4.5. 信号同期方式

1. 信号同期方式とは

 信号同期方式とは、データ通信において送信側と受信側のタイミングを一致させるための重要な技術です。信号同期が正確でないと、データの送受信が正しく行われず、情報が破損したり、遅延が発生する可能性があります。特に、通信がデジタル化される現在では、正確なタイミング同期が求められています。

 信号同期は大きく分けて、「ビット同期」「キャラクター同期」「フレーム同期」という3つの階層に分類できます。本記事では、これらの基本的な同期方式と、それぞれに属するさまざまな同期技術について解説します。

2. 詳細説明

2.1. ビット同期

 ビット同期は、送信側が送信する各ビットのタイミングを受信側が正確に把握するための同期方式です。ビットの境界が明確でないと、正確なデータ復号ができません。

 ビット同期の代表的な方法は、クロック信号を使ったものです。送信側がデータ信号と一緒にクロック信号を送るか、あるいは受信側で位相同期回路(PLL)を用いてクロックを再生する方法があります。クロック信号の立ち上がりや立ち下がりのタイミングでデータを読み取ることで、安定した通信が可能になります。

2.2. キャラクター同期

 キャラクター同期は、複数のビットで構成されるデータキャラクター(例えば、ASCIIコードなど)を一つの単位として同期を取る方式です。キャラクター同期は、主に以下の2つの方式があります。

2.2.1. SYN同期

 SYN同期は、特別な同期文字(SYNキャラクター)を送信することで同期を確立する方式です。一般に、通信の開始前に複数のSYN文字を送信し、受信側がこれを検知することで同期状態に入ります。バイナリ同期通信(BSC)などで用いられます。

2.2.2. 調歩同期

 調歩同期(非同期通信とも呼ばれる)は、各キャラクターの先頭に「スタートビット」、末尾に「ストップビット」を付加することで同期を取る方式です。クロック信号を使用せず、スタートビット(通常は0)の検出で同期を開始し、データビットを読み取った後、ストップビット(通常は1)で終了を示します。UARTなどのシリアル通信で広く使用されています。

 必要に応じて、誤り検出のためのパリティビットが追加されることもあります。

2.3. フラグ同期

 フラグ同期は、特定のビットパターン(フラグ)を使ってデータフレームの開始や終了を示す同期方式です。例えば、HDLC(High-Level Data Link Control)プロトコルでは、01111110というフラグシーケンスを使用します。受信側はこのフラグを検出することでデータのフレーム境界を認識します。

 フラグシーケンスと同じパターンがデータ内に現れると誤動作の原因となるため、「ビットスタッフィング」という技術が使われます。これは、データ内に5つの連続する1が現れた場合、自動的に0を挿入(スタッフィング)し、受信側ではこの挿入された0を取り除く処理を行います。これにより、フラグパターン(01111110)がデータ内に誤って現れることを防ぎます。

2.4. フレーム同期

 フレーム同期は、データのフレーム単位での同期を行う方式です。データが一定のフレームに分割され、各フレームに同期パターンが含まれているため、受信側はこのパターンを識別して同期を行います。

 代表的な例としては、TDM(Time Division Multiplexing)のフレーム同期があります。TDMでは、複数のチャネルからのデータを時分割で多重化し、一定の時間間隔(フレーム)ごとに送信します。各フレームの先頭に同期パターンを配置することで、受信側はフレームの境界を認識できます。

3. 信号同期方式の選択基準

 適切な信号同期方式を選択するためには、以下の要素を考慮する必要があります:

  1. 通信速度:高速通信には、ビット同期やフレーム同期が適しています。調歩同期は低〜中速の通信に向いています。
  2. 信頼性:ノイズが多い環境では、頑健な同期方式が必要です。フラグ同期やフレーム同期は、再同期能力に優れています。
  3. オーバーヘッド:同期のために追加される情報量。調歩同期は各キャラクターにスタート・ストップビットが必要なためオーバーヘッドが大きくなります。
  4. 実装の複雑さとコスト:クロック回路や専用ハードウェアが必要か否か。調歩同期は比較的シンプルに実装できます。
  5. 互換性:既存のシステムやプロトコルとの互換性も考慮が必要です。

表1:信号同期方式比較表

同期方式 概要 メリット デメリット 代表的な利用例
ビット同期 クロック信号を使って送信側と受信側のビットのタイミングを同期させる
  • 高速通信に適している
  • 安定した通信が可能
  • 別途クロック線が必要な場合がある
  • 回路が複雑になりがち
  • 同期式シリアル通信
  • 高速デジタル回線
調歩同期 スタートビットとストップビットを使用してデータの開始と終了を示す
  • クロック信号が不要
  • 実装が簡単
  • 低コスト
  • オーバーヘッドが大きい
  • 高速通信には不向き
  • UARTシリアル通信
  • モデム通信
  • RS-232C
SYN同期 特殊な同期文字(SYN)を使用して通信の開始を示す
  • フレーム同期が容易
  • オーバーヘッドが少ない
  • 同期獲得に時間がかかる場合あり
  • 同期式データ通信
  • バイナリ同期通信
  • IBSCプロトコル
フラグ同期 特殊なビットパターン(フラグ)でフレームの開始と終了を示す
  • ビット単位での処理が可能
  • データの透過性が確保できる
  • ビットスタッフィングによるオーバーヘッド
  • HDLC
  • PPP
  • フレームリレー
フレーム同期 データをフレーム単位で送信し、各フレームに同期パターンを含める
  • 複数チャネルの多重化に適している
  • タイミング回復が容易
  • フレーム構造が複雑になりがち
  • 同期損失時の回復に時間
  • TDM
  • SONET/SDH
  • 衛星通信

4. 応用例

 信号同期方式は、以下のような実際のシステムや業界で広く応用されています。

  • インターネット通信: パケットベースの通信では、ビット同期やフラグ同期が重要です。例えば、Ethernetフレームの送信時にビット同期を取ることで、正確なデータ伝送が可能になります。
  • 無線通信: 調歩同期がBluetoothや古いモデム通信で使用されます。スタートビットとストップビットを利用することで、低コストでの同期が可能になります。
  • 衛星通信: 衛星通信では、信号の遅延が大きいため、フレーム同期が非常に重要です。TDM技術を用いて複数のチャンネルを正確に管理します。
  • 高速シリアルバス: PCIeやUSB 3.0などの高速シリアルバスでは、位相同期ループ(PLL)を用いたビット同期が使用されます。
  • モバイル通信: 5G通信などでは、複雑なフレーム構造を持ち、複数の同期方式を組み合わせて使用しています。

5. 例題

 以下に、信号同期方式に関する練習問題をいくつか提示します。

例題1: ビット同期を維持するために、使用される技術はどれですか?

  1. 位相同期回路(PLL)
  2. フラグシーケンス
  3. スタートビット
  4. 終了ビット

a. 位相同期回路(PLL)

例題2: 非同期通信におけるキャラクター同期の例として最も適切なのはどれですか?

  1. フレーム同期
  2. 調歩同期
  3. SYN同期
  4. クロック同期

b. 調歩同期

例題3: フラグ同期に使用される一般的なビットパターンはどれですか?

  1. 01111110
  2. 00000000
  3. 11111111
  4. 01010101

a. 01111110

例題4: あるシステムでは、データ内に「01111」というビットパターンが検出されると自動的に「0」を挿入します。この技術は何と呼ばれますか?

  1. ビットマッピング
  2. ビットスタッフィング
  3. ビットインサーション
  4. ビットエスケープ

b. ビットスタッフィング

例題5: 大量のデータを高速に送信する必要があり、ノイズの多い環境で通信する場合に最も適した同期方式はどれですか?

  1. 調歩同期
  2. SYN同期
  3. フレーム同期
  4. 非同期通信

c. フレーム同期

6. まとめ

 信号同期方式は、データ通信において送信と受信のタイミングを正確に一致させるための重要な技術です。ビット同期、キャラクター同期(SYN同期、調歩同期)、フラグ同期、フレーム同期など、さまざまな方式が存在し、それぞれの用途や環境に応じて最適な方法が選択されます。

 ビット同期はクロック信号で最小単位のビットのタイミングを合わせ、キャラクター同期は文字単位の同期、フラグ同期は特殊なパターンによるフレーム境界の検出、そしてフレーム同期は複数データをまとめたフレーム単位での同期を実現します。

 これらの知識を理解することで、通信システムの設計やトラブルシューティングにおいて大きな助けとなります。また、試験対策としても、同期方式の違いや特徴、適用場面を正確に把握しておくことが重要です。

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