目的と用語例
リスクの対象群が含むプロセスに関連するツールと技法などを理解する。
用語例
リスクの定性的分析技法,リスクの定量的分析技法,感度分析,脅威への戦略,好機への戦略, コンティンジェンシー対応戦略, RBS ( Risk Breakdown Structure:リスクブレークダウンストラクチャ)
1. 概要
プロジェクトマネジメントにおいて、リスクマネジメントは重要な要素の一つです。リスクを適切に特定し、分析し、対応するためには、体系的なツールと技法の活用が不可欠です。本記事では、リスクマネジメントで使用される主要なツールと技法について、具体例や図表を交えながら解説します。
2. 詳細説明
2.1. リスクの分析技法
2.1.1. リスクの定性的分析技法
定性的分析では、リスクの発生確率と影響度を質的な尺度(高・中・低など)で評価します。この手法は、簡便で迅速な分析に適しており、リスクの優先順位付けに役立ちます。主な技法には以下があります:
- リスク確率影響マトリックス:発生確率と影響度をマトリックス上にプロットしてリスクの優先度を可視化する技法です(図1参照)。
- リスクデータ品質評価:収集したデータの信頼性や精度を評価する技法です。
- リスクカテゴリー評価:リスクをカテゴリー別に分類し、評価を行います。
図1. リスク確率影響マトリックス
2.1.2. リスクの定量的分析技法
定量的分析では、リスクを数値化して評価します。この手法は、リスクの経済的影響や総合的なリスク量を明確にするのに役立ちます。
- 期待金銭価値(EMV)分析:発生確率と影響額を掛け合わせてリスクの期待値を算出します。
- モンテカルロシミュレーション:プロジェクトスケジュールやコストへの影響を複数回のシミュレーションで評価します。
- 感度分析:個々のリスク要因がプロジェクト目標に与える影響度を数値的に分析します(図2参照)。
図2. 感度分析の例
2.2. リスク対応戦略
2.2.1. 脅威への戦略
ネガティブなリスク(脅威)への主な戦略:
- 回避:リスクの原因を取り除き、発生そのものを防ぎます。
- 軽減:リスクの影響度または発生確率を下げます。
- 転嫁:契約や保険を通じてリスクを第三者に移転します。
- 受容:リスクをそのまま受け入れる方法です。特定の対策がコスト的に見合わない場合に用います。
2.2.2. 好機への戦略
ポジティブなリスク(好機)への主な戦略:
- 活用:好機を確実に実現させます。
- 共有:好機を第三者と共有することで、価値を最大化します。
- 向上:発生確率や影響を増大させる手法です。
2.2.3. コンティンジェンシー対応戦略
リスクが顕在化した際の代替的な対応策を事前に準備します。予備費の確保や代替計画の策定などが該当します。
2.3. RBS(Risk Breakdown Structure)
RBSは、リスクを体系的に分類・整理するための階層構造で、リスクの全体像を把握しやすくします(図3参照)。プロジェクトの技術的リスク、管理的リスク、商業的リスクなどを整理することで、特定しやすくなります。
図3. RBSの例
3. 応用例
3.1. システム開発プロジェクトでの活用例
- RBSを活用:技術的リスクと管理的リスクを整理し、優先順位を設定。
- 感度分析:重要な開発工程のリスク評価を実施。
- コンティンジェンシー対応:代替ベンダーを事前に確保し、リスク発生時に備えました。
3.2. 建設プロジェクトでの活用例
- 定量的分析:工期遅延リスクをモンテカルロシミュレーションで評価。
- 転嫁戦略:天候リスクに対する保険を採用。
- 予備費確保:予算超過リスクに対応。
4. 例題
例題1
問題:以下のリスクが識別されました。どちらのリスクが優先度が高いか、EMVを用いて判断してください。
- リスクA:主要な開発者の離職(発生確率30%、影響度500万円)
- リスクB:要件の大幅な変更(発生確率50%、影響度300万円)
解答
- リスクAのEMV = 0.3 × 500万円 = 150万円
- リスクBのEMV = 0.5 × 300万円 = 150万円
- EMVは同じですが、リスクAの影響度が大きいため、優先度が高いと判断します。
例題2
問題:特定された「重要なハードウェアの納期遅延」に対して、最適な対応戦略を選択してください。
a) 代替ベンダーを確保する(回避)
b) 納期保証契約を結ぶ(転嫁)
c) 早期発注を行う(軽減)
d) 遅延を受け入れる(受容)
解答と解説
回答:
b) 納期保証契約を結ぶ(転嫁)
解説:納期遅延のリスクをベンダーに転嫁することで、損失を補償してもらうことが可能です。
5. まとめ
プロジェクトのリスクマネジメントでは、適切なツールと技法を選択することが重要です。定性的分析と定量的分析、RBSを活用し、リスクを体系的に管理することで、効果的なリスクマネジメントが実現します。また、コンティンジェンシー対応戦略を準備し、リスクが顕在化した際に迅速な対応が可能となるよう備えることが、成功の鍵となります。