2.2. 伝送方式と回線

1. 概要

 ネットワーク通信において、伝送方式と回線は基盤となる重要な要素です。これらの要素を正しく理解することは、効率的で信頼性の高いデータ通信システムの設計・運用に欠かせません。たとえば、企業が拠点間でデータをやり取りする場合、どの回線を選ぶかによって通信速度やコスト、セキュリティが大きく変わります。本記事では、回線の種類、通信方式、交換方式の種類と特徴について解説し、その応用例についても紹介します。

2. 詳細説明

2.1. 回線の種類

 ネットワーク通信で使用される回線には、いくつかの種類があります。それぞれの回線には特有の利点と欠点があり、使用目的によって適したものを選ぶ必要があります。

2.1.1. 公衆回線

 公衆回線は、電話会社などが提供する一般向けの通信回線です。広く利用可能で、インフラが既に整っているため導入コストが低いですが、セキュリティ面での考慮が必要です。たとえば、インターネットカフェや公共のWi-Fiを通じてインターネットに接続する場合、公衆回線を使用していると言えます。

2.1.2. 専用線

 専用線は、特定の利用者専用に設けられた回線です。安定した通信速度と高いセキュリティが特徴ですが、導入および運用コストが高くなる傾向があります。たとえば、大規模な企業が本社と支社間で機密データをやり取りする際に利用されます。

2.1.3. 電力線通信(PLC)

 電力線通信は、既存の電力線を利用してデータ通信を行う技術です。新たな配線工事が不要という利点がある一方で、電気ノイズの影響を受けやすく、通信品質が不安定になる可能性があります。家庭内ネットワークの一部で利用されることが多い技術です。

2.2. 通信方式

 通信方式は、データがどのように送受信されるかを定義するものです。以下の3つが一般的です。

2.2.1. 単方向通信

 単方向通信は、データが一方向にのみ流れる通信方式です。シンプルである反面、情報の確認やフィードバックが必要な場合には適していません。たとえば、テレビ放送やラジオ放送がこの方式に該当します。

2.2.2. 半二重通信

 半二重通信は、双方向の通信が可能ですが、同時に一方向のみの通信となります。無線機やウォーキートーキーで利用されている方式で、話すときと聞くときで通信の方向を切り替えます。

2.2.3. 全二重通信

 全二重通信は、双方向で同時に通信が可能な方式です。たとえば、電話や多くのインターネット回線が全二重通信を利用しています。この方式では、送信と受信を同時に行えるため、効率的なコミュニケーションが可能です。

2.3. 交換方式

 通信の制御方法として、以下の2つの交換方式があります。

2.3.1. 回線交換

 回線交換は、通信の都度、送信元から宛先まで物理的な回線を接続する方式です。電話網で広く使用されており、接続が確立されるまでに時間がかかることがありますが、接続が確立すると専用の通信路が確保されるため、安定した通信が可能です。

2.3.2. パケット交換

 パケット交換は、データを小さな単位(パケット)に分割して送信する方式です。各パケットは、独立して最適な経路を通って宛先に到達し、受信側で再構築されます。インターネットの基盤技術として広く採用され、効率的なデータ通信が可能です。

2.4. 多重化技術

 多重化技術は、限られた通信資源を効率的に利用するための技術です。以下に代表的な技術を紹介します。

2.4.1. WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)

 WDMは、光ファイバー通信で異なる波長の光を用いて複数の信号を同時に伝送する技術です。これにより、大容量通信を実現し、既存の光ファイバーインフラの有効活用が可能になります。

2.4.2. TDMA(Time Division Multiple Access:時分割多元接続)

 TDMAは、一つの通信チャネルを時間で分割し、複数の通信を行う技術です。携帯電話システムなどで利用され、限られた周波数帯域を効率的に利用します。

3. 応用例

3.1. インターネットサービスプロバイダー(ISP)の回線提供

 ISPは、公衆回線や専用線を用いて、一般家庭や企業にインターネット接続サービスを提供しています。パケット交換方式を採用することで、効率的なデータ通信を実現し、多数のユーザーが同時にインターネットを利用できるようにしています。

3.2. 携帯電話ネットワーク

 携帯電話ネットワークでは、TDMAなどの多重化技術を用いて、限られた周波数帯域で多数のユーザーが同時に通信できるようにしています。また、回線交換方式を利用して、音声通話の品質を確保しています。

3.3. 企業内ネットワーク

 大規模企業では、セキュリティと安定性を重視して専用線を利用したネットワークを構築し、拠点間の通信を行っています。これにより、データの漏洩リスクを最小限に抑えながら、効率的な業務運用を支えています。

4. 例題

例題1

Q: 次の中から、双方向同時通信が可能な通信方式を選びなさい。
a) 単方向通信
b) 半二重通信
c) 全二重通信
d) パケット交換

A: 正解は c) 全二重通信 です。全二重通信は、双方向で同時にデータの送受信が可能な通信方式です。

例題2

Q: WDM(波長分割多重)技術の主な利点を説明しなさい。

A: WDM技術の主な利点は、1本の光ファイバーで複数の異なる波長の光信号を同時に伝送できることです。これにより、既存の光ファイバーインフラを活用しながら、通信容量を大幅に増加させることができます。

例題3

Q: 電力線通信(PLC)の特徴と課題について述べなさい。

A: 電力線通信(PLC)の特徴は、既存の電力線をデータ通信に利用できるため、新たな配線工事が不要な点です。一方、課題としては電気ノイズの影響を受けやすく、通信品質が不安定になる可能性があることが挙げられます。

5. まとめ

 本記事では、ネットワークにおける伝送方式と回線について解説しました。主要なポイントは以下の通りです:

  1. 回線の種類には公衆回線、専用線、電力線通信(PLC)などがあり、それぞれ特徴が異なります。
  2. 通信方式には

単方向、半二重、全二重があり、用途に応じて選択されます。

  1. 交換方式には回線交換とパケット交換があり、現代のネットワークではパケット交換が主流です。
  2. WDMやTDMAなどの多重化技術により、効率的な通信が可能になっています。