1.2.4. データセキュリティ

1. 概要

 データベース管理システム(DBMS)におけるデータセキュリティは、複数のユーザーがデータを共有する際に、データの機密性、完全性、可用性を確保するための重要な機能です。データセキュリティは、不正アクセスや改ざん、データの損失などから情報を保護し、組織の資産を守る上で欠かせない要素となっています。本記事では、データベースのデータセキュリティに関連する主要な技術とその実用例について解説します。

2. 詳細説明

2.1. トランザクション管理

 トランザクションは、データベースに対する一連の操作を一つの処理単位として扱うもので、データの整合性と信頼性を確保するために不可欠な概念です。トランザクション管理により、データの一貫性を保ち、複数のユーザーが同時にデータにアクセスする際の競合を防ぐことが可能です。

2.1.1. ACID特性

 トランザクションは以下のACID特性を満たす必要があります:

  • Atomicity(原子性): トランザクション全体が一つのまとまりとして扱われ、全て成功するか、全て失敗するかのどちらかであること。
  • Consistency(一貫性): トランザクション実行の前後でデータベースの整合性が保たれること。
  • Isolation(独立性): 複数のトランザクションが同時に実行されても、それぞれが独立して動作し、相互に影響を与えないこと。
  • Durability(永続性): 完了したトランザクションの結果が永続的に保存されること。

2.2. 同時実行制御

 データベースは、複数のトランザクションが同時に実行される環境で動作することが多く、これを管理するための「同時実行制御」が必要です。

2.2.1. ロック機構

 ロックは、データの整合性を保つために重要な仕組みで、複数のトランザクションが同時にデータにアクセスする際に適用されます。主に以下の2種類があります:

  • 共有ロック(読み取りロック): 他のトランザクションによる読み取りは許可するが、書き込みは禁止する。
  • 排他ロック(書き込みロック): 他のトランザクションによる読み取りと書き込みの両方を禁止する。

2.2.2. デッドロック

 デッドロックは、複数のトランザクションが互いに相手が保持しているロックの解放を待ち続ける状態です。この状態が発生すると、システム全体が停止する可能性があるため、DBMSはデッドロックを検出し、一方のトランザクションを強制終了するなどの対策を講じます。

2.3. アクセス制御

 アクセス制御は、ユーザーごとにデータベースへのアクセス権限を設定し、不正なアクセスを防ぐ機能です。主な方式として以下があります:

  • ユーザー認証: ユーザーIDとパスワードによる認証を行い、正規のユーザーのみアクセスを許可します。
  • 権限管理: ユーザーやグループごとに、テーブルやビューへのアクセス権限を設定します。

2.4. データ辞書

 データ辞書は、データベースの構造や定義情報を管理するシステムで、セキュリティ関連では以下の情報を管理します:

  • ユーザーアカウント情報
  • アクセス権限の設定
  • 監査ログの設定

3. 応用例

3.1. 銀行システム

 銀行のオンラインバンキングシステムでは、顧客の口座情報や取引履歴を保護するために、厳重なデータセキュリティ対策が実施されています。たとえば、送金処理におけるトランザクション管理を用いてデータの一貫性を保証し、ロック機構により複数の顧客が同時に操作してもデータの競合が起こらないようにしています。また、アクセス制御では、多段階認証(パスワード、OTP、バイオメトリクスなど)を導入し、不正アクセスのリスクを最小限に抑えています。

3.2. 医療情報システム

 病院の電子カルテシステムでは、患者の個人情報や診療記録を保護するために、データ辞書を活用して、職種ごとにアクセスできる情報を制限しています。例えば、医師は診療記録全体にアクセスできる一方、事務職員は会計関連の情報のみ閲覧可能とするなど、細かな権限設定がなされています。さらに、監査ログ機能により、誰がいつどの情報にアクセスしたかを記録し、万が一の不正なアクセスを速やかに検出できるようにしています。

4. 例題

例題1

問題:トランザクションのACID特性について、以下の説明が正しいものには○、誤っているものには×をつけてください。

  1. Atomicity(原子性)は、トランザクションの処理が部分的に成功することを許容する。
  2. Consistency(一貫性)は、トランザクション実行前後でデータベースの整合性が保たれることを意味する。
  3. Isolation(独立性)により、複数のトランザクションが同時に実行されても、それぞれが独立して動作する。
  4. Durability(永続性)は、完了したトランザクションの結果が一時的にのみ保存されることを意味する。

回答:

  1. ×
  2. ×

解説:

  1. Atomicityは、トランザクションの処理が全て成功するか、全て失敗するかのどちらかであることを要求します。
  2. 正しい説明です。
  3. 正しい説明です。
  4. Durabilityは、完了したトランザクションの結果が永続的に保存されることを意味します。

例題2

問題:データベースの同時実行制御に関する以下の文章の空欄を埋めてください。

データベースの同時実行制御において、複数のトランザクションが互いに相手が保持している( A )の解放を待ち続ける状態を( B )と呼びます。この状態を検出し、対策を講じるのは( C )の役割です。

回答:
A: ロック
B: デッドロック
C: データベース管理システム(DBMS)

解説:
複数のトランザクションが互いにロックの解放を待ち続ける状態をデッドロックと呼びます。DBMSはデッドロック検出機能を持ち、発生時には一方のトランザクションを強制終了するなどの対策を行います。

5. まとめ

 データセキュリティは、データベース管理システムにおいて非常に重要な機能です。トランザクション管理、ロック機構、アクセス制御、データ辞書などの技術を組み合わせることで、データの機密性、完全性、可用性を確保します。ACID特性を満たすトランザクション処理や、適切な同時実行制御により、複数のユーザーが安全にデータを共有できる環境を実現しています。