4.3. 多重化方式

1. 多重化方式とは

 多重化方式(Multiplexing)は、一つの伝送路を複数の通信で同時に使用するための技術です。この技術は、通信ネットワークにおいて伝送路の効率を最大限に活用するために不可欠であり、情報処理技術者試験においても重要なテーマの一つです。多重化方式を理解することで、限られたリソースを最適に利用する技術やその応用を深く理解することができます。

2. 詳細説明

 多重化方式にはいくつかの代表的な方法がありますが、それぞれ異なる原理に基づいています。以下に、主要な多重化方式について説明します。

2.1. FDM(Frequency Division Multiplexing:周波数分割多重)

 FDMは、伝送路の周波数帯域を複数の小さな周波数帯域に分割し、それぞれに異なる信号を割り当てる方式です。各信号は異なる周波数を使用するため、干渉することなく同時に伝送されます。アナログ信号を多重化する場合によく使用され、ラジオやテレビの放送で一般的に利用されています。

メリット:

  • アナログ信号の多重化に適している
  • 実装が比較的簡単で理解しやすい
  • 同時通信が可能(遅延が少ない)
  • 各チャネルが独立しているため、一部の障害が他に影響しにくい

デメリット:

  • クロストーク(信号間干渉)が発生しやすい
  • ガードバンドが必要なため帯域効率が低い
  • ノイズに弱く、信号品質が低下しやすい
  • 各チャネルの帯域幅が固定されるため柔軟性に欠ける

2.2. TDM(Time Division Multiplexing:時分割多重)

 TDMは、時間を短いスロットに分割し、各スロットに異なる信号を割り当てる方式です。各信号は順番に送信され、受信側で再び組み立てられます。デジタル通信において一般的に使用され、例えば、電話交換機で複数の電話通話を一つの回線で処理する際に使用されます。

メリット:

  • デジタル信号の多重化に適している
  • 周波数帯域の効率的な利用が可能
  • チャネル間のクロストークが少ない
  • 動的TDMでは柔軟な帯域割り当てが可能
  • デジタル処理技術の進歩により高速化が容易

デメリット:

  • 送受信の同期が重要で同期ずれによるエラーが発生しうる
  • 各ユーザーは割り当てられた時間スロットを待つ必要がある
  • トラフィックが少ない時間でも帯域が確保される(非効率的な場合がある)
  • バッファリングによる遅延が生じる

2.3. CDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重接続)

 CDMAは、異なる符号(コード)を用いて複数の信号を同時に同じ周波数帯域で伝送する方式です。各信号には異なるコードが割り当てられ、受信側ではそのコードを用いて特定の信号を抽出します。携帯電話の通信などで使用され、特にCDMA方式として広く知られています。(応用情報処理技術者試験のシラバスではCDMとして記載されています。)

メリット:

  • 周波数利用効率が高い(同一周波数で多数のユーザーが同時通信可能)
  • 固有の拡散コードによりセキュリティ性が高い
  • 干渉や妨害電波に強い
  • 周波数選択性フェージングに強い
  • ソフトハンドオーバーが可能(移動体通信で有利)

デメリット:

  • 複雑な信号処理(拡散・逆拡散)が必要で計算コストが高い
  • ニア・ファー問題(近くの端末の信号が遠くの端末の信号を妨害)があり、精密な電力制御が必要
  • ユーザー数が増えると干渉も増加し、システム全体の容量が低下
  • 実装が複雑で高価になりがち

2.4. WDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)

 WDMは、光ファイバー通信において異なる波長の光を用いて複数の信号を同時に伝送する方式です。各波長は独立したチャネルとして扱われ、光ファイバーの容量を劇的に増加させることができます。特に高速通信ネットワークで広く使用されています。

メリット:

  • 非常に大容量の通信が可能(Tbps級)
  • 長距離伝送に適している
  • 既存の光ファイバー設備を有効活用できる
  • 拡張性が高い(波長の追加が比較的容易)
  • 全光ネットワークの構築が可能で電気-光変換の遅延を削減できる

デメリット:

  • 装置(波長多重・分離装置、光増幅器など)が高価
  • 波長精度の管理が必要で技術的な複雑さがある
  • 温度変動などによる波長ドリフトへの対策が必要
  • 分散や非線形効果(四光波混合など)の管理が必要

図1: 多重化方式の概念図

多重化方式 メリット デメリット
FDM ・アナログ信号の多重化に適している
・実装が比較的簡単
・同時通信が可能
・クロストーク(信号間干渉)が発生しやすい
・帯域効率が低い
・ノイズに弱い
TDM ・デジタル信号の多重化に適している
・帯域効率が高い
・干渉が少ない
・同期が重要
・遅延が生じる可能性がある
・ピーク時の帯域不足が起こりうる
CDMA ・セキュリティが高い
・干渉に強い
・周波数利用効率が高い
・同時接続数の柔軟な調整が可能
・複雑な処理が必要
・遅延が生じる可能性がある
・電力制御が重要
WDM ・非常に大容量の通信が可能
・長距離伝送に適している
・拡張性が高い
・装置が高価
・波長の安定性が必要
・分散や非線形効果の影響を受ける

表1:多重化方式の特徴比較表

2.5. 多重化方式の比較と選択基準

 多重化方式の選択は、通信システムの要件や制約に大きく依存します。以下に、方式選択の際に考慮すべき主な基準を示します。

  • 必要な帯域幅: WDMは非常に大きな帯域幅を提供できますが、コストも高くなります。
  • 遅延の許容度: TDMは時間スロットを待つ必要があるため、遅延が重要な場合は注意が必要です。
  • セキュリティ要件: CDMAは固有の拡散コードによりセキュリティが高いため、機密性の高い通信に適しています。
  • コスト制約: FDMは比較的シンプルで低コストですが、帯域効率は低くなります。
  • 伝送距離: WDMは長距離伝送に適していますが、FDMは距離が長くなるとノイズの影響を受けやすくなります。
  • 同時接続数: CDMAは同時接続数の柔軟な調整が可能です。

3. 応用例

 多重化方式は、様々な分野で応用されています。以下にいくつかの具体的な例を紹介します。

  • FDMの応用例: ラジオ放送では、複数の放送局が異なる周波数で番組を配信しています。リスナーはラジオをチューニングして特定の周波数を選択することで、希望の放送を聞くことができます。ケーブルテレビでも同様の技術が使用されています。
  • TDMの応用例: TDMは、デジタル電話交換機やインターネット通信で使用されています。例えば、ISDN(統合デジタル通信網)やT1/E1回線では、TDMにより複数のデジタル音声チャネルが一つの物理回線で送信されます。
  • CDMAの応用例: CDMA技術は、第3世代(3G)の携帯電話ネットワークで広く利用されています。各携帯電話には固有のコードが割り当てられており、同じ周波数帯域で多くのユーザーが同時に通信できます。また、衛星通信や軍事通信でもその耐干渉性の高さから使用されています。
  • WDMの応用例: WDMは、インターネットバックボーン、海底ケーブル、メトロネットワーク、データセンター間の通信など、大容量データ転送が必要な場所で使用されています。DWDM(高密度波長分割多重)技術では、単一の光ファイバーで数十から数百の波長チャネルを実現し、数テラビット/秒の伝送容量を提供しています。

3.1. 多重化方式の組み合わせ

 実際の通信システムでは、複数の多重化方式を組み合わせて使用することがあります。例えば:

  • 携帯電話ネットワーク: 現代の携帯電話ネットワークでは、周波数分割多元接続(FDMA)、時分割多元接続(TDMA)、符号分割多元接続(CDMA)などを組み合わせた複雑な多重化システムが使用されています。5Gでは、OFDM(直交周波数分割多重)が中心技術となっています。
  • 光通信ネットワーク: WDMで波長を分割した後、各波長チャネル内でTDMを用いることで、効率を更に高めることができます。これはDWDM(Dense WDM)と呼ばれることもあります。

4. 例題

例題1

 以下の説明に当てはまる多重化方式を選んでください。

  1. 異なる周波数帯域を使用して信号を伝送する方式
  2. 時間を分割して各信号を順番に伝送する方式
  3. 異なる符号を使用して信号を同じ周波数帯域で同時に伝送する方式
  4. 異なる波長の光を使用して信号を同時に伝送する方式
  1. FDM(Frequency Division Multiplexing)
  2. TDM(Time Division Multiplexing)
  3. CDMA(Code Division Multiple Access)
  4. WDM(Wavelength Division Multiplexing)

例題2

 CDMAの利点と欠点を簡単に説明してください。

  • 利点: 複数のユーザーが同じ周波数帯域を共有でき、周波数帯域の効率的な利用が可能です。さらに、各信号が異なるコードで識別されるため、セキュリティが高く、干渉に強いという特徴があります。
  • 欠点: 受信側で複雑なデコード処理が必要であり、計算コストが高くなることがあります。また、ニア・ファー問題があり、正確な電力制御が必要です。ユーザー数が増えると全体の容量が低下する傾向があります。

例題3

 あるシステムでは1つの光ファイバーに40波長のWDMを適用し、各波長で10Gbpsの伝送速度を実現しています。このシステムの総帯域幅を計算してください。

総帯域幅 = 波長数 × 波長あたりの伝送速度 = 40 × 10Gbps = 400Gbps

例題4

 時分割多重(TDM)システムで8ユーザーが1つの伝送路を共有しています。各ユーザーは64kbpsの帯域を必要とし、フレームヘッダーが8kbpsを占める場合、必要な総伝送容量を計算してください。

必要な総伝送容量 = (ユーザー数 × ユーザーあたりの帯域) + フレームヘッダー
= (8 × 64kbps) + 8kbps
= 512kbps + 8kbps = 520kbps

5. まとめ

 多重化方式は、限られた伝送路を効率的に活用するための重要な技術です。FDM、TDM、CDMA、WDMの各方式は、それぞれ異なる原理に基づいており、特定の用途や状況に応じて最適な方法が選択されます。

 FDMはアナログ信号に適しており実装が容易ですが、帯域効率が低いという欠点があります。TDMはデジタル信号に適しており干渉が少ないですが、同期が重要で遅延が生じる可能性があります。CDMAはセキュリティが高く周波数利用効率が良いですが、実装が複雑で計算コストが高くなります。WDMは非常に大容量の通信が可能で長距離伝送に適していますが、装置が高価で技術的な複雑さがあります。

 実際の通信システムでは、これらの方式を組み合わせることで、それぞれの長所を活かしつつ短所を補完しています。近年では、5Gなどの最新の通信技術において、OFDMのような新しい多重化技術も注目されています。

 これらの技術を理解することで、通信ネットワークの設計や運用における柔軟性が向上し、より効率的な通信環境を実現できます。情報処理技術者は、これらの概念を深く理解し、適切に応用できることが求められます。

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