<< 1.2.4. 木構造
1. 概要
アルゴリズムとは、問題を解決するための手順や処理方法を論理的に記述したものです。アルゴリズムを表現する方法の一つとして「流れ図(フローチャート)」があります。流れ図は処理の手順や流れを視覚的に表現するための図解手法であり、プログラムを作成する前の設計段階や、複雑な処理手順を他者に説明する際に非常に有用です。
応用情報処理技術者試験では、アルゴリズムの基本概念を理解し、それを流れ図として適切に表現できる能力が求められます。流れ図は、処理の開始から終了までの流れを一連の記号と線で表し、各処理ステップ間の関係性を明確にします。
2. 詳細説明
2.1. 流れ図の基本記号
流れ図では、以下の基本記号が用いられます:
- 端子(ターミネータ) – 処理の開始と終了を表します。楕円形で表現されます。
- 処理(プロセス) – データの加工や計算などの処理を表します。長方形で表現されます。
- 判断(ディシジョン) – 条件分岐を表します。菱形で表現され、通常「Yes/No」または「真/偽」の二つの出口があります。
- 定義済み処理 – 別途定義された一連の処理(サブルーチンなど)を表します。長方形の両側に縦線を加えた形で表現されます。
- データ – 入出力操作を表します。平行四辺形で表現されます。
- 結合子 – 流れ図の別の場所への接続点を表します。円形で表現されることが多いです。
これらの記号は線で結ばれ、処理の流れを示します。線の流れは基本的に上から下、左から右へと向かいます。
※ JIS規格では「ループ端」という独立した記号はなく、繰り返し処理は通常の記号と制御線の組み合わせで表現されます。
図1: 流れ図の基本記号一覧
2.2. 流れ図の基本構造
流れ図の基本構造として、以下の3つのパターンがあります:
2.2.1. 順次構造
処理が順番に実行される最も基本的な構造です。一つの処理が終わると次の処理へと進みます。
2.2.2. 選択構造(分岐)
条件に基づいて処理の流れが分かれる構造です。判断記号を用いて表現され、条件が真の場合と偽の場合で異なる処理が実行されます。
2.2.3. 反復構造(ループ)
特定の条件が満たされるまで処理を繰り返す構造です。以下の2種類があります:
- 前判定ループ:条件を先に判断してから処理を実行するループ
- 後判定ループ:処理を実行してから条件を判断するループ
図2: 流れ図の基本構造
2.3. フローチャート記号の規格
フローチャートの記号には、JIS規格、ISO規格などがあります。それぞれの規格で若干の違いがありますが、基本的な考え方は共通しています。応用情報処理技術者試験では、主にJIS規格に基づいた記号が使用されます。
記号の名称 | JIS規格 | ISO規格 | 主な用途 |
---|---|---|---|
端子 (ターミネータ) | プログラムの開始と終了 | ||
処理 (プロセス) | 演算や代入など | ||
判断 (ディシジョン) | 条件分岐 | ||
データ (入出力) | データの入出力 | ||
定義済み処理 | サブルーチンや関数 | ||
結合子 (コネクタ) | フローの接続点 | ||
手動操作 | 手動による処理 | ||
ドキュメント | 帳票や文書の出力 |
※ JIS X 0121:1986 (ISO 5807:1985) に基づく記号です。業界や組織によって一部記号の使用方法が異なる場合があります。
表1: フローチャート記号の規格比較
処理の流れを示すことで、プログラムの設計や理解を容易にします。
3. 応用例
3.1. ソフトウェア開発プロセスでの応用
実際のソフトウェア開発では、プログラムを作成する前の設計段階で流れ図を使用します。例えば、ウェブアプリケーションのログイン機能を実装する場合、ユーザー認証のプロセスを流れ図として表現することで、セキュリティ上の考慮点や異常系の処理を漏れなく設計することができます。
大規模なシステム開発では、システム全体を複数のモジュールに分割し、それぞれのモジュールの処理を流れ図で表現することで、開発チーム間のコミュニケーションツールとしても活用されます。また、ソフトウェアのメンテナンス段階では、既存の処理の流れを理解するための資料としても有用です。
図3: 実務で使用される流れ図の例(ユーザー認証処理)
3.2. ビジネスプロセスの改善
業務フローの改善やシステム導入時の業務分析においても流れ図は活用されます。例えば、受注から出荷までの業務プロセスを流れ図として可視化することで、承認プロセスの冗長性や情報伝達の非効率性など、業務上の問題点を特定しやすくなります。
また、新しいシステムを導入する際には、現行の業務フローと新システム導入後の業務フローを流れ図で比較することで、変更点を明確にし、ユーザートレーニングの効率化につなげることができます。
3.3. アルゴリズム学習での応用
プログラミング初学者にとって、流れ図はアルゴリズムの基本的な考え方を学ぶ上で非常に有効です。例えば、ソート(整列)アルゴリズムを学習する際、バブルソートやクイックソートなどの処理手順を流れ図として表現することで、アルゴリズムの動作原理を視覚的に理解することができます。
また、複雑な再帰処理や探索アルゴリズムも、流れ図を用いることで論理的に整理しやすくなります。これにより、コードを書く前にアルゴリズムを整理する習慣を身につけることができ、効率的なプログラミングスキルの習得につながります。
4. 例題
例題1:簡単な計算アルゴリズム
2つの数値を入力し、その合計と平均を出力するアルゴリズムの流れ図を作成してください。
flowchart TD A(開始) --> B[/数値A、Bを入力/] B --> C[合計 = A + B] C --> D[平均 = 合計 ÷ 2] D --> E[/合計と平均を出力/] E --> F(終了)
例題1:合計と平均を計算する流れ図
この流れ図では、まず開始端子から処理が始まり、データ入力記号(平行四辺形)を使って数値A、Bを入力します。次に処理記号(長方形)を用いて合計と平均を計算し、データ出力記号で結果を出力した後、終了端子で処理を終えています。順次構造の基本的な例となっています。
例題2:条件分岐を含むアルゴリズム
入力された数値が正の値か負の値かを判定し、それに応じたメッセージを出力するアルゴリズムの流れ図を作成してください。
flowchart TD A(開始) --> B[/数値Nを入力/] B --> C{N > 0} C -->|真| D[「正の値です」を出力] C -->|偽| E[「負の値です」を出力] D --> F(終了) E --> F
例題2:正負判定の流れ図
この流れ図では、数値入力後に判断記号(菱形)を用いて条件分岐を表現しています。N > 0 の条件が真の場合は左側のフローに進み「正の値です」と出力し、偽の場合は右側のフローに進み「負の値です」と出力します。どちらの処理経路も最終的に終了端子に合流する形になっています。選択構造(分岐)の基本的な例です。
例題3:繰り返し処理を含むアルゴリズム
1から10までの整数の合計を計算するアルゴリズムの流れ図を作成してください。
flowchart TD A(開始) --> B[合計 = 0\ni = 1] B --> C{i ≤ 10} C -->|真| D[合計 = 合計 + i] D --> E[i = i + 1] E --> C C -->|偽| F[/合計を出力/] F --> G(終了)
例題3:繰り返し処理の流れ図
この流れ図では、合計とカウンタ変数iの初期化後、条件「i ≤ 10」を判断記号で評価します。条件が真の間は、合計の計算とカウンタの増加を行い、再び条件判断に戻ります。条件が偽になると(i > 10)、ループを抜けて合計を出力し、処理を終了します。結合点を用いてループの開始点を明示しています。反復構造(ループ)の基本的な例となっています。
例題4:応用情報処理技術者試験類似問題
以下の問題は、応用情報処理技術者試験で出題されるような形式の問題です。
問題:在庫管理システムにおいて、商品コードを入力して在庫数を確認し、在庫数が10個未満であれば「発注が必要です」というメッセージを表示し、それ以外の場合は在庫数のみを表示するアルゴリズムの流れ図を作成してください。
flowchart TD A(開始) --> B[/商品コード入力/] B --> C[在庫数取得] C --> D{在庫数 < 10?} D -->|真| E[「発注が必要です」\nメッセージ表示] D -->|偽| F[在庫数表示] E --> G((結合点)) F --> G G --> H(終了)
例題4:在庫管理システムの流れ図
この流れ図では、まず商品コードを入力し、それに対応する在庫数を取得します。次に判断記号で在庫数が10未満かどうかを評価し、条件が真の場合は「発注が必要です」というメッセージと在庫数を出力し、偽の場合は在庫数のみを出力します。このように実務に近い状況を想定した問題が出題されることがあります。
5. まとめ
流れ図(フローチャート)は、アルゴリズムを視覚的に表現するための重要なツールです。以下に要点をまとめます。
- 基本記号:端子、処理、判断、定義済み処理、データなどの記号を線で接続して処理の流れを表現します。
- 基本構造:
- 順次構造:処理を順番に実行
- 選択構造:条件に基づいて処理を分岐
- 反復構造:条件が満たされるまで処理を繰り返す
- 流れ図の利点:
- アルゴリズムを視覚的に理解しやすい
- プログラミング前の設計ツールとして有効
- チーム間のコミュニケーションを円滑にする
- ロジックの誤りを発見しやすい
- 実際の応用:
- ソフトウェア開発の設計段階
- ビジネスプロセスの分析・改善
- アルゴリズム教育の基礎ツール
応用情報処理技術者試験では、与えられた問題に対してアルゴリズムを考案し、それを流れ図として表現する能力が問われます。アルゴリズムの基本構造(順次・選択・反復)と流れ図の基本記号を理解し、実際に描く練習を重ねることが重要です。JIS規格に従った正確な記号の使用と、論理的なフローの構築を意識しましょう。