IPv6のネイティブサポート  IPoEは、特に大規模なネットワークでのパフォーマンス向上に有効です。

2.6. VLAN(Virtual LAN)

 VLANは、物理的なネットワーク構成に依存せず、論理的にネットワークを分割する技術です。主な利点は:

  • セキュリティの向上
  • ネットワーク管理の簡素化
  • ブロードキャストドメインの制御  企業ネットワークでは、VLANを使用して部門ごとにネットワークを分離し、セキュリティとパフォーマンスを向上させています。VLAN設定には、switchport mode accessswitchport access vlan [VLAN ID] コマンドを使用します。

2.7. IEEE 802.1Q

 IEEE 802.1Qは、VLANを実現するための標準規格です。主な特徴は:

  • VLANタグの定義
  • プライオリティ制御の実現
  • 異なるベンダー間の相互運用性の確保  IEEE 802.1Qでは、イーサネットフレームにタグを追加することで、異なるスイッチ間でVLANを識別可能にしています。

3. 応用例

3.1. 企業ネットワーク

 企業ネットワークでは、VLANを使用して部門ごとに論理的にネットワークを分離し、セキュリティを向上させています。また、ARPを活用して、社内の各デバイスのIPアドレスとMACアドレスの対応を管理しています。

3.2. インターネットサービスプロバイダ(ISP)

 ISPは、PPPoEやIPoEを使用して顧客にインターネット接続サービスを提供しています。PPPoEは認証や帯域制御に優れ、IPoEは高速・低遅延の接続を実現します。ISPは通常、PPPoE設定でのサポートを行う際、radius-servervpdn コマンドを用います。

3.3. データセンター

 データセンターでは、IEEE 802.1Q準拠のVLANを使用して、複数の顧客のネットワークを論理的に分離しています。これにより、セキュリティを確保しつつ、効率的なネットワーク運用を実現しています。

4. 例題

例題1:ARPの動作について

Q: ホストAがホストBにデータを送信しようとしています。ホストAはホストBのIPアドレスは知っていますが、MACアドレスは知りません。この場合、ARPはどのように動作しますか?

A: ARPの動作手順は以下の通りです:

  1. ホストAは、ホストBのIPアドレスをブロードキャストとしてARPリクエストを送信します。
  2. ネットワーク上の全てのホストがこのリクエストを受信します。
  3. IPアドレスが一致するホストBが、自身のMACアドレスを含むARPリプライをホストAに送信します。
  4. ホストAは、受信したMACアドレスをARPキャッシュに保存し、以降の通信に使用します。

例題2:VLANの利点

Q: 企業ネットワークにVLANを導入することの主な利点を3つ挙げてください。

A: VLANの主な利点は以下の通りです:

  1. セキュリティの向上:部門ごとにネットワークを分離し、不必要なアクセスを制限できます。
  2. パフォーマンスの最適化:ブロードキャストドメインを制限し、ネットワークの負荷を軽減できます。
  3. 柔軟なネットワーク設計:物理的な配線を変更せずに、論理的なネットワーク構成を変更できます。

5. まとめ

 データリンク層のプロトコルは、TCP/IPネットワークの基盤を支える重要な要素です。ARPやRARPはアドレス解決を、PPPやPPPoEは接続の確立と管理を、VLANとIEEE 802.1Qは論理的なネットワーク分割を担当しています。これらのプロトコルの理解は、ネットワークの設計、運用、トラブルシューティングにおいて不可欠です。