4.1. 構成管理

1. 概要

 構成管理は、ソフトウェア開発における重要な管理技術の一つです。開発プロジェクトでは、ソースコード、ドキュメント、テストデータなどの多様な構成品目が生成されます。これらの品目が複雑に組み合わさり、ソフトウェア全体を形成します。構成管理を適切に行うことで、プロジェクトの進捗を把握しやすくなり、品質の向上、手戻りの防止、納期遵守が可能になります。

2. 詳細説明

2.1. ソフトウェア構成管理(SCM: Software Configuration Management)

 ソフトウェア構成管理は、ソフトウェアの開発ライフサイクル全体にわたって、構成品目を識別し、制御し、状態を報告し、完全性を検証するプロセスです。これにより、トレーサビリティが確保され、責任の所在が明確になり、監査にも対応できるようになります。

2.2. ソフトウェア構成品目(SCI: Software Configuration Item)

 ソフトウェア構成品目は、管理対象となる個別の項目を指します。以下がその具体例です:

  • ソースコード
  • 実行可能ファイル
  • 設計書、仕様書などのドキュメント
  • テストデータ
  • ユーザーマニュアル

2.3. SLCP(Software Life Cycle Process)

 SLCPは、ソフトウェア開発から保守までの各フェーズで実施される一連のプロセスを定義したモデルです。構成管理は、SLCPの各フェーズで異なる役割を果たします。例えば、開発フェーズではバージョン管理が重要視され、保守フェーズでは変更管理が優先されます。

graph TD
    A[企画] --> B[要件定義]
    B --> C[設計]
    C --> D[実装]
    D --> E[テスト]
    E --> F[リリース]
    F --> G[運用・保守]
    
    A1[構成計画] --> A
    B1[要件管理] --> B
    C1[設計管理] --> C
    D1[バージョン管理] --> D
    E1[ビルド管理] --> E
    F1[リリース管理] --> F
    G1[変更管理] --> G

図1:SLCPにおける構成管理のフェーズと役割

2.4. 構成管理計画

 構成管理計画は、プロジェクト全体にわたる構成管理の方針と手順を定めた文書です。主な要素は以下の通りです:

  • 管理対象となる構成品目の定義
  • 版数管理(バージョン管理)の手順
  • 変更管理プロセスの策定
  • 構成管理ツールの選定と使用方法
  • 構成監査の実施方針
項目説明
管理対象品目構成管理の対象となる成果物の定義
版数管理バージョン番号の付与規則、管理方法
変更管理変更要求の受付から承認までのプロセス
ツール選定使用する構成管理ツールとその運用方法
構成監査構成品目の完全性を確認する方法と頻度

表1:構成管理計画の主要項目

2.5. ベースライン

 ベースラインとは、ソフトウェア開発の特定の時点で正式に承認された構成品目の集合です。開発フェーズや設計フェーズなど、各段階ごとに設定されます。以下がその特徴です:

  • 進捗を測る基準点となる
  • 変更管理の出発点となる
  • プロジェクトの重要なマイルストーンを示す

3. 応用例

3.1. バージョン管理システムの活用

 GitやSubversionを使用することで、ソースコードのバージョン管理が可能です。例えば、Gitではブランチを用いた分岐管理が可能で、開発者は並行して作業ができます。また、リリース管理のためにタグを使うことで、特定のバージョンにアクセスしやすくなります。

3.2. CIツールの導入

 JenkinsやTeamCityといった継続的インテグレーション(CI)ツールは、ビルド、テスト、デプロイを自動化し、品質を維持しながら開発速度を向上させます。

3.3. クラウドベースの構成管理

 AWS CodeCommitやMicrosoft Azure DevOpsは、クラウド上での構成管理をサポートします。これにより、地理的に分散したチームでも効率的に協業が可能です。DevOpsプラクティスとの連携により、迅速なデプロイが実現します。

4. 例題

例題1

問題: ソフトウェア構成管理の主な目的として、最も適切なものを選びなさい。
A) プログラマのコーディング効率を向上させる
B) ソフトウェアの構成品目を識別し、その変更を管理する
C) ソフトウェアの機能を拡張する
D) ユーザーインターフェースを改善する

解答: B
解説: ソフトウェア構成管理は、構成品目を適切に識別し、その変更を管理することを目的としています。これにより、ソフトウェアの整合性が保たれ、品質が向上します。

例題2

問題: 以下の記述のうち、ベースラインの説明として正しいものはどれか。
A) プロジェクト開始時に一度だけ設定される不変の基準点
B) プロジェクト終了時に設定される最終的な成果物の集合
C) 開発の特定時点で正式に承認された構成品目の集合
D) 個々の開発者が自由に設定できる作業の区切り

解答: C
解説: ベースラインは、プロジェクトの進捗を管理し、変更を制御するための基準点です。設計、開発、テストなど、異なるフェーズごとに設定されます。

5. まとめ

 構成管理は、ソフトウェア開発プロジェクトにおいて不可欠な技術です。

  1. 構成管理の目的は、ソフトウェアの構成品目を識別し、効率的に管理することです。
  2. ソフトウェア構成品目には、ソースコードやテストデータ、ドキュメントなどが含まれます。
  3. SLCPの各フェーズにおける構成管理の役割を理解することが重要です。
  4. 構成管理計画では、管理対象や手順、ツールの使用方針が定義されます。
  5. ベースラインは、開発の進捗管理や変更管理の基準点として重要です。

 これらの概念を理解し、実践することで、品質の高いソフトウェア開発が実現します。