1. 概要
集中処理システムとは、コンピュータシステムの処理形態の一つであり、データ処理や計算処理などのコンピュータリソースを一箇所に集中させて管理・運用するシステム形態です。このシステムでは、中央のコンピュータが全ての処理を担当し、周辺の端末は入出力装置として機能します。集中処理システムは、企業や組織のIT基盤として長い歴史を持ち、特に大規模なデータ処理や重要な業務処理において、今日でも重要な役割を果たしています。
2. 詳細説明
2.1. 集中処理システムの基本構成
集中処理システムは、中央に強力な処理能力を持つメインコンピュータ(ホストコンピュータやサーバー)を配置し、そこに複数の端末(クライアント)が接続される形で構成されます。端末は主に入力と出力を担当し、実際の処理はすべて中央のコンピュータで行われます。このような構成により、集中管理が可能になり、システム全体の一貫性を保つことができます。
graph LR T1[端末1] --> N T2[端末2] --> N T3[端末3] --> N T4[端末4] --> N T5[端末5] --> N N[ネットワーク] --> C[中央コンピュータ/サーバー] C --> R[共有リソース (データベースなど)] classDef terminal fill:#d5e8d4,stroke:#82b366; classDef network fill:#dae8fc,stroke:#6c8ebf; classDef server fill:#f8cecc,stroke:#b85450; classDef resource fill:#fff2cc,stroke:#d6b656; class T1,T2,T3,T4,T5 terminal; class N network; class C server; class R resource;
図1:集中処理システムの基本構成
2.2. 集中処理システムの特徴
2.2.1. メリット
集中処理システムには、以下のようなメリットがあります:
- 管理の一元化: すべての処理が中央で行われるため、システム管理が容易になります。また、保守要員の集中化によって、専門知識を持つ技術者を効率的に配置できます。
- 統一的な運用・管理基準の適用が容易: システム全体に対して統一したセキュリティポリシーやバックアップ体制などの運用基準を適用しやすくなります。
- 高いセキュリティ: データやアプリケーションが一箇所に集中しているため、セキュリティ対策を集中的に実施できます。アクセス制御やデータバックアップなどの管理も効率的に行えます。
- リソースの効率的な利用: コンピュータリソースを集中させることで、コスト性能比の向上が期待できます。高性能な中央コンピュータを共有することで、個々の端末のスペックを抑えることも可能です。
- データの一貫性: データベースなどの共有リソースが一箇所に集中しているため、データの整合性や一貫性を保ちやすくなります。
2.2.2. デメリット
一方で、以下のようなデメリットも存在します:
- 単一障害点: 中央コンピュータに障害が発生した場合、システム全体が停止するリスクがあります。
- ネットワーク負荷: 全ての処理が中央で行われるため、ネットワークに大きな負荷がかかる可能性があります。特に利用者が増加すると、レスポンス時間の低下を招くことがあります。
- 拡張性の制約: システム全体の処理能力は中央コンピュータの性能に依存するため、急激な負荷増加に対応しづらい面があります。
2.3. 集中処理システムと分散処理システムの比較
集中処理システムの対義語として、分散処理システムがあります。分散処理システムでは、処理能力やデータが複数のコンピュータに分散され、各コンピュータが協調して動作します。
graph TD subgraph 集中処理システム T1[端末] --> C T2[端末] --> C T3[端末] --> C T4[端末] --> C T5[端末] --> C C[中央コンピュータ] end subgraph 分散処理システム C1[コンピュータ1] <--> C2 C1 <--> C3 C1 <--> C4 C2[コンピュータ2] <--> C3 C2 <--> C5 C3[コンピュータ3] <--> C4 C3 <--> C5 C4[コンピュータ4] <--> C5 C5[コンピュータ5] end classDef terminal fill:#d5e8d4,stroke:#82b366; classDef centralized fill:#f8cecc,stroke:#b85450; classDef distributed fill:#dae8fc,stroke:#6c8ebf; class T1,T2,T3,T4,T5 terminal; class C centralized; class C1,C2,C3,C4,C5 distributed;
図2:集中処理システムと分散処理システムの比較
特性 | 集中処理システム | 分散処理システム |
---|---|---|
処理の場所 | 中央のコンピュータ | 複数のコンピュータに分散 |
管理の容易さ | 比較的容易 | 複雑になりがち |
障害耐性 | 低い(単一障害点あり) | 高い(冗長性あり) |
コスト性能比 | 初期投資は高いが長期的には効率的 | 初期投資は分散するが管理コストが高まる場合も |
拡張性 | 制約あり | 高い |
運用コスト | 保守要員の集中化により低減 | 広範なスキル要求により高くなる傾向 |
データの一貫性 | 確保しやすい | 確保に工夫が必要 |
レスポンス時間 | 利用者増加で低下の可能性 | 局所的処理で安定しやすい |
表1:集中処理システムと分散処理システムの特性比較
3. 応用例
3.1. 企業の基幹システム
多くの企業では、財務管理、人事管理、在庫管理などの重要な業務処理を集中処理システムで行っています。特に、トランザクション処理が重要な銀行や保険会社などの金融機関では、データの一貫性と高いセキュリティが求められるため、集中処理システムが広く採用されています。
具体的な実装例としては、以下のようなものがあります:
- 銀行の勘定系システム: 口座残高管理や資金移動などの重要なトランザクションを、メインフレームなどの高性能・高信頼性の中央コンピュータで一元的に処理
- ERP(Enterprise Resource Planning)システム: 人事、財務、購買、生産、物流などの業務を統合的に管理するシステムをデータセンターの集中サーバーで運用
- 保険会社の契約管理システム: 大量の保険契約データを一元管理し、契約管理から支払い処理までを集中的に処理
3.2. 大規模データベースシステム
顧客情報や取引データなど、大量のデータを一元管理する必要がある場合、集中処理システムが効果的です。データウェアハウスや企業の統合データベースなどでは、データの整合性を保ちながら効率的な処理を行うために集中処理方式が採用されることが多いです。
このような集中型データベース環境では、データのバックアップや復旧が容易であり、また、データの一貫性を保つためのトランザクション管理も効率的に行うことができます。集中管理によるコスト性能比の向上も大きなメリットとなっています。
3.3. クラウドコンピューティング
現代のクラウドサービスは、集中処理の概念を発展させたものと考えることができます。クラウドプロバイダーは大規模なデータセンターにコンピューティングリソースを集中させ、多数のユーザーにサービスを提供しています。これにより、ユーザーは高性能なコンピュータリソースを必要に応じて利用でき、コスト性能比の向上が実現されています。
クラウドコンピューティングのサービス形態と集中処理の関連性は以下の通りです:
- IaaS(Infrastructure as a Service): 仮想マシンやストレージなどのインフラリソースを集中管理し、必要に応じて提供
- PaaS(Platform as a Service): アプリケーション実行環境を集中管理し、開発者に提供
- SaaS(Software as a Service): アプリケーションそのものを集中管理し、ユーザーに提供
こうしたクラウドサービスでは、保守要員の集中化による運用効率の向上も実現されています。
4. 例題
例題1
集中処理システムの特徴として、最も適切なものを次の中から選びなさい。
- 処理能力が分散されているため、障害に強い
- 保守要員の集中化によって、効率的な運用が可能である
- クライアント側で主要な処理を行うため、ネットワーク負荷が小さい
- システムの拡張性が高く、急激な負荷増加にも柔軟に対応できる
【解答】b
【解説】集中処理システムでは、保守要員を一箇所に集中させることができるため、効率的な運用が可能になります。a は分散処理システムの特徴、c はクライアントサーバーシステムの特徴、d は分散処理システムの特徴です。
例題2
ある企業が新しい基幹システムを導入する際、集中処理システムを採用する理由として最も適切なものを選びなさい。
- 各部門が独立してシステムを構築できるため
- ネットワークに障害が発生しても業務を継続できるため
- データの一貫性を保ちやすく、セキュリティ対策が効率的に実施できるため
- システムの負荷に応じて、柔軟にリソースを追加できるため
【解答】c
【解説】集中処理システムでは、データが一箇所に集中しているため、データの一貫性を保ちやすく、セキュリティ対策も効率的に実施できます。a、b、d はいずれも集中処理システムの特徴ではなく、むしろ分散処理システムの特徴に近いものです。
例題3
ある企業が集中処理システムと分散処理システムのコスト性能比を比較する際の状況を考えなさい。初期投資費用として、集中処理システムでは中央コンピュータに2,000万円、50台の端末に各10万円の費用がかかる。一方、分散処理システムでは各50台のコンピュータに各50万円の費用がかかる。また、年間運用コストは集中処理システムが800万円、分散処理システムが1,200万円である。5年間の総コストが安いのはどちらか、また、その差額はいくらか。
【解答】集中処理システムの方が500万円安い 【解説】 集中処理システム:
- 初期投資 = 2,000万円 + (10万円 × 50台) = 2,500万円
- 5年間の運用コスト = 800万円 × 5年 = 4,000万円
- 総コスト = 2,500万円 + 4,000万円 = 6,500万円
分散処理システム:
- 初期投資 = 50万円 × 50台 = 2,500万円
- 5年間の運用コスト = 1,200万円 × 5年 = 6,000万円
- 総コスト = 2,500万円 + 6,000万円 = 7,000万円
差額 = 7,000万円 – 6,500万円 = 500万円
このように、初期投資は同額でも、保守要員の集中化などにより運用コストが低減される集中処理システムの方が長期的にはコスト性能比が優れる場合があります。
5. まとめ
集中処理システムは、コンピュータリソースを一箇所に集中させて管理・運用するシステム形態です。その主な特徴として、管理の一元化、高いセキュリティ、リソースの効率的な利用(コスト性能比の向上)、データの一貫性などが挙げられます。また、保守要員の集中化によって、専門知識を持つ技術者を効率的に配置できるというメリットもあります。
一方で、単一障害点の存在、ネットワーク負荷の増大、拡張性の制約などのデメリットも存在します。企業の基幹システムや大規模データベースシステム、現代のクラウドコンピューティングなど、データの一貫性や高いセキュリティが求められる場面で広く採用されています。
最近の動向としては、クラウドコンピューティングの普及により、集中処理の概念が進化し続けています。特に、マイクロサービスアーキテクチャを採用したハイブリッドシステムが増加しており、集中処理と分散処理の長所を組み合わせた柔軟なシステム構成が注目されています。
集中処理システムと分散処理システムはそれぞれに特徴があり、システム要件や運用環境に応じて適切な形態を選択することが重要です。特に、情報処理技術者としては、これらの特徴を理解し、システム設計時に適切な判断ができるようになることが求められます。